危機管理投資は最大の経済政策


(初稿:2022年12月24日)
経済安全保障に関する見識を養うことをライフワークにしている以上、当行政のトップの考えに触れておかねばと思い手に取ってみました。
かねてから政策・意気抜群の数少ない政治家として勝手ながら私淑している政治家の一人です。安保、サイバー、科学技術、、と日本国の安危に係る重要論点をあまねくも、おそらくそれぞれ相当な時間を使って研究をされていると感じます。
1.       危機管理投資/成長投資という新たな政策観、
2.       中国リスクを念頭にした経済安全保障の論点、
3.       サイバーセキュリティに関する日本国における欠陥機能への考察、
4.       地方、生活者視点における現実に根差した問題意識、
おそらく相当数の立法作業に専心されてきたせいか、今次必要な事と大局観のバランスを伴いながらリアリティのある政策観に触れる事できる一冊です。

危機管理そのものが成長戦略

いつぞやの総裁選における公約会見でその考えに初めて触れましたが、危機管理投資こそが最大の経済政策という発想は、日本の国土、気候環境、地政/地経学的な特性を考えれば、とても良いセンスだと感じたのを憶えています。
地政・地経学的な位置づけと先進国トップクラスのスピードで少子高齢化が進む日本国の状況を考えれば、社会インフラ増強/メンテナンス、軍事産業の再興、それらを支える日本が得意な素材工学・開発といったマテリアル技術、機械製品の製造技術、それらすべてに通底する技術的な発展基盤としての情報通信技術の活用、関連する知財保護や人の育成と、まさに危機管理投資に係る対処テーマは多岐にかつ裾が広く、産業政策的にも日本国にとって持続性のある成長戦略にもなりうると感じます。
とかく成長戦略というと、デジタルだ、イノベーションだ、グリーンだ、と、耀げな片仮名が並びそうですが、危機管理というむしろこ地味な漢字6文字こそが産業振興・経済成長に資する日本人にとって最重要アジェンダだろうと思います。

日本の先天的何重苦

そもそも日本人は長年様々な”危機”と向き合ってきました。今なおそうです。

  • 複数の大陸間プレートの接合点で常に大地震に苛まされ、

  • 年々威力を増す台風の通り道にあり、

  • 白人達によって核・焼夷弾という殺戮兵器の実験場にされ、

  • 能力はさておき意思の怪しげさだけは確かな独裁/専制的な核保有国3国に囲まれ、

  • 1億人をも超える人が社会経済活動を営み、

  • しかしそれを支える安定的なエネルギー資源が無い、

挙げればきりがないほどの先天的な何重苦と共に生きているのが日本国でしょうし、その苦に耐え生き抜くというのは我々の性の様なものでしょう。
よくもまぁ2000年余も、この日本という国体、そして国土に住む人々の営みが続いているなと、我ながら感心するばかりです。

弱みは最大の強み

個人のレベルでも、背丈の高低、面構えの美醜、根明根暗、、誰しもどうしても抗えない先天的な何かがあると思います。皆その差によるビハインドを覆い隠すか、また乗り越えようと、背が低い者は誰よりも服装や髪型にはこだわってみたり、見た目に劣る男の子はスポーツや勉強を頑張り異性の注目を求めに行ってみたり、、皆工夫するわけです。時にそれはうわべの体裁をいじっているだけの様ですが、しかし工夫も極めると技術になります。自らを高めようとするその技術が人格を創り個性を磨きます。
一見この”先天苦”は忌み嫌うべき対象の様ですが、この”苦”こそが日本人の知性や技術力を高めている原動力ではないかと思うのです。
広大な国土を持ち、困らないほどのエネルギー資源と人口を有する国の大味のパワーゲームの中では得る事のできない技術力が我々にはあるはずです。

この日本の先天苦を乗り越えるための科学技術に投資し伸ばすべきだと思います。それは日本人の生存戦略でもあるはずです。
エネルギー資源に常に悩まされる地理先天的な弱みを負った日本だからこそ、原子力学、核融合技術を発展させて欲しいし、
怪しげな国に囲まれているという地政先天的な困難があるからこそ、衛星技術を活用した監視網・サイバーセキュリティ技術では世界トップクラスであって欲しいし、
なぜ、そう熱願するかと言えば、日本、日本人にはそれができる後天的な強みがあると感じざる得ないからです。

我々は自然科学分野で全欧州人が獲ったノーベル賞と同数以上のそれを獲った学知的探求力と、その礎となる繊細な思考力、つまり小さな事から大局を読み取る様な知覚や知的素養を培ってきたはずです。おそらく日本は今までもこれからも、物理的な資源をスケーラブルに獲に行くようなパワーゲームの巧者にはなり得ないかもしれませんが、しかし少なくとも今までは知力によって技術によってパワーゲームの勝者と互してきたわけです。弱みを克服するだけの力はもはや強みになっているのです。


最後に、経済安保を論じると常に出てくる論点が、グローバリズムか保護主義か、といった安全保障の観点と経済合理性が背反するというのがしばしば聞かれます。各論的には色々な所見はあるのでしょうが、本書中に某学者の言葉を引きながらとても明快に答えてくれていますので引用してみます。

「科学に国境はない、しかし科学者に祖国はある」、まさに「事業に国境はない、しかし企業に祖国はある

本当に、それ以上でも以下でもなく、我らの行動原則もかくあるべしと。



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