5/26読書フェス ピラフ購入者特典



"ko ix tuwa oredha!"
サンダル•エビオ





「キットカット」や「ばかうけ(青のりしょうゆ味)」などが最適だろう、個包装だから。異星人の口に合うだろうか、口があればの話だけれど。
富士宮市の「おかしのまちおか」で配り菓子を吟味するカナコ。地球から参加するのだからこれも欠かせない、最後にカゴに入れたのは地球グミの袋(5個入り)。

オリポピアンジャズジャンボリーのフードブースでピラフ屋の出店をすることになったバー•オールドバス。店のドアには、ザントル・ヴェリシュ・エクセティ社(ZVE社)の三つ銀河シール。
ZVE社とは、地球でいうミシュランタイヤのような会社である。宇宙船の動力の一つ、反重力装置のメーカーだ。自社の装置を使用し、宇宙旅行をする顧客向けにガイドブックを発行している。
立ち寄るべきレストランを雰囲気、味、環境への配慮など様々な観点から調査し、評価の高い店には銀河シールを贈る。この銀河シールの銀河の数で店の格式や評価が決まるという。

地球では、ZVE社の銀河シールを取得した店は三軒しかなく、オールドバス以外では、南インドのパナジのフィッシュカレー屋とインドネシアのデンパサール市場のふりかけご飯屋。
いきなり三つ銀河を取得したのは、周囲の銀河を含めてバー・オールドバスが初めての快挙だった。よくて二つ銀河、大抵は一つ銀河から始まる。

今回のフェス出店の話はZVE社からの依頼であった。地球からオリポピアはかなり遠いので、地球人が気軽に行くのは不可能に近いことと思われたが、提供するフードの容器にZVE社のロゴをプリントすること、参加後にアンケートに回答することを条件に、ZVE社から最新の反重力装置の提供を受け、実現可能となった。
その装置は、だいたい12時間以内で宇宙の果てでもどこにでも行けるという。
地球でいうと、成田(ドバイ乗り継ぎ)からカサブランカへ行く時間よりも早く宇宙の果てに着いてしまう、というこれまでの技術を刷新するような画期的なものだった。
銀河中の宇宙人にとっては、喉から手が出るほど欲しいもの。問い合わせは殺到し、今現在、注文すると納品待ち300年。
ヒロキとカナコが提供を受けたのは、限定色Galaxy heartful blue。バスの色に合うようにと、ZVE社の粋な計らい。銀河フリマアプリでは、3世代は高級リゾート惑星で楽しく暮らせるくらいのセニュリアで取引されている、人気のレアカラーだ。良い話には裏があるものだが、この時は2人は知る由もなかった。この話を最後まで読んでくれれば、その理由が深くわかるだろう。

常連客や宇宙人の協力を得て、反重力装置を取り付けたオールドバスは、ピラフの材料の詰まったコンテナをバスに連結させ、はじめての宇宙旅行へ。
今回の同行メンバーは、ヒロキとカナコのほか、地球人からの同行者として、店の常連客ラッパーのマルヤ(彼はこの旅での体験をきっかけに、ラップのクラッシックを4曲作ることになる。)それから、日本酒売りのスズキ(彼としきたり星人との長い戦いはこの旅がきっかけで始まる、そのことは、とにかく長いので、この話では割愛する。)宇宙人からは、陽気な宇宙妖精マシュマロ(他の生物の記憶や気持ちを読み取れる特殊能力、拳法の使い手)それから、前回の話に登場した宇宙人親子のゼオとリオ、地球での通り名は、"オヤ"と"コ"と名乗っている。(日本語の親子という言葉の語感を気に入ったそう)の合計7名。
ヒロキは、黒澤映画の『七人の侍』が好きなので、7人集まれば大抵のことはできると思っている。
以前、オヤとコに地球に来たなら見た方がいいと『七人の侍』を勧めて見せたことがあった。2人は興味深そうに見たのちに、三船敏郎演じる菊千代が、野武士に致命傷を負わされ逃げてきた儀作の嫁から託された赤子を抱きながら言うセリフ「こいつは俺だ!」の発音が、ちょうど、"みんなありがとう!"を意味する最上級の言葉、オリポピア南部訛り"ko ix tuwa oredha!"と発音が同じことに驚いた。

地球外の技術で宇宙船に改造されたブルーのバス。ZVE社の反重力装置が起動、白い雲がバスを覆い、虹色の光を放つ。目的地は、オリポピアの集合星の一つ、フェスの星。地球から2時間半くらいで着く。
その星は、星自体が音楽フェスティバルの会場となっており、4億年音楽が鳴り止むことはない銀河の平和の祭典が続いている。しかし、もしその音楽フェスティバルの演奏が途切れたり、音が止まった途端、銀河大戦争が起こってしまうという、かなりセンシティブな状況にある緊迫のイベントだった。

バスの窓から見える地球は青く、どんどん小さくなってゆく、それから、遠くの星々を眺めたり、隕石がぶつかりそうになってハラハラしたりと、いわゆるオーソドックスな宇宙の旅を楽しんだ。
オリポピアの星々が見えてくる。オリポピアは無数の星々の集まりで、その中の一つが会場の星だった。
反重力装置が音を変え次第に減速し、着陸モードに入る。バス内は至って快適。グラスが割れることもないし、バーの酒瓶一つ微動だにしない。
もし、着陸時に宇宙船の中のものが壊れるようなことがあった場合、ZVE社のカスタマーサービスに電話を一本入れれば、すぐに保証が受けられる。それくらい技術に自信があるという。地球でいうと、ZVE社の技術は、風の強い日に、綿毛のタンポポが一つも種を飛ばさずに、倒れずに、そこに佇んでいるような自然の摂理に反するようなこと。

フェス会場の入場ゲートで、一行は厳重なチェックを受ける。セキュリティーたちは、当初、問題や隠し事を暴いてやる、というような高圧的な態度だったが、オールドバスに取り付けられた最新の反重力装置を見て、羨望の眼差しとともに急に態度を軟化させ、紳士的なかしこまった対応に変化、滞在の許可はすぐに下りた。蛍光グリーン色のパスが配られる、手首に取り付けるタイプの地球のフェスと同じような感じだが、霞のような気体と固体の中間のような素材でできている。ヒロキだけは、なぜかオレンジ色のパスが渡される。運営の手違いでグリーンのパスが一つ不足していたのか、または、元々誰かからの指示があったという可能性もある。

フードブースの出店場所に着きバスを停車。バスの前にピラフ屋台を出すというスタイルのため、インパクトは十分。ピラフ屋台の準備の前に、カナコは、他のフード出店をする宇宙人に地球のお菓子を配った。
ヒロキはまずフェス会場をぶらぶらすることにした。『宇宙生活雑貨ハル』(宇宙で生活するためのマストアイテムを販売、ほぼすべてAIが搭載されている、AIは同じ道具でも、癖や性格がそれぞれ異なる、とっておきの一つを見つけよう)、『重力ハニカム堂』(色々な星、多様な言語で書かれた本を販売、宇宙の膨張に合わせて棚が増え続ける、この店の本はなぜか全て重い)『電(いかづち)ブラックホール』(存在しないけど存在してるもの、奇跡や天気、夕方、夜空など概念を売る)このように、様々な宇宙の技術が集められたとっておきの屋台が並ぶ。ヒロキは、一軒の屋号不明の謎雑貨屋台で足を止める。その店は、不思議な宇宙雑貨で溢れていた。特に気になってヒロキが思わず購入したのは、「惑星飼育キット」。(このキットについては、後ほど登場予定)セニュリアで支払う。(バー・オールドバスは、多くの宇宙旅行者のニーズに対応するため、セニュリア支払いにも対応していた。これは、ZVE社の三つ星銀河取得の評価ポイントの一つだった。)

買い物を楽しむヒロキの元に慌ててフェスの運営スタッフがやってくる。話(テレパシー)を聞くと、ヒロキが渡されたオレンジ色のパスは、出演者用のものだという。蛍光グリーンはブース出店者用の色だという。オレンジのパスを持っている者は、ステージで演奏をしなければいけないとのこと。(出演者には様々な特典が用意されており、出演者だけが使用できるラウンジでは、くつろいだり、他の出演者と交流したりできる。また、料理は食べ放題。それから、使うたびに専任が清掃をする出演者専用のトイレが使用可能。)
ヒロキの出番は6時間後、タイムテーブルには既に名前が入っていた。

決して前後の演奏者の音の間に無音を作ってはいけないということ。それから、フェス成り立ちの歴史、音を止めた場合に発生するリスクについて、などなど、映像付きのテレパシーで一通りのレクチャーを受けた。ヒロキは自分はフードブースの出店者だということを伝えたが、オレンジのパスを持っていることが出演者の証拠であり、偶然だとしても、オリポピアの神の選択には誰もが従わなければならない、それから、オリポピアの神話を解説する長い映像つきテレパシーも脳に直接送り込まれた。その説明を聞き終え、オリポピアの思想に触れたヒロキは自分はステージに立たなければならないということを深く理解した。
スタッフからは、一通りの説明を受けたということを証明する書類にサインを求められる。"分かりづらかったことがあればもう一度最初から説明しましょうか"ヒロキはこれ以上、テレパシーで長い説明映像を見せられるのは辛かったので、観念し、書類にサインした。テレパシーはまだまだ続く、ライブに向けての打ち合わせテレパシー、使用機材の確認テレパシー、ヤマ、クリスタリウス、ヌジャンナ、マタールなど知らない楽器の映像を見せられ続け、ようやく見慣れた地球の楽器ピアノがテレパシーで脳内に表示されたので、自分の楽器はピアノだと伝えた。オールドバスの中に使い慣れたCASIOのキーボードがあったのでそれを使えばいいと考えた。スタッフは、"演奏を楽しみにしてる!"とヒロキに応援テレパシーを伝えて、運営テントの方に戻って行った。

ヒロキは、テレパシーで大量の情報を送り込まれたので、脳みそが疲れて、しばらくぼーっとしてしまったが、はやくバスに戻らないとと我に返る。次第に、今回の事態を実感として理解に至り焦った。オリポピアンジャズの経験はなかったし、そもそもヒロキはフェスの大舞台でピアノを披露するほどの演奏力が自分にはないと思っていた、かといって、このまま出演をせずにいたら、この銀河がとんでもないことになる、銀河戦争が始まってしまったらずっと後悔するだろうし、何よりも、無事にみんなで地球に帰れる保証もない。大きな決断をしなければならないと感じた。
出演者だけが使える特別なトイレに寄り、心を落ち着かせることにした。ドアボーイが扉を開ける。扉の中に入ると、目の前に広がっていたのは、広大な自然、美しい景色。中央に設置されているのは、どんな体型の宇宙人でも快適に使用できるような、この世に存在していることが奇跡といえる理想の形の黄金の便器が一つ。宇宙で最も静かで清潔な場所だった。トイレから出ると、ドアボーイは笑顔でヒロキを見送ると、扉の前に、"cleaning"を意味する宇宙言語が書かれた看板を置き、扉の中に入りトイレの清掃を始めた。出演者用のトイレを使用したことで、自分は出演者なのだとようやく実感できた、悪くなかった。
(後日、このトイレでの心の変化のエピソードをヒロキから聞いたマルヤは、その話をモチーフに、美しいラップ曲"Cleaning"を作ることになる。)

フードブースまで戻ると、他のみんなは、ピラフ屋台の準備を始めていた。どこいってたの、とカナコやスズキに文句を言われる。マルヤとマシュマロは隣のブースのスムージー屋台の長蛇の列に並んでいた、なんの味にしようか話し込んでいる様子。
自分はフェス出演者であり、自分はブース出店者ではないということ、自分がステージに立たなければ銀河で戦争がおこってしまうということをカナコに説明するヒロキ。何の冗談を言っているのか、それより準備手伝ってよ、と全く理解されなかった。こんな時テレパシー映像が使えたらな、とヒロキは思った。
その時、オヤとコは、「私たちには、良い提案があります」とヒロキに言う。ヒロキは「お!」と思った。オヤとコには、話がちゃんと理解されていたこと、それから、良い提案があるといわれ、少し安心した。以前も宇宙の技術で助けてもらったことがあるので信頼していた。

スズキは、ピラフ屋ブースの開店の儀式を行うことにした。スズキがとっておきの日本酒を熱燗でつけてくれたので、それを皆でクイっとやる。違う星では酔い方もその星ならではだった、これはうまい。近くにいた宇宙人にも酒を配る。お近づきのしるし。日本酒を知らない宇宙人はこの飲み物を一口飲むとおしゃべりが止まらなくなったり、急に笑い始めたりと、反応は様々。(このことが、しきたり星人とスズキとの長い戦いのきっかけとなるのだが、このことは今回は割愛する)

ヒロキにオヤが言う「これです」ポケットから取り出したのは、小さなピラミッドのようなもの、光のプリズムが表面を覆っていた。どんな仕組みなのだろう、宇宙人の高い技術力に関心した。
"そんな関心してる場合じゃないですよ"とどこかからか伝わってくるマシュマロのテレパシー。マシュマロは、マルヤと一緒にまだスムージーの列に並んでいたが、ヒロキの心を読んだマシュマロはこの事態を把握していた。

オヤの出した装置は、10分で10年分の楽器練習ができる(しかし、老化はしない)という装置だった。
バスに連結しているコンテナは、屋台やピラフ機、食材を移し終えて空だったので、そこを音楽スタジオにすることにした。ヒロキはオールドバスの備品Casio SA-35 (大人から子供まで手軽に弾けるミニキーボードだ。音色は25音色×4バリエーションは、計100音色、リズム・伴奏・ファーニー×24パターンと、楽しさいっぱいの楽器。昔カナコが進研ゼミの赤ペン先生のテストで貯めたポイントで交換してもらったもの。右上にベネッセのマークが印刷されている。)を手に持ちコンテナの中に入る。

ピラミッド型の装置を起動させる。光の束がピラミッド型の装置の先端からヒロキの目の中に入ってゆく、過去を思いだす、幼少時に習っていたエレクトーンの思い出、思春期に聴いたルイ•アームストロング、ビル・エヴァンスなどなど、最近の記憶としては、ジャズトラックに合わせてラップを披露するマルヤ、記憶の中で、何かに触れるヒロキ。オリポピアンジャズの真髄が少しずつ体に染み込んでゆく。

オールドバスのピラフ屋台が開店したが、ヒロキの姿はなかった。カナコはヒロキの姿が1時間ほど見当たらなかったので、どこかでサボっているのかと、怒っていた。コンテナでジャズの練習をしていることを知らなかったのだ。

ここで食べ逃したらもう一生食べれないような気がする、そう考えた色々な宇宙人がピラフ屋台に並ぶ。店は大繁盛、セニュリア払いにも対応。オヤとコは、宇宙人の技術でピラフを作る専用機械"ピラフ機"を用意していたので、ボタンを一回押せば200食くらい自動で作れる便利な機械だった。それを使ってピラフを大量生産する。ピラフと共に、日本酒を売るスズキ、ピラフを売りながらラップを披露するマルヤ、マシュマロは色々な宇宙人の心を読んでは、邪悪なものが寄ってくる度、撃退した。バスの反重力装置を盗もうとしてくる奴らには、マシュマロ拳法で容赦なく痛めつける。これを盗まれたら地球に帰れないからだ。
(このときのマシュマロのことをテーマに書いたマルヤのクラッシック"これを盗まれたら地球に帰れない"という曲は、このときのことを歌にしたもの。)

ヒロキが出る時間帯に本来出演するはずだった宇宙人アボカド3世は、この日のために50年オリポピアンジャズを毎日練習してきた。アボカド家は代々このフェスで音楽を演奏してきた家系で、フェスで演奏することでようやく一人前と認められる、初めての大きな舞台だった。タイムテーブルのバッティングを知り、ヒロキに怒りをぶつけるため、オールドバスへやってくる。
マシュマロと少し喧嘩になったが、心を読み事情を知り、マシュマロはテレパシーでみんなに伝える。カナコは、事情をようやく理解した。
先ほどのヒロキの話が冗談ではなかったこと、ヒロキがコンテナでオリポピアジャズの練習をしていることを知った。

カナコは「キットカット」をアボカド3世にあげた。アボカド3世は見慣れぬ地球のお菓子の甘さに心を奪われ、優しい気持ちを取り戻す。
ちょうど、練習を終えたヒロキが出てくる。装置のおかげで、60分(60年相当)の練習を経て、なにかオリポピアンジャズの真髄にたどり着いたというような顔だった、これまでのヒロキとは何か違った。アボカド3世とヒロキは見つめ合うと、各自楽器を取り出してセッションを始める。互いの出す音から前向きな直感を得た、自然だった。2人にもう言葉はもういらなかった。

音楽で意気投合したヒロキとアボカド3世は、せっかくだし一緒にやろう、ということになる。アボカド3世の楽器は、重低音を出す壺だ。壺の中は小さなブラックホールになっており、壺の傾き加減で、様々な星々の唸り声がでるという彼の星の伝統楽器。バンドメンバーになった証にカナコはアボカド3世に地球グミをあげる。

オールドバスのピラフ屋台の隣りには二億年続く老舗スムージー屋。いつも人気で長蛇の列。甘い凍らせた宇宙各地のフルーツをミキサーで混ぜてスムージーを提供する店だ。マルヤとマシュマロが並んでいた店だ。その店の息子のQちゃんは、フェス会場の星で生まれた。生まれた時から音楽を浴びながら暮らしていた。だからオリポピアンジャズのリズムが自然なものとして体に染みついていた。ヒロキとアボカド3世のセッションを聴いて、思わず店の手伝いをほったらかしてやってきた。彼が3人目のメンバーである。担当パートは、スムージーマラカス。振るたびに透明なマラカスの中に詰まったスムージーが七色に光る。Qちゃんはそれを器用に振り独特のグルーヴを作り出す。ガラス容器とスムージーの動きが連動して、笛のような音色が出る。中身の味を変えると音が変わるそう。メンバーになった証にカナコはQちゃんに地球グミをあげる。
それから、お忍びできていたオリポピアンジャズ界の超大物、クリスタリウス•ブタスキーもヒロキのバンドに参加することになる。担当楽器はクリスタリウス。老舗スムージー屋の常連。"ふと飲みたくなるんだよね"Qちゃんとは顔見知り。ヒロキとアボカド3世、Qちゃんの練習を聴いて、最近の若いのにしては面白いな、とやってきた。最近はめっきり演奏をしなくなったが、カナコからもらった地球のお菓子「ばかうけ」が美味しかったので、ばかうけ一袋をギャラに手伝ってくれることになった。メンバーになった証にカナコはブタスキーにも地球グミをあげる。
宇宙人コは、カナコの配る地球グミがどうしても欲しかったので、バンドに得意のダンスで加わりたいと、遠慮しながら、ヒロキに相談。ぜひやってよ、ヒロキの快諾。メンバーになった証にカナコはコに地球グミをあげた。

バンドメンバーの誰もが地球グミに感動していた。口の中でプラスチック容器を噛み中身を飛び出させて食べるという食べ方が最高にクールだと思った。一袋5個入りの地球グミ。最後の一つは、バンドのリーダーヒロキのものだ。カナコはヒロキに地球グミをあげる。こうして、メンバーが揃った。

出演者時間までまだ3時間ほどあった、バンドメンバーは、コンテナに入り、本番までの時間をピラミッド装置を使って、セッションをし続けた。

ヒロキが買った「惑星飼育キット」について少し書こうと思う。好きなものを惑星にできるという実験キットだ。宇宙人の子供の夏休みの自由研究の定番、地球でいうカブトエビ飼育キットみたいな感じ。
練習の合間の休憩中に、ヒロキは、カナコからもらった地球グミを使って、擬似地球を作り出そうと思いつく。グミ地球を一人前の星に育て上げ、バー・オールドバスに飾ったらいいんじゃないか、と考えた。キットの箱を開封し、説明書には日本語のページもあったので、それを読み、手順に従って、付属の液体を順番にケースに入れて混ぜる、最後に地球グミを入れる。ケースに入った薄紫色の液体の中で浮かぶ地球グミ地球。

とうとう出番がやってくる、ヒロキたちはステージの方へ向かう。見守るオールドバス一向、カナコは少し心配していた、日本酒を宇宙人と飲み交わし肩を組むスズキ(このことも、しきたり星人との争いの一因、今回は割愛する)マシュマロはヒロキの心を読み、これから始まるライブは伝説になるだろうと予感する。合計練習時間、およそ200年。ヒロキの心はオリポピアンジャスの解釈や思想に満たされ、自信に満ち溢れていた。マルヤは、本当は自分もバンドにラップパートで参加したいと思っていたのだが、声をかけられなかったので、少し複雑な気持ちだ。(マルヤは地球に戻ってから、この時の気持ちをラップにした一曲"声をかけられなかった"は切ないピアノをサンプリングした落ち着いたトーンのラップ曲、人気の一曲)

ステージに登るヒロキ、空では無数のオリポピアの星々が浮かんでいた。空は黄色だったり、緑だったり、スムージーみたいに流動する。前のバンドの演奏の終わりに、ヒロキはバンドメンバーと目でサインを送り、カシオトーンのファニーのボタンを押す。内蔵音源が自動再生される、彼らの演奏が始まった。

フェス会場のPAが、フェーダーのつまみを上げる、その機材はミキサーではなく、実は地球を破壊する電磁波の発射装置だった。
ヒロキはカシオトーンを弾き、ブタスキーとの即興の掛け合い、アボカド3世の壺から星々の唸り声が響く、Qちゃんのマラカスが軽快にリズムを刻む。演奏に合わせて自由にステップを踏むコは、全宇宙の調和と混沌の狭間にあるこの今の演奏をダンスで体現する。ダンスなのに音が聞こえる、この時、コは存在自体が一つの音を出す楽器だった。
何十年、何百年と積み重ねてきたセッションから生まれた彼らの信頼が音となって現れていた。
そのとき、『ぽん!』とヒロキの惑星飼育キットの中の地球グミが小さな音を立てて消滅する。故郷を失う悲しみこそが、オリポピアンジャズの真髄と考えていた主催者の宇宙人の仕業だった、ミキサーを電磁波発射装置に変えていた。装置はヒロキが培養していた地球グミ地球を本物の地球と間違えてしまったというわけだ。
ヒロキの地球グミはすでに、惑星飼育キットの中で、本物の惑星として成長をはじめていたし、地球グミの中には、マグマを模した赤いシロップが入っていることも、本物の地球とそっくりだったので、間違えてしまったのだ。
こうして、オールドバス一行は、また知らないところで地球を救っていた。

伝説のセッションは、スリリングすぎて、初めて聞くけど懐かしい音、誰もが虜に、奏者の表情も良かった、存在が輝く光、眩しいけど心地よく、これまでとこれからが大きく変わってゆく予感、幾何学と有機体の戯れ、方向は全ての向きを指し示すような感触、楽器の得体の知れないリズム、音色、グルーブが絡み合い、スリリングに進む、ジャングルで人知れず咲き、枯れる美しい花、オリポピアンジャズの魂が彼らの演奏から溢れていた。天気を変え、星々を動かし、すべての時間が一つに集まる。演奏を聴く観客は、こう感じた。宇宙に性別があるとしたらそれは女性なのかも知れない、なんとなくそんなことを誰もが感じ取った。そこには真実だけが存在していた。

演奏の終わりごろ、観客に向けてヒロキは叫ぶ。

"ko ix tuwa oredha!" (みんなありがとう!)

観客もそれに応える。

"ko ix tuwa oredha!" (みんなありがとう!)


観客の歓声や喜びのテレパシーが会場を包む、今日のためにヒロキは自分たちの言葉を練習してくれていたんだ、と、ヒロキの正確な"ko ix tuwa oredha!" (みんなありがとう!)の発音に涙するものも、涙腺が眉間にある宇宙人は、額から涙を噴射する。光が反射して虹をつくる。

ヒロキたちの音楽が鳴り止む前に、音楽が途切れないように、次の演奏者がその熱狂を引き継ぎながら演奏を始める。カナコは、ヒロキが演奏中にピラフブースの宣伝MCを入れてくれなかったことに不満があったが、素晴らしい演奏に感動していた。
(ヒロキたちの演奏をスマホで録音していたマルヤは、地球に戻ってから、それをチョップして、スクリューし、それにラップをのせた。曲のタイトルは、"ko ix tuwa oredha!")

一行はバンドメンバーや他の出番を終えた演奏者とともに、互いのライブの成功を祝福しあう。食べ放題の食事、美味しい飲み物、ピラフやスムージーもある、1番人気はスズキの日本酒、楽しい時間を過ごす。パーティを抜け出して、ヒロキは水槽の地球グミの様子を見に行った。成長を楽しみにしていたのだが、地球グミがなぜかなくなっていることを残念に思ったが、理由はわからなかった。

オールドバス一行が地球に戻る時間がやってきた。長い間セッションを繰り返したバンドのメンバーとの別れは名残り惜しかった、家族も同然だった。できることなら、ずっとあのまま一緒に音楽をやっていたかった。今日のことは忘れないよ、またやろう、再会を誓う。ブタスキーは疲れたから家に帰るといってそそくさと帰ってしまったが、ブタスキーはヒロキの演奏にかつてのバンドメンバー、ニキス•グリの姿が重なり、郷愁にとらわれて昔を思い出していた。
出会いと別れこそがオリポピアン・ジャズなのだ。

ピラフの材料やコンテナはフェス会場に残すことにした。ピラフ機を受け継いだQちゃんが、実家の隣だしということで、店を続けるという。アボカド三世は、演奏をやりきったら好きなことをしていい、と父親から言われていたので、ピラフ屋を手伝うことにした。開店にあたり、2人がまず最初にしたことは、コンテナには青いバスの絵を描くこと。バー•オールドバス2号店の誕生である。

その後、ヒロキとカナコは地球に帰ってから、ZVE社からの細かい面倒なアンケートで、非常にうんざりすることになる。
ヒロキとカナコがどれほどうんざりしたのかを深くご理解頂きたく、実際のアンケート(全108問)の冒頭15問を下記に引用し、この話を終えることにする。ちなみに、2人は、7問目に関してだけは、思い出に浸りながら、楽しく回答を考えることができた。

ZVE社反重力装置アンケート

1. 装置の重さについて
反重力装置の重量をどのように感じましたか?

2. 色について
 今回ご提供させて頂きました反重力装置の色Galaxy heartful blueは、どのように感じましたか?(例:色合いの鮮やかさ、色の深みなどについて具体的に)

3. 音について
反重力装置が作動中に発生する音について、音の周波数やデシベル値について感じたことを書いてください。

4. 使用時間について
 反重力装置を1日平均何時間使用しましたか?使用中に気づいたことをできだけ細かく教えてください。

5. 気温の変化について
 反重力装置を使用する際に気温の変化を感じましたか?感じた場合はどう感じたか、感じなかった場合は、感じなかったと感じた理由を考えて書いてください。

6. 移動距離について
  反重力装置で移動した距離を具体的に答えてください。また、その移動時間を答えてください。

7. 旅の感想
反重力装置を使った旅の感想を述べてください。旅の中での印象的だったこと、感じたこと、旅の中で出会った人のことなど。

8. 着陸時について
反重力装置を搭載した宇宙船の着陸時の振動について教えてください。また、揺れを感じた場合、その時の様子を詳しく記述してください。また、万が一、船内のものが壊れるといったことが起こった場合はカスタマーサービスまでお問い合わせください。当社の提供する迅速な保証を受けることができます。

9. 素材感について
反重力装置の素材感について、手触りや起動後の様子など、具体的に感じたことを書いてください。

10. 期待との比較
反重力装置を使用する前に抱いていた期待と、実際に使用してみての感想を詳細に比較して書いてください。

11. 装置の取り付けについて
反重力装置の取り付けに関する感想を、特に使用したツールの種類や施工時間などの情報と共に具体的に答えてください。

12. 他の装置との比較
これまでに使用したことのある他の反重力装置と比べて、ZVE社の反重力装置の特徴や違い、良い点、悪い点など具体的に述べてください。また初めての使用の場合は、他の乗り物との比較をし、良い点、悪い点を具体的に述べてください。

13.改善点について
ZVE社の反重力装置について、改善が必要だと思われる点を具体的に挙げ、その理由を詳しく述べてください。

14. 追加機能の要望
反重力装置に追加してほしい機能があれば、具体的に述べてください。また、その機能がどのように役立つかも含めて説明してください。

15. 反重力装置の名称について
反重力装置の名称について、他に適切な名称があるとしたらどのような名前が良いと思いますか?理由も含めて具体的に述べてください。


2024年5月25日 脱稿

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