見出し画像

「平安のテラスハウス」源氏物語を読んで面白かったこと

与謝野晶子訳「源氏物語」読了しました。合計56帖あり、ちびちび読み進めてったので8ヵ月もかかりましたがいろいろ面白かった&突っ込みどころ満載の素晴らしいエンタメだったので忘れないうちに面白ポイントをメモ。

※与謝野晶子は源氏物語を2回訳してるようで、今回読んだのは一般に広く流通してる「新新訳源氏物語」。パブリックドメインになってて青空文庫で読みました。

源氏がイケメン過ぎて光っている

何を言ってるかわかんねーと思うが本当に後光射して光ってるように見え、女性はおろか男性も泣き出すレベル。神も罪を許すレベル。って本当に書いてある。俗を捨てた坊さんも泣いてる。それで光源氏というネーミングになったんですって。

平安貴族みんなすぐ泣きすぎ

藤原氏全盛の時代、大きな戦乱も長らく起こってない平安時代特有の状態かもですが、みんな感受性が豊か。豊か過ぎる。風が吹いて「あ〜過去が偲ばれるぅ〜ブワッ( ´;ω;` )」みたいなのが結構ある。あと源氏がイケメンすぎて尊みが過ぎて泣いたりする。男女関係なくめっちゃ泣く。

あらゆる属性とやりまくる源氏

源氏物語の第1部といわれる2帖「帚木」〜33帖「藤裏葉」では光源氏自身の花盛りの時期が書かれてます。源氏が手を出した女性のジャンルは多岐に渡りまくり、一大同人イベントが開けるくらい。人妻、幼女、浮気、不倫、NTR、熟女、醜女、セフレ、人違い、娘属性、姉属性、、、etc
ジャンル手広すぎ。もう紫式部による同人誌即売会。


女性のこと覗き過ぎ

めちゃくちゃ覗いて、雰囲気や髪ツヤ感、ふっくら肥えてるか(当時は美人=肥える)、目鼻立ちなどチェックしまくる。源氏だけじゃなく、男性貴族は覗くためになんとか近づこうとしていく。当時は姫クラスの女性は兄弟と言えど男性に顔は見せないものだったので、まあ気持ちはわからんでもない。中国だって纏足が激エロ対象だったときは足洗うの見てハァハァしてたっぽいし。
この過程を経ずに「もう我慢ならーん!」って関係持った相手もいますが、翌朝に顔見て「うわ…とんでもねえブスやんこいつ…」ってなってた。末摘花って人なんですけどね…


浮気の理由を全部人のせいにする

浮気すると当然正妻から責められるんですが、理由がだいたい
「あなたが恨みごとばっかり言うからだよ〜」「あなたがあんまかまってくれないからよ〜」「俺はあなたのこと好きだったのに、あなたが悪いのよ〜」って全部人のせいにする。
読んでて吐き気を催すレベルでクズ。ちなみに源氏一族みんなこれやる。なんなん。

浮気した直後に「おれは浮気するような男じゃない!」と言い放つ

源氏の息子でもちろんイケメンである夕霧が放った物語中で1、2を争う名言。恋愛経験乏しく男子中学生的な精神年齢の彼が正妻から浮気をボロクソ責められて、育ての母親に愚痴った一言。過去改変するサイコパスなん?


夕霧という最低野郎のクズ語録

①喧嘩中の妻に対して
「お前性格最悪だけど顔は可愛いから好きでいてやるよw」
②自分の養母に対して
「あいつはがさつな鬼のような女っすよ」
③自分の子に対して
「おかーさんの言う事聞いたらダメだよ〜ものの判断ができなくなっちゃいましゅからね〜」

第40帖「夕霧二」より。現代語じゃなく与謝野晶子の言葉になるとここまで美しい言い回しになる

補足すると、夕霧と、正妻の「雲居の雁」って若い頃に大恋愛してて、周囲の反対に打ち勝ってめでたく結婚した幸せカップルだったんですよ。夕霧も最初はすげーいい奴だったんですよ…そんな二人のこんな喧嘩…ショック大きかったよ…


妻も負けずに言い返す

人によるけど、結構女性も言い返したりしてる。特に上記の夕霧と、夫人の雲居の雁の夫婦喧嘩の描写は最高の攻防です。日本史上最も古い夫婦喧嘩の記録では?
当時はがっつり男性中心社会なので立場的に男性のほうが強めではありますが、この雲居の雁は強い女性で「いや、死ねばいいのに…」的なことも言ってます。痛快極まれり。なお雲居の雁は僕の推しです。

※実際は直接そんな事は口にせず、「忘らるる…(身をば思わず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな)」とだけ口ずさんでます。華麗過ぎ。この歌は百人一首に収められてて恋多き女性だった右近によるもの。要約すると「いや〜〜神罰下って死ぬあんたが可愛いそうですわ〜〜〜w」みたいな感じ。百人一首でトップ3に好きなやつです。

短歌はJ-POP、漢詩は洋楽説

上記のような夫婦喧嘩のときにも名歌(の一部)を引用して反撃してるように、日本や中国の過去の小説や伝記、短歌などをめちゃくちゃ引用する。鼻唄で漢詩も口ずさんじゃう。
若い彼らの中で共通言語になってるくらいの有名っぷりなので、短歌はJ-POP的に流行してたんだと思う。もちろん短歌も漢詩も教養なので小さい頃から教えられてたものでしょうが、短歌は今の我々が思うほど高尚過ぎるものというよりは、もっとフランクな存在だったんだと思います。

なんかあったらとりあえず短歌詠む

なぜフランクなのかと思う理由がこれ。風が吹いたら詠む。花が咲いてたら詠む。煩悶してたら詠む。
これはマジで凄い能力で、57577の中に情景と心情を入れる上に間接的表現にしつつ、意味の多重構造を持たせるってのを即興で作り上げるっていう。相当な知識と訓練がないとこんなんとても出来ない。これを老若男女みんなやる。本当尊敬する。

源氏だけは何やっても一番

イケメン過ぎて光ってるし、書く文字は目がくらむほど美しいし、楽器弾いたら絶品でみんなすぐ泣くし、歌会あったら源氏のでみんな泣くし、絵を描かせてもやっぱ一番うまい。
出来レースじゃなかったらほぼ福山雅治。

心の弱みにつけこんで近づき即SEX

源氏一族のやり口。最低最悪のど畜生。亡くなった友人の妻を心配して訪問してるうちに好きになり、「こんなに訪問してるのに近い場所に座らせてくれないの?こんなに資金援助もしてるのに?」みたいな金にモノ言わせて断りづらくし、「まぁこの人なら大丈夫か…」と近づかせたら最後、即部屋に入って逢瀬。最悪。


出家すればとりあえずオッケー

人によっていろんな思いはあれどだいたいこれ。人間関係嫌になったりしてよく出家する。まあでもそれが救済だからオッケー。
ただし物語中の女性の出家はほとんどが源氏一族によって望まない関係となったことが原因。源氏マジゆるさんぞ…


こんな具合でいろいろな人物の行動を切り取って観察できるテラスハウスのような構造をしてる源氏物語、突っ込みながら読むのがオススメです。他にもいっぱい突っ込みどころがあるので追記するかも。

なおこれは現代の価値観で読んだが故の楽しみかたなので、本気で批判してるものでは決してありません。こういうのは当時の価値観も踏まえて二重で楽しむべきですね。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?