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細かすぎて伝わらないグラミー賞2022よもやま(その2)

【ノンサッチ自警団新聞特別編〜祝!7.5ノミネート〜】

●というわけで。グラミー賞ノミネート、おくのほそ道シリーズ。前回は今年度のルール変更点について熱く書きましたが、今回からは個人的に気になるノミネート関係についてちびちび紹介してゆきたいと思います。

ノンサッチ自警団としていちばん気になるは、もちろんノンサッチ・レコード関係のノミネートですが。今年も、6.5組の7.5ノミネートという快挙(当団独自の算出方法による)。

では、本日はノンサッチ関連のノミネート作品の解説&考察を中心にしたグラミー・ウォッチをしてゆきたいと思います。

で。まずはこちらから。

今年も、ノミネート作品をまとめた自警団新聞の特別号を作りました。

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●Best Contemporary Blues Album (51)
 ※カッコ内はカテゴリーNo.
アルバムの51%以上の新録ヴォーカルまたはインストゥルメンタルを含むコンテンポラリー・ブルース・レコーディング作品。

→ザ・ブラック・キーズ『Delta Kream』

☆彼らのルーツであるミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースの名曲カヴァー満載のアルバム、こういう作品がコンテンポラリー・ブルース部門でノミネートされるってのがいかしてます。しかも、正確には“ザ・ブラック・キーズ feat.エリック・ディートン&ケニー・ブラウン”名義でのノミネートになります。もし受賞すれば、彼らが敬愛してやまないレジェンド・セッションマンたちと栄誉をわかちあうことに。授賞式の詳細はまだわかりませんが、当日、ディートン&ブラウンも一緒にライヴ・パフォーマンスなんかしてくれたら最高すぎて泣きます。

●Best Folk Album (52)
アルバムの51%以上の新録ヴォーカルまたはインストゥルメンタルを含むフォーク・レコーディング作品。

→ リアノン・ギデンズ with フランチェスコ・トゥリッシ
『They're Calling Me Home』

☆ステイ・ホーム期間中、長い間ずっと英国と米国と離れ離れに暮らすことになったりしながらも、リモート・セッションやレコーディングなど充実した活動を続けてきたリアノン&フランチェスコ。「会えない気持ちが愛育てるのさ」という、「よろしく哀愁」のアメリカーナ版みたいなおふたり。そしてリアノンは、今年、なんと、ヨーヨー・マが創設したSILKROADの2代目芸術監督にも就任。パンデミック後は、きっと世界を飛び回って活躍することでしょう。新世代の、あまりにもノンサッチらしいノンサッチ・アーティストのひとりだと思います。
なお、このカテゴリーではサラ・ジャロウズの『Blue Heron Suite』やマディソン・カニンガムの『Wednesday』など、今年の愛聴盤がたくさん入っているので、誰が受賞するのかちょっとドキドキです。

●Best American Roots Song (47)
ソングライターに与えられる賞。アメリカーナ、ブルーグラス、トラディショナル・ブルース、コンテンポラリー・ブルース、フォークまたはリジョナル・ルーツ・ソングを含む。楽曲は、録音時を問わず対象期間中にリリースまたは認識されたものであればOK。

→「Avalon」
ソングライター: リアノン・ギデンズ、ジャスティン・ロビンソン、フランチェスコ・トゥリッシ(アーティスト: リアノン・ギデンズ with フランチェスコ・トゥリッシ)

☆アルバム『They're Calling Me Home』と、同アルバム収録の「Avalon」でリアノンは2つのノミネート。
ここのところジャンルが整理されてすっきりしてきたグラミーですが、ルーツ系に関しては年々けっこうややこしくなってきている印象。たとえば、この「アメリカン・ルーツ」と、アメリカーナやフォークのカテゴリーをわけるとか。でも、それは、このあたりのシーンが今、とても重要な局面にあるということでもあるのだと思います。

●Best Music Film (86)
コンサート/パフォーマンス・フィルムまたは音楽ドキュメンタリーに与えられる賞。受賞するのはアーティスト、ヴィデオ監督、ヴィデオ・プロデューサー。

→『アメリカン・ユートピア(原題 David Byrne's American Utopia)
アーティスト: デイヴィッド・バーン
監督: スパイク・リー
プロデューサー: デイヴィッド・バーン&スパイク・リー

☆トニー賞で特別賞を受賞した『アメリカン・ユートピア』の映画版がグラミー賞にノミネートされるのは、そう不思議なことではないのかもしれませんが。MTV時代以前からずっと映像表現に取り組み、音楽ヴィデオ・アーティストのパイオニアであるバーンが、自身の代表作となった舞台の映画化でノミネートされたというのはものすごく意義深いことですね。ちなみに先日、ひさしぶりに『ストップ・メイキング・センス』を見ていて、やりたいことは昔からずっと一緒というか、この時すでに『アメリカン・ユートピア』への道は始まっていたことを痛感したところでした。

●Best Contemporary Classical Composition (84)

過去25年以内に作曲され、この対象期間中に初めてリリースされた現代クラシカル作品の作曲家に与えられる賞。歌詞・詩がある場合は、作詞者にも与えられる場合もあり。

→ルイ・アンドリーセン
「THE ONLY ONE」

→キャロライン・ショウ
「NARROW SEA」

☆このカテゴリーには、2人の作曲家がノミネートされています。コンテンポラリー・クラシカル・コンポーザーとなると、やっぱりノンサッチは強いですね。しかも大御所と気鋭の若手、両方がノミネートというのは素晴らしいです。
とはいえ、今年7月に82歳で亡くなられたばかりのルイ・アンドリーセンのノミネートはうれしくもあり、あともう少しお元気でいてくれたら…と寂しくもあり。エサ-ペッカ・サロネン指揮LAフィルによる録音、ものすごく楽しく美しい作品です。
そして当団イチ推し、今をときめくノンサッチの“お嬢”ことキャロライン・ショウは、昨年の『オレンジ』に続いて今年もグラミー・ノミネートの快挙。昨年はアタッカ・クァルテットとの弦楽四重奏作品が室内楽作品部門で受賞したましたが、今年はソー・パーカッション、ドーン・アップショウ、ギルバート・カリシュという凄腕ベテランたちとがっつりコラボしたアルバム『Narrow Sea』の作曲家としてノミネート。本当にお嬢、かわいいのにカッコいいです。この『Narrow Sea』の次のアルバムでは、偶然にも再結成アナウンスの前にABBAのカヴァーやってたりして、妙に「持ってる」感があるところも好き。ますます神ってます。
ちなみに、近年、個人的にはこのカテゴリーがものすごく楽しみなのです。現代音楽というと、なんとなく学術的で難しい分野のイメージがありますが。この10年くらいの間に登場した若い作曲家たちの影響もあるのか、いわゆるミニマルっぽいテクノっぽい分野に限らず、ふつうの音楽ファンにも面白い、ものすごく柔軟で自由なジャンルになりつつある気がします。そのあたりのことも含めて、クラシック部門全体についてはまたあらためて書きますね。

●Best Remixed Recording (73)
リミックス・シングル、トラックを対象とする、リミキサーのための賞。

→「Constant Craving (Fashionably Late Remix)」(k.d.lang)
リミキサー: トレイシー・ヤング

☆今年7月、Pride月間のために何かスペシャル・イヴェント的なものを…と考えたラングが、過去のリミックス作品を集めたコンピレーション『makeover』。その延長線上の(あるいは「延長戦」という感じかも)形でリリースされた、『アンジャニュウ』(92年)収録の名曲をリミックスした最新シングル。ただし、この賞はあくまでリミキサーに与えられるものなので、ノミネートされたのはトレイシー・ヤング。ラングはノミネートはされていないけれど、k.d.langから始まった今年のプロジェクトとして考えると、やっぱりラングさまもおめでとうございます。アルバム・ジャケの水色ドレスも悶絶するほどゴージャスだったけど、このシングルのジャケットも80's感ぶりぶりでカッコいい。

●Producer Of The Year, Non-Classical (72)

ノンサッチ・アーティストというわけではなく、受賞対象作品というのもないので、これはちょっと番外編になりますが。
レイク・ストリート・ダイヴの『Obviously』のプロデュースを手がけたマイク・エリゾンドがプロデューサー・オブ・ザ・イヤー(ノン・クラシカル)候補にノミネートされています。
エリゾンドといえば、クリス・シーリーがMCを務めていたラジオ番組“LIVE FROM HERE”のハウス・バンドのバンマスでの大活躍も懐かしいです。シーリーの無茶ぶりにも負けず、どんなジャンルの音楽も見事にこなすスーパーマン。パンチ・ブラザーズは幅広いジャンルに精通していますね、ということを来日時にクリス・エルドリッジに言ったら「本当に幅広いっていうのは、マイク・エリゾンドみたいな人のことをいうんだよ。あらゆる音楽を、ただ演奏できるというのではなく深く理解している。それに比べたら、僕らなんか全然」と話してくれたのを思い出します。番組にゲスト出演した人々も含め、わたくしのノンサッチ推しメンがたくさんお世話になっているエリゾンドさん。おめでとうございます!

●最後に、まったくノンサッチに関係ない余談をひとつ。
トレイシー・ヤングがk.d.ラングのリミックスで受賞したベスト・リミックス部門を眺めていたら、なんと、ブッカー・T・ジョーンズがノミネートされている!?

Back To Life (Booker T Kings Of Soul Satta Dub)
Booker T, remixer (Soul II Soul)

一瞬、チラッと見て「ああ、Soul II SoulがブッカーTの曲をリミックスしたのね。よくある話だわ、あるある」と思ったが、違った、カッコ内はリミキサーではなくアーティスト名だよ! と気づいてビックリして調べてみると、どうやらSoul II Soulの「Back To Life」を3人のアーティストがリミックスしたepの中の1曲をブッカー T先生が手がけられたらしい。
まじか!?
 本当に、T先生なのか。もし、そうじゃない、同姓同名のブッカー T ジョーンズというDJさんがいるんだよ…とか、そういうことでしたら誰かご教示ください。で、肝心のリミックスを聴いてみたら、いわゆるふつうに♪どちどちどちどち…っていう、ソウルフルなクラブ・ミックスだったよ。これは、専門家の耳で聴けば何かものすごいのだろうか。全米で星の数ほどリリースされる曲の中でも、グラミー賞にふさわしいすげーミックスなのか。よくわからない。みなさんにも聴いてほしいので、Spotify貼っておくわね。

あー、びっくりした。

しかし、だよ。もし、これでブッカー Tが“リミキサー”としてグラミー受賞したりしたら、それはそれで面白いっていうか、ひそかに超すごい快挙ですよね。
グラミーのノミネートを眺めていると、こういう発見が楽しいです。

●この、ノンサッチ・レコードの今年のグラミー・ノミネート関連作品については、本家ノンサッチ公式さんがプレイリストを作っていますのでぜひ。以下Spotifyとアップルと貼っておきます。やっぱノンサッチ、面白い。


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