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レッド・ベルベット日和

東京スケバン散歩/阿佐ヶ谷

阿佐ヶ谷VOIDで開催されている、多田由美先生の個展。

多田先生にとって史上最長編の連載『レッド・ベルベット』の完結記念。

今日はまた、おそろしくなるほど春の陽気。なので、今年はじめてスプリングコートで出かけた。
でも、ときどき北風が吹くと冷たくて。
LAとまでは言わないが、カラっと晴れた青空と、あたたかな日差しと、冷たい風と、まだゾワゾワしているようでもあり、あたたかくなって少し心がゆるんできているようでもある街の雰囲気と…というのが、なんとなく『レッド・ベルベット』日和。在廊日には伺えませんでしたが、よい日におじゃまできました。

ガラス扉の向こうに、独特の砂糖菓子のような色合いのジークレープリントが小さな額縁におさまってずらっと並んでいるの。美しい。キラキラ輝いていて。なんだか『レッド・ベルベット』に出てくるケーキ屋さんに足を踏み入れたような、不思議な感覚になりました。

ふわぁぁぁぁぁ。
もう、胸がいっぱい。
撮影はご自由にどうぞと言っていただいたので、お言葉に甘えて。

光があたると血管が透けて見えそうな薄い皮膚や、砂糖菓子のようにはかないたたずまい、華奢できれいな指…そして、ものすごい目力。強い目力。
もう、ひとつひとつ、絵と見つめ合うみたいにじっくりと拝見させていただきました。ドキドキしてしまったよ。絵に描かれたまなざしを伝って、絵の中にいる人たちの悲しみや戸惑いや高揚や安堵や…が次々あふれ出てくるので。

ふと、『レッド・ベルベット』の世界っていうのは物語の面でも現実面でも多田由美作品の集大成なのだなと思った。単行本全三巻、1コマ1コマが大好きすぎて何度読んでも新鮮なのですが。登場人物たち全員が、最初から最後まで通奏低音のようにずーっと悲しみを奥底に抱えていて、だけど、その通奏低音があるから、ふっと喜びが弾ける瞬間をとてつもなく華やかに感じたり。読者それぞれの受け止めかたはあると思うけど、ごくごく個人的な「私にとっての多田由美作品」というのは、ひとことでいえば「悲しみが愛しくなる」物語。いや、悲しみが愛しくなるまで辛抱づよくつきあってくれる登場人物たちが愛しい物語と申しましょうか。そして『レッド・ベルベット』に限らず、多田作品に登場する人たちや風景を目にしたときに感じるのもまた、なんというか、『レッド・ベルベット』の読後感にすごく似ている。うまくいえませんが。

なんでもかんでも、すぐに悲しくなるんです。荷物の隙間から出てきた子供時代の絵葉書1枚を眺めていても、懐かしさや可愛らしさや楽しさといった思い出が掘り出されて空気に触れたとたんみるみる腐って悲しみに変わってゆく。別に、何か悲しい思い出をともなう絵葉書というわけでもなかったとしても、それが何か悲しいものを連れてきてしまう。そんな私にとって多田先生の絵は、悲しみとの絶妙な距離感、悲しいという感情を許すための時間を教えてくれる。ということは、『レッド・ベルベット』はまさにそういう感情が全編にわたってさざめき揺らぎ、うねり続ける物語で、なんか、原作と監督と脚本を手がけた人と、演じる俳優がソウルメイトだったことが観ている人にもわかる映画みたいな。

本当は今日、展示作品の中からどれか購入させていただこうという意欲まんまんだったのですが。どれも美しすぎて、ひとつふたつ選ぶことができませんでした。帰り道にも考えていたんですけど、やっぱ選べない。本やネットであまりにもよく見ていた作品も多かったのだけれど、実際に見るとまた違う印象だったり。息遣いが見えてくるようなドローイングも、もう、素晴らしすぎて。むー。等距離に置かれた餌に囲まれて失神する犬、みたいな感じになってしまった。

よーく考えて、また出直します。またはオンラインで購入しようと思います。
(ああ、全部くださいとか言ってみてぇなー。)

そして、多田由美先生といえばProcreate。

おこがましくて師匠などとは申せません、単に同じアプリを愛用しているだけの者ですが。多田先生は、日本で初めて本格的なProcreateでの絵の描き方(アプリのマニュアルではなく)についての本を出されている。その本がまた、指南書というよりは画集。うっとりと眺めてしまいます。

今週末13日には、在廊&配信イベント@VOIDのProcreate講座があります。その日はリアルタイムでは参加できないので、追っかけアーカイヴで見ようと思います。

今まで絵を描いたことなんかなかった私なので、これは全然まったく次元の違う世界の話なのですが。私にとってもProcreateは世界が大きく変わったアプリで、今やもう、Procreateなしでの生活はありえない。

どさくさにまぎれてひとつ載せちゃいましたが。いっしょうけんめい描いたデヴィッド・バーン先生でさえ、こんなですw。
でも、今、私、Procreateで何か絵とか字を描いてる時がいちばん幸せなんです。
iPadは初代機からずーっと使っていますが、こんなにiPadと一体感を感じたのはProcreateを使うようになってから。というくらいのバディ。

ちなみに多田先生は、ご自身で調整して作った、作品でも使用されている色塗り用のブラシをネットで無料配布してくださっていて、私も愛用しております。あの、絵の仕上がりは↑棚にあげますが、スッと一筆描くと「あ、多田由美!」みたいな筆致になるんです。雰囲気あるんです。ほんとに。それで、何かを描くというよりも、すっすっと筆をストロークしては「多田由美(゚∀゚)多田由美(゚∀゚)」つってキャーキャーゆってます。宝の持ち腐れにもほどがあってすみません。涙。しかし、ですね、それでも、そんな素人からプロの絵描きまで、レベルも用途も画風もまったく異なる人たちが、それぞれの目的に応じてiPadでメイン使いするアプリにできるProcreateって本当にすごいと思います。

▲『レッド・ベルベット』1ー3巻。
とりあえずKindleをリンクしておきますが。
紙でも最高。電子でも最高。
多田先生は、ご自身の好きなものしか描いてないと連載中から公言されてきた。LAの、つまりアメリカ人の男の子ふたりの物語だけど、丁寧に描きこまれたひとつひとつの心の動きなどを追いながら読んでいると、あるいはコマの隅々まで文字どおり舐めるように眺めていると、ある意味、拡大解釈ではあるけれど一種の私小説というか、自伝的な作品でもあるのではないかという風にも思えてくる。
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☆ただいまのBGM: ザ・ポーグス『堕ちた天使』 

本の中に出てくるママの遺品のアナログ・コレクションから。画に大きく登場しているのはビートルズのホワイト・アルバムですが、たぶんザ・ポーグスと思われる…くらいの感じで登場するザ・ポーグスを聴いています(笑)。
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▲『iPad Pro+Procreate マンガ・イラストの描き方』
iPad Pro+Procreateという組み合わせは、本当に最強だと思う。そもそもiPad Proがあれば将来的にはテレビにもなるので、もう、今後のiPadはPro一択だと思います(個人の感想です)。
それはそれとして、この本もProcreateと同様、読者のレベルに合わせていろんな楽しみかたがあると思います。もちろん、ばりばりに教科書として役立つという人もおられるだろうし、私のように多少Procreateの仕組みがわかっていれば、すごく詳細なメイキング編のついた多田由美画集…という贅沢な仕様とも解釈できるし。

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