見出し画像

パイナップル恋歌(日記の練習)

2023年7月25日(火)の練習

 気の遣う連絡をえいやと昨日いくつか送ったら、その返事が各方面からまとめて打ち返されてきて、気遣いの二ターン目にはいった。

 駅前のNEWDAYSでDel Monteのカットパイナップルが売っていて、思わず買ってしまう。先月風邪をひいて臥せっていた時、動けるうちにと消化によさそうなフルーツゼリーをいくつか買ったのだが、普段は買わないパインゼリーを買ったらそれが想像以上に美味しくて、今更になってパインに開眼してしまった。
 私にとってのパイナップルは、弁当箱の隅にデザートとして一切れ、赤い洋剣を突き立てられている、あのイメージだ。弁当箱の調和をかき乱す異質な存在にもかかわらず、みずからが場から浮いているのを知ってか知らずか赤と黄の極彩色で陽気に自己主張する彼を、どこか疎ましく思っていた時期さえある。しかし、パインゼリーのなかのパインには、あの眉を顰めてしまう自己主張の影はなく、涼しげに浮かぶ姿はなんとも気持ちよさそうだ。時に、いーっと口角を引き締めてしまうあの酸味も、ゼリーの甘味とほどよく調和しているし、シャキシャキとした食感は飽きさせない。パイナップルの知らない一面を垣間見た思いだった。

 青木潤太朗原作、森山慎作画の漫画『鍋に弾丸を受けながら』で「パイナップルという果物は木からちぎった瞬間から追熟しなくなる」と描いてあった。輸入果実である以上、真の意味で完熟を迎えたパイナップルが日本で流通することはないそうで、すくなくとも東京にいる限りは、本当に美味しいパイナップルは食べられないのだろうか。しかし「本当に美味しいパイナップル」なるものを食べるを能わないことに、どこか安心している私もいる。これ以上パイナップルの美味しさを知ってしまうと、正気を保っていられる自信がない。そうだ、騙されてはいけない。彼は弁当箱のはみだしっ子であり、酢豚に載って顰蹙を買うようなやつだ。あんなやつ、好きになってはいけない……。

 心のなかでつぶやきながら、カットパイナップルを一切れ食べる。美味しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?