カントロフを聴け!

とにかく知人やピアニスト、評論家が口をそろえて「カントロフを聴け!」というので、昨夜聴きに行ってきました。アンコールを大阪で5曲、東京で6曲、名古屋では7曲演奏してしまうほどの柔らかい印象の美男の好青年なんだが、ピアノを弾き始めると、もはや悪魔という凄まじさがある!間違うことなどほとんどない凄腕なのだが、たとえ間違ってもこっちの方が正しいのではないかと思わせてしまうほどの魔性の説得力がある。
普通のピアニストは、楽譜に合わせて弾いていることが感じられるのだが、彼の場合は楽譜を弾いているというより、音をピアノと作曲者の魂を通じて取り出しているかのような印象さえ感じるのだ。
この感じを覚えたのは、五嶋みどりさんのヴァイオリン以来だと思うし、ピアノでこんな感覚になったのは、私がコンサートに行った中ではほとんどない。ランラン、アシュケナージを聴いてもここまでの感覚はなかった。
だから、ピアノ愛好家の人は是非聞くべきだと思うのだが、これからピアノで世界に出て行こうという人は聴くべきではないかもしれない。
なぜかと言えば、凄まじすぎて、どうしたらそこに到達できるのか皆目わからないと思えるからである。こういうピアノを弾きたいと思っても、方法がわからなければ、絶望しかない可能性が高い。
ユジャワン、ランラン、アルゲリッチも確かにすごい演奏をするが、指が回れば(実際は不可能だが)何とかなるかもしれないという希望はある。しかし、彼のピアノはそういう希望を感じさせないのだ。まさにナチュラルに彼であって、彼以外には無理なんじゃないかという感想を持つしかないから、悪魔という印象を持ったのである。

プログラムも独特で、いわゆる馴染みのある聴きやすい曲を混ぜ込んでというものではなく、私はこれが弾きたい、こういう世界観で演奏するという確固たる信念を感じるものなのである。私はプログラムの詳しい解説ができる知識など欠片も持っていないので、気になる人は専門の方の解説をどこかで探してください。
残念ながら、名古屋の会場には空席がかなりあった。東京はほぼ満席であったと聞いているので寂しい限りだが、これが名古屋のクラシック界の状況なのだろう。いい席がとりやすくていいのだが、角野隼斗×亀井聖矢が満席で、これが空いているというのはどうかなあと思うところでもある。
次回はいつか分からないが、言えることは唯一つ
「カントロフを聴け!」

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