見出し画像

ベランダ掃除の話

(過去ブログからの移植です)


米を研ぐ水道水の生ぬるさ、ヘアワックスのバームの柔い感触、すんなり重力に従う蜂蜜、家の中にいても身の回りのものたちから夏の到来を感じる。

夫が2リットルのジュースをたまに買いたがるので冷蔵庫に置いてみたら、隣の麦茶よりもつい手が伸びがちになってきていけない。実家がジュース禁止の家庭だったので、私にすればそれは禁断の味で、ぐっと飲んでしまえばちょっとした不良気分だ。


いつも行く業務スーパーで買い物をしようと思ったら、その隣にある雑貨屋がふと目に留まった。雑貨屋といっても小洒落た店構えというわけではなく、ホームセンターを商店規模にしたような、アルミ鍋などの金物がやけに多い、昔からこの町にあるんだろうなという雰囲気の店である。

普段は用のないその店の前で自転車を止めたのは、店先にデッキブラシが並んでいたからだ。



今の家に引っ越して半年近く経つが、ひとつ私を悩ませる問題があった。ベランダがやけに汚れるのである。毎日舞い込んでくる枯れ葉や土埃を掃き、雨の日は泥で濁った水が伝ってくるのを見て肩を落とす日々……梅雨が明けたらまた改めてきちんと掃除しなければと気にかけていた。

七階にも関わらずやけに枯れ葉があるなと疑問に思っていたが、ある日小豆程度の大きさの白い粒が散っているのを見つけて、原因が確信に至った。これはプランター用の肥料であろう。我が家は園芸の類は嗜んでいないが、お隣さんはベランダ園芸ガチ勢の方々だ。方々、というのは、両隣ともにという意味である。


「枯れ葉や土で我が家のベランダが汚れやすいので、少し配慮して園芸をして頂けませんか」なんて言えるわけがない。植物と暮らすのは素敵で良いことだし、園芸や家庭菜園を営む勇気のない私はその暮らしを尊敬している。水を差したくはない。



梅雨明けの日差しにふうふう汗をかきながら、デッキブラシを持って自転車をこいだ。私はやけに汚れるベランダを積極的に掃除しながら暮らしていくことにした。間接的なご近所付き合いと、なにより自分のために。デッキブラシを購入するということは私にとってはそういうことだ。

デッキブラシは千円くらいだった。もう少し安くて木の見た目が可愛いものもあったが、柄がアルミでできているほうがずっと軽くて扱いやすそうなのでそちらにした。


少しずつ水を撒きながらデッキブラシでガシガシこすっていくと、ざらついていたベランダが本当に綺麗になっていく。なんて効率的なんだろうと感動した。屈みながら柄付きのたわしでちまちま掃除していた今までが馬鹿みたいだ。まだ一度しか使っていないが私はひとつの真理に到達した、ベランダ掃除はデッキブラシに限る。ブラシでこする作業よりも何度もバケツに水を汲んで運ぶほうが時間がかかったので、今度は大きいバケツか桶みたいなのが欲しいなあと思った。


西陽のおかげでベランダはあっという間に乾き、輝くように美しくなった。デッキブラシさえあればベランダ生活は無敵だ。本当に買ってよかったと思う。



椅子を出して、夫の買ったジュースを飲みながら夕焼けを眺めた。住宅街の屋根たちにオレンジの陽が差しているのが綺麗でしみじみする。ここからの美しい景色はこの家の好きなところのひとつだ。かすかな緑のにおいがして気持ちが良いのも。



2020-08-08
『ご近所づきあい』

最後まで読んで頂きありがとうございます!頂いたサポートはだちこがnoteを書きながら食べるおやつなど、活動の励みにいたします(*´ω`*)