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【プレイリスト】くらえ! 真夏のメンフィス・ストリングス〜ノエル・ギルバート・コレクション〜

●祝・映画『エルヴィス』公開


 日本でも大ヒットとなった、エルヴィス・プレスリーの生涯を異才バズ・ラーマン監督が描いた超大作映画『エルヴィス』。

 ロックンロール史における“はじまりの物語”を、“今“の体感速度にアップデート。
 かつて『椿姫』や『華麗なるギャツビー』『ロミオとジュリエット』といった古典を最先端のヒット曲なども駆使してリイマジンしてみせたバズ・ラーマン監督らしい、彼ならではのポップでゴージャスでせつない偉人伝とでも申しましょうか。今回の『エルヴィス』でも、エルヴィスの登場が当時どんだけすごかったか、という衝撃を10代、20代にも体感させるべく、エルヴィスの存在感を今どきのロックスター風に描ききっている。ド派手なパフォーマンスや客席女子全員失禁昇天状態の場面など、少々盛り過ぎ?と思うような場面もあるし、従来のロックンロール史観で見れば「こうだったんじゃないか劇場」的なところも多々あり、まさしく「※諸説あります」のテロップが必要かなと思うところもあるのですがね。が。が。が、そんなことは些細に思えるほど、すごい映画。エルヴィスの登場は大袈裟ではなく超常現象といっても過言ではない奇跡だったんだ…と、実感させられっぱなし。

 史実の辻褄合わせや事実どうこうよりも、その当時の大衆の目に映ったことこそが真実だ、という視点。そして、現代に生きる我々がそれを追体験として「感じる」ことが何より大事。そのことに全身全霊を注ぐラーマン・マジックの集大成ともいえる作品だと思う。
 3時間近い長編だけど、本当にあっという間です。まったく飽きさせない。あまりにも短いエルヴィスの生涯を、場面によってはMTVやアメコミ風の手法を使って上手にかいつまみながら駆け足でたどり、しかし大事な場面はけっして逃さず、やるべきところはとことんこだわってディテールまで丁寧に描いてゆく。

映画のパンフ、10インチ盤みたいで洒落てます。中も読みごたえたっぷり。マストバイ。

 オースティン・バトラー演じるエルヴィスの圧倒的なカリスマ感、そして孤独や不安の入り混じった佇まいも素晴らしいし。トム・ハンクス演じるトム・パーカー大佐の“悪魔感“の生々しさも圧巻。歴史的なエピソードも、まるで目の前で起きている出来事を目撃しているかのようにドキドキしてしまった。
 ちなみにトム・ハンクスは米国ロックの殿堂のエライさんでもある人なわけで、つまり、ここで彼が演じたパーカー大佐ってのは殿堂的に公式なポートレイトともいってもいいのかもしれない。となると、彼が「悪」だったのか、彼もまた「悪」に魅入られた生贄のひとりに過ぎなかったのか…という、ある意味、ロックンロール史上永遠の“秘密”にも踏み込んでいるような、エルヴィス以上に強烈な余韻を残す存在として描かれているのもすごいな。と、いろいろ考え始めてしまい、見終わった後もしばらくトム・パーカー・ハンクスが脳裏から離れなかった。あなたがこれから映画を観るロックンロール好きなら、覚悟したほうがいい。もう、まじで夢に出てくるよ。トム・ハンクスが。しかも、スティーヴン・キングに出てくる「何だかわからないこわい存在」みたいな感じで。

●ロックンロール発祥の地(?)、オーヴァートン・パーク・シェルとは

 映画『エルヴィス』は歴史的場面、風俗、楽器に至るまで、ディテールまでこだわりまくった再現度の高さも話題。カムバック・スペシャルやラスヴェガス公演などおなじみのライヴ・シーンはもちろん、画面の隅っこに映る小物に至るまで、最初に観た時から「DVD化したらココは絶対コマ送りして観たい!」と思う場面がたくさん。物語はものすごい勢いで進んでゆくので、説明抜きで詰め込まれた細かいネタはいろいろ見逃しているんだろうなぁと思いつつ、そのあたりはのちのちオタク的な視点でじっくり鑑賞したい。
 ごくごく私的なポイントだが、劇中、メンフィスのオーヴァートン・パーク・シェル(Overton Park Shell)が登場した時にはびっくりして思わず試写室の暗がりで「うぉっ」と声を上げてしまった。隣に座っていた人がつられて「これって、そんなに大事なポイント?」と思ったのか、サラサラとペンを走らせていたが…ごめんなさい、本当に個人的なびっくりポイントなだけです。ネタバレになるので詳細は書かないけれど、ちょうどエルヴィスがメンフィスの野球場でライヴをやっている時、少し離れた別の場所では…という、その「別の場所」として登場するオーヴァートン・パーク・シェル (旧名称はLevitt Shell)。大きな公園の中にある古い野外ステージで、映画の中でも一瞬しか出てこないけれど見ればすぐわかると思う。日本で言えば日比谷野音みたいな場所…というか、本当に野音に似ている。

現在のステージはこんな感じ、らしい。
最近はアナログ盤がトレードマークで、広告などでもアイコン的に使われていてめちゃかわいい。

 映画の中では、ストーリーの大きな転換点となるエピソードの舞台として登場する。場所の紹介もないので、よほどこの場所に親しんでいなければ見過ごしてしまうだろう。だが、あえてわざわざきちんとこの場所で、”あのシーン“の撮影をおこなったことは興味深い。なぜならば(と、ネタバレ回避すると意味のわからない文章になっちゃいますが)、実はここ、1954年にエルヴィス・プレスリーが「プロフェッショナルとして、初めて公共の場でライヴ・パフォーマンスをおこなったステージ」といわれているのだ。映画にも登場するように、エルヴィスの名が世に知れ渡るきっかけになった最初のステージはラジオ番組“ルイジアナ・ヘイライド“とされている。が、オーヴァートン・パークによれば、それ以前に初めて彼がステージに立ってパフォーマンスしてギャラを貰った(つまりプロデビューした)のはこの野外音楽堂であり、それゆえこの公園はいちお自らを「世界で初めてロックンロールがパフォーマンスされた地」を名乗っている(よくある「発祥の地あるある」なのかもしれないですが)。このあたりは公園の公式サイトやWikipediaにも詳しいので、ご興味ある方はそちらをご参照いただきたい。
 で、と、いうことは、だ。映画ではロックンロール・スターとしての運命を受け入れたエルヴィスがあんな感じであんなことをしている時に、こちらの公園ではこんなことが…という場面として出てくるのだが、実はその「こちらの公園」であるオーヴァートン・バークもまた、運命の歯車が回り始める前のエルヴィスにとって縁の深い場所なんだよね。て、わかりづらくて申し訳ない。が、ある種、聖書や神話を思わせる暗喩などもあちこちに散りばめられた映画であることを思うと、エルヴィスがプロとして初パフォーマンスをしたとされる場所をわざわざこの場面のロケ地に起用しているというのも、なにかしら意図的なものを読みとりたくなってしまう。そのロケハンが史実に忠実なのかどうかはわからないけれど、事実はどうあれ、なかなか意味深なメッセージではないか。

●メンフィス・ストリングスのゴッドファーザー、ノエル・ギルバート


 で。本題。
 なぜ私がこんなにオーヴァートン・パーク・シェルに注目しているかというと、実はこの音楽堂、メンフィスのヴァイオリニスト/指揮者/編曲家/教師、ノエル・ギルバートと縁浅からぬ場所なのだ。
ノエル・ギルバート
 この10年ほど、米国音楽のクラシック/ポピュラー音楽の境界線についてあれこれ考えてきた私にとって、この人こそがもっとも象徴的な存在、ひとつの大きな目印ともいえる存在であり続けてきた人物なのだ。
 ちなみに彼の子息は長年ニューヨーク・フィルに在籍したヴァイオリニストで指揮者のマイケル・ギルバート。つまり、そのマイケルの息子であり、現在、都響の客演指揮者も務めている前ニューヨーク・フィル音楽監督のアラン・ギルバートにとっては祖父にあたる。

ノエル・ギルバートについては、2017年の拙著『アメクラ♪ アメリカン・クラシックのススメ』の中で“アメクラ外伝 ノエル・ギルバート物語“としてたいへん詳しく書いた。クラシックでもなくロックでもなく、レッキング・クルー的なセッションマンというわけでもなく、ましてやイージー・リスニングでもないノエル・ギルバートについてここまで詳しく書かれた書物は、本書やアレックス・チルトンの評伝(事情は後述)くらいしかないのではないか。まぁ、だからどうなんだ、ということなのですが。

まだ売っています。よろしければぜひ。

 1909年生まれのノエル・ギルバートは、戦後、ラジオ局の専属ヴァイオリニストとしてメンフィスでの活動をスタートさせ、60年代頃からはメンフィス交響楽団の前身であるメンフィス・シンフォニエッタ団員として演奏活動をおこない、同時にポピュラー・ミュージックのレコーディング・セッションにも数々参加してきた。大都会のNYやLAと違ってスタジオ・セッションが職業として成立していなかった時代のメンフィスでヴァイオリン/フィドル奏者、指揮者として活躍、さらにはコーディネーターとしてもビジネス面での土台を作った先駆者の役割を果たした。
 当時は今以上に譜面の読めない・書けないアーティストは多かったわけだが、ギルバートが信条として常々話していたのは「彼らには、彼らの欲しい音がある。それを形にするのが我々の仕事だ」ということだったという。スタジオで彼らの声に耳を傾け、その頭の中で鳴っているオーケストレーションを理解し、その場で奏者たちに指示を出してゆく…という、いわばクラシックとポップスの間の“通訳“のような立場をとり、独自の仕事法を後輩の演奏家や編曲家にも教えていたらしい。
 若い頃に“内職“的な感じで初期サン・スタジオでの有名・無名セッションの数々に参加していたのを皮切りに、その後ポップ/ロックの分野でもオーケストレーションが盛んになってゆく時代になると、メンフィスやナッシュヴィルのスタジオ・シーンでも活躍。サム・フィリップスやチップス・モーマンといった、メンフィス・サウンドのキーパーソンたちとも古くから交流があった。
 彼自身が奏者として携わった有名な作品としては、古いものではハロルド・ドーマンの「マウンテン・オブ・ラブ」やB.Jトーマスの「フックト・オン・フィーリング」など。さらには、おそらく演奏で参加したのは一部分と思われるが「サスピシャス・マインド」「ケンタッキー・レイン」「ロング・ブラック・リムジン」などを含むエルヴィス・プレスリーのメンフィス・セッションにも関わっている。

 なかでも特筆すべきノエル・ワークス、セッションマンとしてのノエル・ギルバートの代表作といえばカーラ・トーマスの「ジー・ウィズ」があげられるだろう。ノエル&彼の息子と娘、親子3人による3本のヴァイオリンという不思議な編成。間奏やエンディングで聴くことのできる美しいヴァイオリン・ソロはギルバートによるものだ。カントリーでもなくR&Bでもない、クラシカルな響きの音色が、当時まだ10代だったカーラの無垢な歌声と溶け合う奇跡の名演だ。

 これは名曲裏話としてもよく語られてきたエピソードだが、この曲は録音当日のトラブルによってアレンジが変わり、だが、結果的にはそれが幸運に転じた…という、“怪我の功名”のきわめつけともいえる作品なのだ。レコーディング当日に来る予定だったフィドル奏者が時間になってもあらわれず(一説では二日酔いのため)。だが、古い映画館をスタジオがわりに使っていたような当時のスタックスには、すでに集まっているミュージシャンたちに時間延長料金を払う予算もない。スタックス・レーベル創設者でもあるプロデューサーのジム・スチュアートが困り果てて助けを求めたのが、彼が学生時代にヴァイオリンを習っていたノエル・ギルバートだったのだ。教え子のピンチに駆けつけたギルバート先生(しかも子供ふたりを連れて!)に、スチュアートは「先生、なんか白玉でピューっとやってください」と頼んだのだそう。

「なんか白玉でピューっ」と言われて、この神々しいアンサンブル。

白玉ならなんでも同じ、ではないのだ。
 という、音楽についてのとても大事なことを教えてくれる曲でもある。

 ヴァイオリン3本だけ、という珍しい編成はそのような事情によるもの。連絡を受けたノエルがすぐに調達できる奏者が自分の子供ふたりだった、ということだと推測されるが。とはいえ、ひとりはのちにニューヨーク・フィルで活躍することになるマイケル。この時はおそらく、ジュリアード音楽院への進学を控えた才気ばりばりの若者だったわけで。そんな若々しい音色もまた、大学進学を前にした10代のカーラ・トーマスの歌うラヴ・ソングと奇跡的に共鳴したんじゃないかな…と、思ったりする。この曲が好きすぎるがゆえのこじつけっぽいですが(笑)。

 この、カーラ・トーマスとスタックス・レコード、ノエル・ギルバートとの物語についても、こちらの『アメクラ外伝 ノエル・ギルバート物語』でどぞどぞ。

くわしくはこちらで。おねがいします。

 そして。話は戻る。前述の映画『エルヴィス』に登場するオーヴァートン公園の中にある野外音楽堂“オーヴァートン・パーク・シェル“。米国ではこうした近代的な野外音楽堂の先がけであり、エルヴィスが登場してロックンロール時代が始まる以前の30〜40年代は、夏になると庶民的な軽音楽やオペラを演奏する娯楽施設として知られていた。そういった類のコンサートや、その模様を生放送で届ける人気ラジオ番組でオーケストラを率いる指揮者を務めていたのがノエル・ギルバートだった。

 1960年代には、公園の再開発計画によって音楽堂を移転するか縮小するかという計画があったらしいのだが、当時、地元音楽界で大きな影響力のあったギルバートは音楽堂存続を訴えて駆け回り、膨大な署名を集めて移転阻止に多大な貢献をしたという。

 前述のようなショービズ最前線の表舞台だけでなく、ノエル・ギルバートはメンフィスの音楽史に名を残す教育者でもあった。今も奏者、教師として活躍する彼の弟子、孫弟子、ひ孫弟子…は数多い。まさにメンフィス音楽界の名士だ。

 公式サイトを見ると、最近、スタックス・レーベルの流れをくむ青少年育成を目的とするスタックス・アカデミーの発表会的なコンサートもここで行われているようだ。音楽堂の存続に尽力したのが、スタックス創設者のヴァイオリンの先生で、そのレーベルの志を継ぐ若者たちがこのステージに立っている…って、素晴らしい。

公式ツイッターからお借りしました。巨大なレコードプレイヤーに見立てたステージ!いい!

●【プレイリスト】Stroke It Noel 〜ノエル・ギルバート・コレクション

 ノエル・ギルバートの仕事からメンフィスのストリングス事情をあれこれ辿るようになってわかったことは、メンフィス産ソウル、ポップスの魅力のひとつには間違いなくストリング・セクションの存在があるのだということ。譜面さえあって、それをきちんと演奏できる人たちであればストリングス・セクションはどこでも同じだ…という人もいる。確かに、ポップ・ミュージックにおけるストリング・セクションというのは最後の仕上げの装飾みたいなもので、プレイヤー個々のキャラクターや演奏スタイルが求められるわけではない。基本的には。とりわけニューヨークやLA、あるいはナッシュヴィルのように超一流どころのプレイヤーが世界中から集まっている大都会のスタジオであれば、確かにどこでどのストリングス・セクションが演奏しても同じように一流の結果が出るだろう。が、メンフィスのストリングスには独特のあたたかみ、丸み、やわらかさがあるのだ。南部アラバマ州マッスルショールズが誇るソウルフルな白人シンガー・ソングライター、ダン・ペンは昔から「ストリングスならばメンフィス」と銘柄指定するほどお気に入りだったことで知られている。都会のキレッキレのストリングスに対して、メンフィスのストリングスは「ぬかるんだ」感じがいいんだというアレンジャーもいる。南部のオーケストラの穏やかなゆったりした物腰は、オーケストラとスタジオ仕事を兼業している奏者も多いからなのかもしれないし。昔ながらの南部人のお人柄なのかもしれないし。南部訛りの言葉が持つ優しい柔らかさが音楽にも出ているのかもしれない。正直、きちんと分析することなどはできないのだけれど。とにかく、メンフィスのストリングス・セクションの響きはとても心地よい。体にいい、そんな気がする。

 サブスク時代よりずっと前から、暇さえあればネット記事やディスコグや資料本を漁ってはノエル・ギルバートがソロ奏者、コンマス、ストリング・セクションの一員として参加している音源のリストを作って私家版コンピを作って楽しんでいた。ありがたいことに、今、サブスクはサン・レコード初期、たとえばエルヴィスの元カノとして知られる(けど、たぶん映画には出てなかったよね?)アニタ・ウッドのシングルのような珍しいものもふつうにあったりするので、Spotify版も作ってみたらけっこういい感じになった。

というわけで、『エルヴィス』大ヒットを祝して、この機会にメンフィス・ストリングスという重箱の隅ジャンルにも注目してもらえたらと思ってプレイリスト「Stroke It Noel~ノエル・ギルバート・コレクション」を公開することにした。
いちおうノエル・ギルバートの名がクレジットされた作品を集めたコンピレーションではあるのだが。できあがってみると、「メンフィス産で、しかもストリングスがカッコよくて印象的な名曲コンピ」みたいな感じになりました。
おやすみ前のひとときにもおすすめです。

 タイトルの『Stroke It Noel』は、故アレックス・チルトンらが1971年に結成した伝説のパワー・ポップ・バンドBIG STARの曲名。ここでいう「ノエル」とは、まさにノエル・ギルバートご本人のことだ。メンフィス出身のチルトンは、若い頃からノエル・ギルバートと交流があった。なんたって1967年、10代の天才ヴォーカリストとして参加したザ・ボックス・トップスのデビュー曲「あの娘のレター(The Letter)」で聴くことのできる、華麗でグルーヴィーでちょっといなたいストリングス・セクションもノエル・ギルバート率いるメンフィス弦軍団の仕事だ。そして、そう、ご存じのように、この曲のプロデュースを手がけたのは、前述の「メンフィス弦が好きすぎるシンガー・ソングライター(←アメトーク風にいえば)」ことダン・ペンだ。

 「Stroke It Noel」は、いろいろと紆余曲折を経てややこしい形態でリリースされた3rdアルバム『Third/Sister Lovers』収録曲。録音当時はテスト・プレスのみで発売には至らなかった1975年のオリジナル・ヴァージョン『Third』のA面1曲目を飾っていた曲だ。もともとは別タイトルがついていたが、ノエルを迎えたスタジオ・セッションでチルトンが「がつんと弾いてくれー!ノエル!(敬称略)」と言ったとか言わないとか…というのが、タイトル変更の理由とされている。メンフィスのパワー・ポップ系からも激しく愛されたノエル・ギルバートへのリスペクトがよく伝わってくるエピソードではないか。

そのへんも、くわしくはこのほんで。

 ここまで書いてきたカーラ・トーマスやエルヴィス・プレスリー、そして「あの娘のレター」などを含む、愛しきノエル・ギルバートの仕事集。世界初編纂、と思われ。
 古き良きメンフィスのまろやかなストリングスを堪能していただけるようなコンピになっていると思います。

今のところSpotifyのみ。ニルヤン師匠、ごめんなさい。

——【Spotify】Stroke It Noel〜ノエル・ギルバート・コレクション

こんなふうに「メンフィスのストリングス」という軸で並べたプレイリストなんて、まずありえないと思うのですが。こういう視点ならではの発見もいろいろあって面白い。アイザック・ヘイズのめっちゃ実験的でコンセプチュアルなアルバムのオーケストレーションも、本来ならLAとかのバリバリの弦を入れたかったのかもしれないけど、逆にそうじゃなかったからこそ面白い味わいが出たのかなと思ったり。あと、ディスコ時代のパチモノ・チップマンクスとしておなじみの珍盤「ディスコ・ダック」もノエル・ギルバート参加作品だったというのもちょっと楽しい。

 メンフィスのロックンロールやR&Bファンだけでなく、たとえばアラン・ギルバートが客演指揮者を務める都響ファンの方などにも「彼のおじいちゃんはエルヴィス・プレスリーの録音にも参加していたんだねー」という豆知識でお役に立てたら幸いでございます。

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