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僕らにしか伝えられないことがある(前編)

2022年3月13日、デフバスケットボールチーム「ONELYS誠family」が中心となり、様々な人との交流を図るチャリティーイベント「mix plus」が開催された。今回で8回目となるイベントを運営するのは認定NPO法人one-s futureの代表であり、デフバスケットボール日本代表の監督も務める上田頼飛だ。そこにBリーグ三遠ネオフェニックス、デフバスケットボール日本代表としても活躍する津屋一球が加わった。今回は2人にこのイベントの意義とこれからのデフバスケットボールの可能性について話を聞いた。聞き手は宮本將廣。

<プロフィール>
上田頼飛
1981年11月21日生。大阪府出身。バスケットボールを続けるなかでデフバスケットボールと出会い、普及や強化に尽力。デフバスケットボール日本代表監督して活動し、デフバスケットボールから学んだことを社会に還元しようと認定NPO法人one-s futureを設立。全国で講演や普及活動を行う
津屋一球
1998年6月8日生。青森県出身。小学生からバスケットボールを始め、年代別日本代表としても活躍。高校3年生の時にデフバスケットボールと出会い、U21デフバスケットボール世界選手権とアジアパシフィックデフバスケットボールクラブカップに出場し、MVPを獲得した。現在はBリーグの三遠ネオフェニックスでプレーしながら、デフバスケットボール日本代表としても活躍

↓↓インタビューの前に...... 「デフバスケ」 とは?↓↓

宮本 先日、mix plusというイベントを開催されました。今年で8回目の開催になりますが、どのようなイベントなのか簡単にお願いできますか?
上田 デフバスケは代表活動がメインなので応援してくれる方と直接お会いできる機会はほぼなくて、それでもどうやったら一緒に楽しめるかと考えたときに、イベントを開催することになりました。そして、ただ開催するのではなく、応援してくれる方々にお返しをすることをテーマにしたんです。
宮本 なるほど。津屋選手はどのタイミングでこの活動に参加されたんですか?
津屋 ずっと関わらせてもらっていたんですが、ちゃんと関わらせてもらったのはBリーグに入ってからなので、1年ちょっと前からですね。
宮本 個人的に津屋選手にお伺いしてみたいことがあって、僕の身の回りには難聴の人はいないのですが、僕自身が突発性難聴になって聞こえなくなったことがあったんです。津屋選手は補聴器をつけて生活されていますけど、その辺りにコンプレックスを感じたりしたことはありましたか?
津屋 小さい頃はコンプレックスがあったのが正直なところで、小学生の頃とかは耳に何かをつけているのは僕だけだったので、嫌だなという気持ちはありました。
宮本 なるほど。その中で、こういう活動や上田さんと出会ったことでコンプレックスが解消されたりしましたか?
津屋 はい。それはすごくありました。あとは僕の中ではバスケの存在が大きかったです。バスケで誰よりもすごくなってやろうと思ったからこそ、気持ちで負けなかったというか、コンプレックスを感じなくなったというのはあります。そこに加えて、高校3年生の時に上田さんにデフバスケに呼んでもらって、初めて自分以外で耳が聞こえないバスケ選手に出会ったことで、僕だけじゃないんだとすごく感じて、そこからコンプレックスだと思うことはゼロになりましたね。
宮本 なるほど。最初からこんな質問をして失礼だと思ったんですが、僕も突発性難聴で聞こえなくなった時にすごく生活が大変で、こんなに耳を使っているんだって気づいたんです。だけど周りの人には言えなかったんですね。でも、同じ境遇の方と知り合うようになったことで心が落ち着くなという経験が僕の中でもあったので、津屋選手に聞いてみたかったんです。上田さんは、デフバスケとはどのような経緯で出会って活動を始められたんですか?
上田 僕はストリートバスケット出身なんです。港町出身だったので、近くに外国人とか色んな方がいて、リングに集まってコミュニケーションをとる機会がよくありました。そこで出会った人に呼ばれて違うバスケに参加した時にデフバスケの方と出会って、すごく好意的に接してくれたんです。その方と出会って、デフバスケの話を聞いて色んな世界があるのだなあと思いました。そこから10年以上経って、たまたま出た3人制のバスケの大会でデフバスケの前理事長の篠原雅哉さんに出会って、最初は体育館を一緒に探すご協力を始めて、そこから監督をやりませんかとなりました。
宮本 なるほど。実際に一緒に活動をされる中で、現場に行った時にいざ自分に何ができるんだろうみたいな戸惑いとかはなかったんですか?
上田 聴覚障害者と出会った時に、確かに言葉を聞き取れるけど、言ってることがわからないことはあるんです。でも、皆さんがすごく伝えようとしてくれたり、向き合おうとしてくれるから、僕は嬉しかったんです。日本代表の監督のお話をいただいた時は、流石にすぐには引き受けなかったです。でも、「上田さんは協力をしてくれるし、デフのことを理解しようとしてくれるから」とおっしゃってくれて、私のできる範囲でしたらということで受けさせていただくことにしました。
宮本 今の上田さんのお話にあった「理解しようとする姿勢」というのがおそらく重要なところだと思います。このインタビューでキーワードにしたいのが「コミュニケーション」なんです。今回のmix plusのイベントはやはり現場で行うということが大事で、もちろんコロナ禍で大変なことがあったと思いますし、色んなお話、ご意見もあったと思います。それでも聴覚障害や色んなものを抱えている人たちが現場で顔を合わせるということによって、通じるコミュニケーションが絶対にあって、それが大切だと僕は思いました。その辺は上田さんはどのようにお考えですか?
上田 僕たちは普及と強化は違うと考えています。僕らは普及もしますけど、夢を与えられる、人から応援されるようになって初めて資金が集まったり、助成金などを使えると考えています。フロアでバスケを頑張るだけじゃなくて、それ以外のところでできることを考えることが僕の中では主体なんです。今回イベントを開催して、僕たちが何かをやりたいというよりも、色んな中で何かきっかけがほしいと思っている方がいて、こういうイベントが、その人達にとって人生が変わるきっかけになるのであれば、どういった状況でも突き進みたいと思っています。例えば今回、聴覚障害がある子が参加してくれました。その子が津屋一球と出会って、すごく喜んでくれたんです。コロナを舐めている訳では全くないし、感染対策をしっかりする中で、僕は感動を届けることはすごく大事かなと思っています。でも、コロナに罹ったら……というのはもう堂々巡りですけど、もうそこは覚悟を決めてやろう思いました。

津屋_表彰式

宮本 津屋選手は実際に現場で活動して、コミュニケーションをとってみてどうですか?
津屋 そうですね。元々はデフバスケを応援してくれている人への恩返しというコンセプトの中で、デフバスケだからこそオンラインは難しいのが正直なところです。デフだからこそ顔を合わせて、会話、コミュニケーションをとることで来てくれる方が喜びを感じてくれると思うし、改めて僕らもこんなに応援してもらえていることを肌で感じられるので、コロナ禍という難しい状況でも上田さんが言った通り、人に感動を与えられるという方を選んだというか……。僕自身も誰かに何かを届けたいと思ってバスケを続けています。そういう意味では直接お会いした上で、また応援してもらえるように、恩返しができるように繋がっていくことが大事だとすごく思いました。
宮本 上田さんの他のインタビュー記事で読ませていただきましたが、支援をしてもらうことが当たり前というところから、支援をする側に回る必要性もあると話されていました。上田さん自身がこのように前に出て、活動するようになったきっかけは何かあったんですか?
上田 デフバスケ自体の知名度がない中で、私が選手たちに比べればちょっとだけSNSのフォロワーや知り合いが多かったので、自分が前に立って広報をしていくことにしました。よく前に立ちたい人と思われるのですが、前に立つのは実はあんまり好きじゃないんです。聴覚障害者は聞こえないですが、元気な人は多いので、何かできるんじゃないかと思いました。
宮本 なるほど。今のお話と繋がるかわかりませんが、津屋選手は生活の中で逆に難聴を都合よく使ってしまうこととかはありましたか?
津屋 親の影響なのか自分の性格なのかはわからないですけど、特別支援学校のようなところにに通うのは僕は嫌だったんです。だから普通の小学校に親が行かせてくれたのは大きかったと思います。何かしてもらって当たり前と思うことや気を使われることが嫌でした。これは上田さんと出会ってから思ったことで、支援されることが当たり前と思っている人もいることに驚いたのが正直なところです。そういう中で自分は他の人に影響を与えたいという気持ちにはなりました。それが今のmix plusとかで表現されるものだと思っています。
上田 とは言いつつ、津屋も都合悪くなると結構聞こえへんふりとかしますけどね(笑)。
宮本 アハハハハ。
津屋 それはありますね(笑)。うまく使わせてもらっているところも正直あります(笑)。

後編につづく)

ONELYS wakayama(ワンリーズ和歌山) HP

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