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スケバンひなまつり〜おとめちっく2021〜

東京スケバン散歩/根津

日照。風。温度。湿度。すべて完璧。
しかも、3月3日。世界中がひなまちゅり。
一年365日のうちで、こんなにも完璧な日がありましょうか。

天晴!

そんな日に行くべきは、スケバンもすなる乙女の隠れ家。
根津へ。
言問通りから暗闇坂に入り、少しくだって行くと…

弥生美術館/竹久夢二美術館。   ※2館はつながっています。

行ってまいりました。
田渕由美子展。

きゅんきゅんきゅん。

俺の中のおとめちっくが覚醒して、「かわゆい」の咆哮が止まりません。

私はそんなに漫画を読んでいたわけではない。親にあまり買ってもらえなかったのもあるが、そのかわりに…なのかどうかわからないが漫画より活字本の方が好きで、小学生の頃から本ばかり読んでいた。それでも、そんな私でも『りぼん』は買っていた。たぶんそれほど長い時期ではなかったはずだが、それでも毎月欠かさず買っていた唯一の漫画雑誌が『りぼん』だった。

田渕由美子先生と、陸奥A子先生のファンでした。

余談ですが、世の中のタブチには「田渕」と「田淵」があるということは、田渕由美子先生と田淵幸一選手に教わりました。

今回の田渕由美子展は、その、私が唯一読者だった70年代後半から80年代初めまでの『りぼん』黄金時代を中心に、デビュー当時の作品や、ご結婚後の活動休止から復帰された頃のイラストや大人路線になってからの作品などを集大成した回顧展。今回、展示を見ながら気づいたことなのだが、90年代の作品もけっこう拝読してきたのだなぁ。たぶん三つ子の魂システムで、漫画誌に田渕先生のお名前を見つけたら条件反射で買っていたのだと思う。
しつこく書くが、私は昔から同世代女子が集まって懐かし少女漫画トークになる場が苦手で、なぜなら「当時はみんな読んでいたよねー」という漫画をほとんど知らないのだ。でも、まったく何も知らないわけではなくてピンポイントで貪り読んでいた作品もあるし、大人になってから大人買いして後追いファンになった作品もある。ただ、胸を張って“思い出”と言えるほどリアルタイムで経験した作品がほとんどないので、同世代トークに入ってゆけないのだ。が、それなのに、それなのにそんな私ですら『りぼん』を愛読していた。『りぼん』はふろくもすごくセンスがよくて、それが楽しみだったというのもある。たぶん小、学校の高学年から中学、たぶん高校に入った頃まで断続的に購読していた。

なので、展示室に足を踏み入れて70年代『りぼん』掲載の原画を見たとたん、ドゥオワァーーーーーーーッと洪水のようにさまざまな記憶と思い出がこみあげてきて、懐かしさという名の海に溺れそうになった。いやぁ、人間の記憶とはすごいものです。原画/生原稿の傍らに添えられた作品タイトルやあらすじを読んだだけで、これまでン十年間も完璧に忘れていた記憶が次々と甦ってきた。
原画だけでなく、ふろくの展示にはガラスに顔を押し付けてしまいそーになるくらい見入ってしまった。小中学生の頃の自分が愛用していたステーショナリーたち…便箋やシール、ファイル、そして“アイビー・ノート”!!  
考えてみたら、覚えていて当然なのだ。だって毎日毎日ずーっと眺めていたイラストだもの。女の子が着ていた服のチェック模様や靴や、男の子が彼女に向けるやさしいまなざしまで、全部が懐かしい…いやーん。きゃー。

スケバンの目にも涙である。

今回、初めて知ったことなのですが(世間では有名な話なのかもしれないが)、少女漫画誌の編集部は男性ばかりだった当時、ふろく担当になった女性の編集者が今までのふろくの常識を変えていったのだそう。それまでやや幼稚でオマケ扱いだったふろくを、少女たちが日用品として学校にも持っていけるような本格的なグッズとしたのは、当時、銀座の文房具店に通って流行を研究し、「女の子は赤が好き」と決めつける男性編集者たちを説得してシックな色合いにもこだわった担当者の情熱あってのことだったとか。そう、まさに、そうやって生まれたふろくの“アイビー・ノート”を大事に使っていた世代としては、思わずヒザを叩くエピソード。
確かに『りぼん』のふろくはふつうに学校に持っていけたし、イラストだけじゃなくデザインもちょっとオトナっぽい感じで、ファンシーグッズ系よりも「勝った」感があってよかった。その陰には、男だらけの編集部でワタクシたち女児のために戦ってオシャレふろくを作ってくれたヒーローの存在があったのだな…と、深く首を垂れるスケバンであった。田渕由美子先生の作品だけでなく『りぼん』文化の背景も知ることもできて、ひじょうに意義深いひとときだった。

『なかよし』も『りぼん』も読んでいたけれど、私は断然『りぼん』派だった。

一条ゆかり先生の『デザイナー』など、女は安井かずみの歌詞でしか見たことがないようなバタくさい悪女だったり、男はスナックでブランデーグラスを傾けるプレイボーイだったり、という超ドロドロのストーリーが展開するグランド・ロマンのオトナすぎる世界も好きだったけど、私がいちばん魅了されていたのはやっぱり、まだまだ遠い世界に思えていた大学ーー“キャンパス“を舞台にしたストーリーや、英米を舞台にした洋画の吹き替え版みたいなラブコメ。そういう、子供の自分には想像もつかないけれど、ほんのちょっと向こうにはホントにあるかもしれない…という世界にときめいた。

今になって思えば、後々になって好きになるものを、すごくわかりやすく親しみやすく“翻訳”して教えてもらっていたのかもしれない。分厚い教科書を抱えたアイビー・ファッションの大学生たちがキャンパスで友情を育んだり恋したり、あるいは遠い国に留学したフツーの女の子が金髪碧眼のハンサム・ボーイにひと目惚れされちゃったり。田渕先生の漫画というよりは『じゃりん子チエ』に近い昭和の女児にとっては、ほとんどS Fみたいな世界ではあったけれど。もしかしたら、いつかは自分もこんな大学生になって、近所の喫茶店でボーイフレンドと洋楽のレコードを聴きながらコーヒーを飲んだりするのかしら、とか妄想したりして。そんな夢を、時にはふろくノートで交換日記していた友達に打ち明けたり。
そうなのよ。想像力はどれだけ使ってもタダで、しかも何よりも使える資産であるということを知ったのも、この頃だった。

その渦中にいる人間には、自分がどういう時代を生きているかはよくわからない。ましてや子供には。でも、あの時代の自分は幸運だったとあらためて思う。自分が読んでいたのは田渕由美子、陸奥A子、太刀掛秀子といったゲーム・チェンジャーな才能がしのぎを削っていた時代の『りぼん』だったのだ。

とりわけ、当時、現役の早大生だった田渕由美子先生の描くキャンパス・ライフというのは、当然、現役大学生の目を通じてのリアリティにあふれていて、とはいえドキュメンタリー的な生々しさではなく、どこかおとぎ話としての“おとめちっく”が貫かれていて、登場人物たちも、おしゃれだけど『なんとなく、クリスタル』とは違う、米国のプレッピー・ファッションみたいな(つまり、MCシスターのおねえさん版でもある)かっこよさで。憧れた。

そして、だ。

今回、展示を見ながらふと,気がついたこと。

こうしてロー・ティーンの私が『りぼん』を通して初めてキャンパス・ライフというものに憧れを抱いた時代から数年後。この、田渕由美子や陸奥A子の漫画の“実写版”が登場していたわけだ。

そう。

まさに、実写版

当時、現役の慶応大学生で、高校時代に米国留学経験もあり、音楽サークル仲間たちとライヴ活動をしているのが業界関係者の目に留まって…って、ほとんど『りぼん』で田渕先生が描く漫画の世界(+一条先生の業界サクセスストーリーもちょっとプラス?)ではないですか。

この時系列。もしかしたら単なる個人的体験の記録ではなく、意外と70〜80年代の日本カルチャー史を紐解く上で、けっこう重要かもしれない。と、いろいろと考えているうちに、すごいことを思いついた。

が、長くなりそうなので、この件はまたあらためて書きます。

竹内まりやさんのRCA時代のジャケットはどれも好きだけど、特にこのアルバムは大好き。昔から『りぼん』のふろくかカラー口絵みたいだと思っていた。今日、久しぶりにホンモノのふろくを見たら、ホントに、アイビー・ノートもファイルも『UNIVERSITY STREET』の世界だった。ちなみに、このジャケットでまりやさんが抱えているグーフィーのバインダーは実際に大学で使っていた私物だそうだが、なんか、もう、そこも実写版『りぼん』。こういうおしゃれな文房具も漫画の小道具でいっぱい出てきて憧れたものだよねー。

隣接している夢二美術館で開催されていた、夢二がデザインした包装紙や千代紙、一筆箋などの特別展もよかった。

菓子類とか、あるいは化学調味料ギンギンの料理とか、70年代に「おいしい」と言われていたけれど今はとてもとても食べられないものは数多いわけですが。夢二の絵画や柄は100年前に描かれたのに色づかいから何から、すべて新鮮でかわいいと思うし。古臭いの代名詞として使われることも多い「昭和の少女漫画」だけど、今日、久しぶりに見た田渕先生の描いた70年代の女の子たちは、古着っぽいテイストとかメンズものとかをかわいく着こなしていたり、ゴテゴテしていないシンプルなブーツやバッグをずーっと着回して(←漫画なのに!)いたり、断然エバーグリーンなオシャレなこともあらためて確認できて感動したし。
こういう、変わらない「きゅん」とするツボって何なのでしょうね。我々のずっと遠い祖先から引き継いできたDNAの中に、そういう「きゅん」のツボも含まれているのでしょうか。

ああ、アイビー・ノート欲しい。復刻されないかな。
道の向こうにはもはやうっすら還暦が見えてきたというのに、
心は永遠に中学1年。
しかもスケバン。
喧嘩もしたことないのに、喧嘩上等。

そんな私ですが。
今年もささやかに、こっそりとタイニー・デスク・おひなさま。飾りました。
あと、鑑賞の記念にグッズも買いました。きゅんきゅん。
このくしゅくしゃの靴下!
このフワフワのエプロンドレス!
やばい!私の中の「かわゆい」がとまらない。


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