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ノンサッチ自警団新聞/Vol.9

【2019年10月15日】Vol.9 "AHOY!”Issue〜アホイの謎〜

●本拠地をNYCタウンホールに移転して始まった新シーズン。ミネソタからニューヨークへと移転したことで、クリエイティヴ・ディレクターを務めてきたジョーイ・ライアン(ミルク・カートン・キッズ)が降板するなどスタッフの顔ぶれも大きく変わり、最初はけっこうガタガタしていた。
が、このあたりからようやく落ち着いてきて、新しいLIVE FROM HERE(以下LFH)の本領が発揮されてきた感じがあった。ブロードウェイど真ん中ということでミュージカル/演劇の人脈が混じってきたこととか、クリエイティヴ面ではブルックリン系の作家がスタッフ・ライターに加わるなど、以前よりややアカデミック色が濃くなってきたことで、ある意味、このあたりからノンサッチ色もぐんぐん色濃くなってゆく。そのあたりの賛否はあったが、もちろん当団としては願ったり叶ったりの展開であり、本紙としても番組をとりあげる機会がたいへん多くなった次第だ。
また、アカデミックとはいえシーリーの明るいキャラゆえに番組の楽しさも変わらず、特にフェイスブックにできた番組ファン・ページには世界中のさまざまな音楽ファンが集い、番組の“中の人”も加わって毎週わいわいとパブリック・ビューイング状態になっていたりして、これもまた今までにない楽しい経験だった。

というわけで、この回(2009年10月12日)も濃かった。

ゲストは…

トレイ・アナスタシオ(Phish)
ザ・ジャズ・アット・リンカーン・センター with ウィントン・マルサリス
サラ・ジャロウズ(ゲスト・ハウスバンド・メンバーとして)
エドワード・ノートン(俳優/映画監督)
ダルシー・スローン(コメディアン)

●ハウス・バンドには、おなじみブリタニー・ハース(フィドル)やクリス・エルドリッジ(ギター)も戻ってきて、いつものLFHファミリーという雰囲気。
そして、今回は「なくなっちゃったの?」と心配されていた、シーリーの“ソング・オブ・ザ・ウィーク”コーナーも復活! もともとはシーリーが、その時々の日記のような感じでさらっと曲を作りました…みたいな感じだったはずなのだが。今回の「CQ」って曲なんかは、どことなく『SMiLE』っぽいようなところもあり、プログレっぽくもあり、クラシックに片足突っ込んでる雰囲気もあり。なんか、時差ボケでエンドルフィンが漏れ出しちゃってる明け方にできた曲らしいけど、もう、あまりにすごくて最初は耳を疑ったほど。確かに、軽く幽体離脱してるっぽい曲ですね(笑)。この曲は、いつか何らかの形で録音して出してほしいな。サラジャロもグッジョブです(As always!)。


●当日の会場にいた人たちもFBで報告していたのだが、この日はとにかくトレイ・アナスタシオさんお目当てのPhishヘッズのお客さんがものすごく多かったらしい。さすが。最近のトレイさん、年齢を重ねて“万年青年おじさま”感が出てきてかっこいい。この日の白眉は、何と言ってもジャズ・アット・リンカーン・センターwith マルサリスとのコラボで披露されたビッグバンド・アレンジの「Blaze On」。フィッシュ・ファンの間でも、この、ニュー・オーリンズスタイルな斬新なアプローチは大きな話題になったそうだ。シーリーもひゃーひゃー大喜びしていた。

●ジャロウズは今回、文句なしMVPの大活躍。トレイさんとのセッションもよかったし。ミュージシャンズ・バースデイのコーナーでのディクシー・チックスは、同郷出身の大好きなグループだという思いが歌にも表れていてとてもキュートだった。もう、子供の頃から歌射込んできた歌が体に染み込んでる感じ。


●LFHハウスバンドは、どんなジャンルにもどんな難曲にもツルッと対応する凄腕名手揃い。パンチ・ブラザーズのポール・コートとのバンド、Hawktailで活躍するブリタニー・ハースもそのひとりだ。もともと以前からブリタニー嬢にはノンサッチ・フレンドとして当団も注目していたのだが、LFHへの参加により、その表現力と技巧の桁外れレヴェルをさらに思い知らされることになった。すごいけどかわいい。すごかわフィドラー!


●そして。
今号がなぜ“AHOY Issue”かというと、実は番組本編とは関係ない。
この放送を前に、公式インスタグラムが「いつも番組冒頭でシーリーがやる“アホーーイ!”という挨拶の由来は何だと思いますか?」とリスナーに質問。
そう。シーリーが番組2代目MCに就任してからというもの、冒頭でアホイアホイアホイを連発して、番組の新しい合言葉として強引に定着させてしまった「AHOY!」。ずーーーっと謎だったのだ。最初は、何か軍隊とか童謡とかに関連する、アメリカではお馴染みの古語的な言い回しかなと思っていた。が、アメリカ人に訊いてもわからないという。
ならば、シーリーがあんなに楽しそうにアホイを連呼しているのはなんなのだー。と、当団の団友諸君を含めた誰もが思っていたはず。

↓これが、番組公式インスタからのお題。

そして、番組はついについに本人を直撃。

▼超うれしそうに答える本人▼

●正解は………

映画『What About Bill? (邦題: おつむてんてんクリニック)』(91年)の有名なシーン、“I’m Sailing!” のビル・マーレイの真似でーす。

だそうです。
て、わかんねーよ!

と思ってググったら、そのシーンがありました。
最後の一瞬に“アホーイ!”ってのが入っています。

●このシーン↓を、

↓張り切って再現してみせるマッカーサー・フェローにして、この時期にカーネーギー・ホールのコンポーザー・チェアまで務めたクリス・シーリーさん。
ギャップ萌え、という言葉は彼のためにある。


●以下、余談ですが。
このシーズンが始まる前、この年の夏にパンチ・ブラザーズは待望の再来日を果たしている。
で。その公演初日、シーリーはふと、曲間にいつもの口癖で軽く「AHOーY」と口走るものの、最初、客席はしーーん。「あ、日本じゃこれはわからないよねw」という感じで諦めかけたので、最前列に陣取っていた当団は「こ、これはアカン!」と、周りの客がドン引くくらいの勢いで「あっほーーーーーい!!!!」と全力で叫んだところ、ステージ後方で背を向けて楽器のセッティングをしていたシーリーが「え。い、い、今、なんて言った⁈ 君たちはAHOYを知っているのか⁇⁇」とびっくりした顔で振り返ると、バックステップでマイクのところに戻ってきて、今度はLFHくらいの本気度で「AHOY!」をやってくれた。そしたら、他のお客さんも真似して「アホーーーイ」(間違えてヤッホーとか言ってたおじさん団体もいたが)と答えたので、シーリーがめちゃめちゃ喜んで、以降、最終日までほぼ毎ステージ、シーリーは隙あらば1ステージで2度3度と“AHOY”のコール&レスポンスを求めるようになった。
それはさながら『8時だヨ 全員集合!』におけるいかりや長介と子供たちの「おーっす!」「おーっす」「声がちいさーい!おーっす!」…という、あの激しい応酬を彷彿させるものだった…。

●当団のことだから、どうせ話を大袈裟に盛っているのだろうと疑う向きも多いことは承知している。が、来日公演後、会場であるブルーノート東京のフリーマガジンに掲載されたシーリーのインタビューをご覧いただきたい。

●どうよこれ。
ちなみにこれは当団の知らない人によるインタビューであり、当団はいっさい関与していない。よって、シーリーさんに発言の強要もしていないし文面の捏造もない(普段もそんなことしてませんよ)。

というわけだよ。

現代米国アメリカーナの最先端と、日本のプログレッシヴ喜劇における代表的コール&レスポンス様式が融合した歴史的な瞬間であった。かような文化交流に少しでも寄与できたのであれば、当団として此れに勝る喜びはない。

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