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ローレンス/HOTEL TV

こどもの成長ははやい!

ローレンス(Lawrence)のニュー・アルバム『HOTEL TV』が、ものすごくよかった。

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☆現時点フィジカルが出ていないようなのですが。各サブスク&デジタルで。

クライド&グレイシーのローレンス兄妹によるユニットからスタートして、現在は兄妹を中心とする8人編成大所帯バンドとして活動するローレンス。
2019年1月には名盤『Living Room』をひっさげて奇跡の初来日を果たしたことが記憶に新しい…いや、と言っても、私、ライヴは見に行っていないのですがw。おませなチビッコたちのような、やんちゃで親しみやすいルックスとはウラハラに、ライヴでも超実力派だったというウワサをたくさん聞きました。
見たかったー!

3歳違いの兄妹は、現在25歳と22歳。
ブルーノ・マーズに端を発するレトロ・ソウルのブームなども追い風となり、モータウンや80’sヒッツからの影響をふんだんに盛り込んだ、おそろしく完成度の高いポップ&ソウルな音楽性はデビュー後たちまち大注目を集めた。
サウンドも魅力的なのだが、なんといっても圧巻なのは兄妹のヴォーカル。兄クライドの、ややハスキーでソウルフルでグルーヴィーでパワフルで、とても20代とは思えない色っぽい声。妹グレイシーのほうは、兄とは正反対に等身大系のかわいらしさが魅力。女優としても活動しているだけあって、曲によって多彩なキャラを使い分けたり、たとえばズーイー・デシャネルとかにも通じるヤング・セレブのキラキラ感もある。キュートにシャウトする時のジャクソンズ的“男の子”感も、バンドの重要な要素であるモータウン・テイストには欠かせない。このふたりがハモる時の、兄妹ならではのドライヴ感も最高。

ついでに、MVでのおバカっぷりも最高。
そんな最強ヴォーカル・デュオを中心に、バンドメンバーも手練の腕利きぞろい。年齢よりもぐっと若く見える兄妹のルックスとか、おバカ系コント満載のMVなどを見ていると「おませな兄妹が、ちょっと古い音楽を真似してみたらナウくてカッコいいのができたよー」みたいな誤解も招きそうですが、正直、そういう偶発的疑似バブルガム・ポップの匂いは皆無。むしろ、背中のチャックを開けると40歳くらいの経験豊富なミュージシャンが出てきそう。ま、そのあたりは、まさに腕ききのバンド・メンバーたちの持ち味でもあるわけだが。なんとなく、あえて悪ガキ感を前面に出すことで本当は真面目で努力家で何事も全力投球の優等生感を隠しているのかも…とすら思ってしまう。

子供のくせに、アンファン・テリブル感まるでなし。

とか、そういうウラハラさを自分たちで面白がってるのかも。

このまま10年くらい活動したら、どんなバンドになるのだろう。と、長生きしたいモチベーションもあがる。ほんとに。

来日公演と同じ2019年、NYのシンガー・ソングライター&ラッパー&プロデューサーetc.のジョン・ベリオンのツアーに参加したことをきっかけに、ローレンスはベリオンが設立した新レーベル”Beautiful Mind”と契約。同レーベルの第1弾アーティストとして、19年6月からはベリオンのプロデュースによるシングルを着々とリリースしてきた。この2年間でヴァージョン違いを除いても新曲7曲、さらには自分たちのレーベルからのライヴ・ベスト・アルバムまで出している。才能のすごさに若さという勢いが加わり、とにかく多作。
外界とのつながりを遮断されての創作活動は、ある種、強制的に内省を求められる時間なわけで。このパンデミック時代の窮屈さも、彼らにとっては非日常的ともいえる集中力を生む、ある種の刺激的ファクターだったのかもしれない。

そして先月、7月23日に、これまでのシングル7曲を含む、Beautiful Mindレーベルからの初アルバム『HOTEL TV』をめでたくリリースした。
そもそも先行シングルが全部いい曲だったので、いいアルバムなのはわかっていた。
が、それにしてもいい。よすぎる。
この2年あまりの間の自分たち、そして自分たちをとりまく世界の様相をスケッチしたような曲もあるし。今までのちょっと懐かしい味わいの中に、90年代や00年代あたりの面白い音ネタもちょこちょこ放り込まれているような感じも新鮮。
才気が、情熱が、そして音楽を作ることの歓喜が、ほとばしりすぎている。
来日した頃のモータウン風味ちょっと強めのティーニーR&B路線のサウンドのイメージで聴くと、もしかしたら多少とまどいがあるかもしれない。もちろん、いい意味で。

たとえるならば、毎年いちど、夏休みに会う甥っ子が、去年までは想定内の速度でちょっとずつ大きくなっていたのに、今年はいきなりドドーンと2倍速くらいで成長しちゃっていて、言うことも急にオトナになっちゃって、
「もうポケモンGOなんてやりませんよ。おばさんは、まだやってるんですか。ふっ(失笑)」
と言われてがっくり膝をつくような驚きがある。
あるいは、子供の頃には「こどものバイエル」をいやいやタラタラ弾いていた帰省中の姪っ子が弾いてくれた、ものすごくエモいあいみょんに泣いてしまった……みたいな喜びもある。
そんな感じのアルバムですよ。
この説明ではわからないと思いますが。表現力、ならびに理解してもらおうという努力が足りずすんません。

初期は、古いものを珍しがっている若者の面白さがけっこう際立って印象的だった。でも、今のローレンスは全然ちがう。彼らの知識や技術、好奇心などを育んだ温故知新感覚は細胞レベルの土台として今もしっかり生きているけれど、その上で自分たちの音楽、自分たちの世代ならではの表現…みたいなものがはっきりと見えてきたような印象。で、結果として、より自然体でのびのびとしていて、より成熟度を増している。特にクライド君のヴォーカルの成長がすごいです。

もちろん、ここまでの活動を並走してきたレーベル・オーナーでプロデューサーのジョン・ベリオンの存在もすごく大きい。

ステイホーム中も、リモート・セッションでこれだけのことができてしまう間柄。ベリオンと一緒にやってることは、何でもかんでもめちゃくちゃ楽しそう。おバカ系おもしろMVも楽しいのだが。ライヴ映像や、スタジオ・セッションの映像を見ると、ほんとにいろんなこと軽々やってるすごいバンドなんだなーと思う。

ローレンスの60〜80年代テイストの濃さは、おませな懐古趣味とか、レトロ・ソウル路線とか、ネオ渋谷系(失笑)的な角度からも、もちろんじゅうぶん評価できる。が、それ以上に、きわめて現代的なヒップホップやR&B、アメリカン・ロックの地平に立つ音楽なのだということが、プロデューサーとして、あるいは時にゲスト・パフォーマーとして大活躍のベリオンの視点によって示されている。もう、ほんとにめちゃめちゃかっこいいー。そして、オトナになったとは言ったけど、やっぱりローレンス兄妹かわいいしー。

ところで。ローレンス兄妹がいわゆる“ええとこの子”だということは、デビュー当時からよく知られている。

でね。

で。

(次回に続く)

いやー、驚かれるかもしれませんが、今回、実はここから本題に入る…つもりだったんです。
なのですが、前フリであるはずのローレンスのアルバムを聴きながら書いていたらついつい長くなってしまいました。というわけで。
あまりに長くなったので、続きはまた次回。すんません。

おしらせ⭐︎⭐︎⭐︎
【8月の《東京スケバンplaylist》】
今日から、8月のSpotify日記《東京スケバンplaylist》はじめましたー。

8月のプレイリストも毎日1曲ずつ足してゆきたいと思います。
こちら、よかったらフォローしてみてもらえるとうれしいでーす。
今のところSpotifyだけですみませんです。

1曲目は、昨年リリースされたクリスティナ・コーティン&The Knightsによるポール・サイモンのカヴァー「American Tune(アメリカの歌)」

コーティンはノンサッチからソロ・アルバムも出しているシンガー・ソングライターで、NYCを拠点とするエクスペリメンタル系チェンバー・オーケストラThe Knightsのヴァイオリニストでもあります。
みなさまご存知のように「American Tune」は、ポール・サイモンがJ.S.バッハのマタイ受難曲からの旋律を引用して書いたわけですが。このコーティン&The Knightsによるヴァージョンは、コーティンによるサイモンのカヴァーとバッハの『ブランデンブルク協奏曲』とを組曲風にアレンジしたもの。その中から、コーティンが歌う「American Tune」パートをピックアップしました。

近年はインディーフォークやトラッド系とのコラボも多く、コーティンという素晴らしいシンガーを擁し、もともとバロックも大得意なThe Knightsならではの最高の仕事。この曲は多くのカヴァーがあり、アラン・トゥーサンの遺作アルバムでの歌も素晴らしい。が、そのコンセプトから演奏者たちの活動スタンスまでいろいろひっくるめて、個人的にはこのカヴァーがいちばん好きです。

☆全編はこちらのデジタル・リリースepにて。ジャケットにある「J.S.Bach Paul Simon」というクレジットが泣けます。ついに、このコラボが…と。わたくし以上に、ポールおじさんが男泣きしていると思いますw。

なお、この曲はYou Tubeで公開されている映像がとにかく素晴らしいので、ちょっと長いですがぜひ。

とりわけ、それまでヴァイオリニストとしてバッハを演奏していたコーティンさんが、「American Tune」を歌うためヴァイオリンを置いて中央のマイクに歩み出る瞬間はもぉ、本当に、鳥肌不可避のカッコよさなのでお見逃しなく(サイモンおじさんも泣きながら見てるはず、ぜったい)。ヨーロッパのお城みたいなロケ地は、NYウェストチェスター郡カトナにあるカラムーア・センターです。素敵。

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