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阿刀秀嗣になりたい君へ

自他ともに認める目立ちたがり屋

「そこハッスルさせないようにしよう。そいつはハッスルが生きがいやけん」

そう言いながら3STORM HIROSHIMA.EXEの比留木謙司(5人制ではB3トライフープ岡山のHC兼GM)がトップでボールを持っていた阿刀秀嗣を指差した。日本の3x3トップリーグ、3x3 PREMIER.EXE 2021 ROUND1での一幕である。

おそらく比留木は冗談のつもりで言ったのだろう。5人制のプロキャリアを築く傍らストリートシーンでも精力的に活動してきた比留木にとって、阿刀は気心の知れた後輩だ。しかし、心の奥底では気づいていたのかも知れない。コロナ禍で2年ぶりとなった3x3 PREMIER.EXEの開催、地元福岡に誕生した新チームでのレギュラー参戦と、自他ともに認める目立ちたがり屋たる阿刀が燃える要因が揃っていたことに。

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この試合で、阿刀はハッスル以上のものを見せた。2P2本を含む15点を奪い、チームの勝利に貢献したのだ。しかも最後の21点目は昨シーズンB1で活躍した山本エドワード(昨シーズンはB1信州ブレイブウォリアーズでプレー。今シーズンからB3長崎ヴェルカに移籍)を抜き、ヘルプに来た比留木にぶつかりながらのシュートだった。金沢市民中央体育館に、阿刀の雄叫びが響きわたった。

その他大勢のストリートボーラー

読者諸兄の何割が阿刀秀嗣のことを知っているか、私にはわからない。阿刀がバスケのエリートコースに乗っていたのは福岡大学附属大濠高校までだ。大濠では3x3のオリンピック日本代表候補に最後まで残った小林大祐(B3アルティーリ千葉)、昨シーズンのBリーグMVP金丸晃輔(B1島根スサノオマジック)、元5人制日本代表の橋本竜馬(B1レバンガ北海道)といった錚々たるメンバーと共にバスケに明け暮れた。しかし進学した国士舘大学では思ったような結果が出せずプロは諦め、その後は活躍の場をストリートシーンに移している。

大学と社会人生活最初の数年を過ごした東京から地元福岡へ戻ってからは、全国区で阿刀の名前を聞く機会は少なくなった。SOMECITY FUKUOKAを勝ち上がりTHE FINALに出た時か、3x3 PREMIER.EXEに参戦した時ぐらいで、どちらも狭き門だ。3x3 PREMIER.EXEには発足当初から参戦している阿刀だが、これまでレギュラー参戦できたのは2シーズンのみだった。それ以外の年はTRプレイヤーと呼ばれる欠員補充リストの中で出場機会を待った。

近年、ストリートボールとプロの境目は曖昧になってきている。3x3 PREMIER.EXEはプロリーグを標榜しているが、これまでは他の仕事と掛け持ちする兼業プロが大多数だった。しかし、3x3がオリンピック種目に正式採用されたことも追い風となり、山本エドワードや小林大祐のようなBリーガーの参戦も増えた。また、寺嶋恭之介(SOMECITYではF’SQUAD、3x3ではHACHINOHE DIME.EXEに所属。昨シーズンはB2青森ワッツでプレー)を筆頭にSOMECITY経由でBリーガーになる選手も現れている。そんな中にあって、これまでの阿刀はと言えば、中途半端なポジションでくすぶっていた。アマチュアとしてはトップクラスの実力を持っているが、かと言ってストリートシーンを引っ張るような存在ではない。ストリートボーラーとしてはその他大勢の括りにいたのだ。

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その阿刀が、人知れず全盛期を迎えている。FUKUOKA YUWA MONSTERS.EXEのメンバーとして3シーズン目の3x3 PREMIER.EXEレギュラー参戦が決まると、冒頭で触れた開幕戦以降、チームで唯一の全試合スタメン出場を果たし、平均7.3点を記録しているのだ。特に2ポイントの確率34.3%と1試合平均1.7本成功はワイドオープンの生まれにくい3x3の競技性を考えると立派な数字である。阿刀は今、その他大勢のグループから、一歩抜け出そうとしている。

体のピークは今日

「体のピークは今日だと思っているんで」

と、阿刀は真顔で言った。

阿刀がどのようにしてキャリア最高のシーズンを送っているか探るべく質問していた私が、彼の年齢に触れたときのことである。阿刀は今月末で34歳を迎える。普通ならば身体能力が緩やかに下り坂へと向かう時期だ。

「好きな言葉があるんです。『やれる時にやりたいことをやり尽くす』『体のピークは今日』『人生で一番バスケが上手いのは今日』『I don’t get tired』」

阿刀が続けた。阿刀はまだ真顔だ。このセリフを真顔で言い切れる男を、私は彼の他に知らない。あるいはコービー・ブライアントやラッセル・ウェストブルックなら同じようなことを言うだろうか。

好きな言葉以外でも、阿刀の口から出てくるのはおよそメンタル面の話ばかりだった。いわく、FUKUOKA YUWA MONSTERS.EXEはこれまでの自分の活動を評価してくれて、真っ先に声をかけてくれた。地元にできた初の3x3プロチームでもあるし、なんとか恩返しがしたい。いわく、今日(ROUND.4 UTSUNOMIYA)は数少ない関東での試合で、友人もわざわざ観にきてくれた。絶対に予選を突破しようと思っていたのにそれが叶わず不甲斐ない(FUKUOKA YUWA MONSTERS.EXEは予選1勝1敗ながら得失点差で惜しくもトーナメント進出を逃した)。

実際のところ、この日の阿刀は大入りの観客を前に奮闘した。特に2試合目は2ポイントを5本沈めるなど14点をあげ、チームを勝利に導いた。しかし、試合後に会った阿刀は泣いていた。

「普段、こっち(関東)の友達にはなかなか会えないから。応援に来てくれたときは勝たないと。それが俺が阿刀秀嗣だということの証明だと思うし。悔しいです」

バスケのことがずっと好きで良かったです

開幕戦での活躍に続く、大入りの宇都宮での奮闘。阿刀は気持ちの昂りをパフォーマンスに変えることができる。心の力こそが、阿刀の武器だ。しかし、それを有効に使えるようになったのは最近のことだと阿刀は言う。

「コロナ禍で、それまでやろうと思えば週7回できたバスケが思うようにできなくなりました。コロナ禍になる前は、今週何回バスケができた、何本シュートを打てたということに満足していたんです。でもコロナ禍でバスケをする時間が減ったことで、今まで通りただ漫然とバスケをするだけではダメだと思うようになりました。こういう動きをもっと強くできるようになりたいとか、速くできるようになりたいというように、実戦の動きをイメージしながらトレーニングをする癖がついたんです」

その結果は如実に出た、と阿刀は言う。実戦をイメージしたトレーニングは「俺は準備ができている」という自信に繋がった。心技体の心の部分が強くなることで、技や体で勝る相手とも勝負できることに気づいたのだ。もちろん、阿刀自身も技を磨いている。3x3を始めてからその重要性を再認識したという2ポイントを徹底的に練習した。引き出しの数は少ないが一つ一つの引き出しに詰めてある中身は増えたという。183cmという阿刀の身長ならばペイントタッチから多くの判断を求められる5人制と違い、3x3では思い切りの良さが生きるケースが多い。引き出しの数を増やすのではなく、引き出しの中身を満たすことで、阿刀は3x3に適した素早い判断を下せるようになったのだ。そこに心の強さが加わった。さらに体は今日がピークなのだから充実しているのも頷ける。

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これは、34歳のストリートボーラーが、チャンスを掴もうとしている話である。競技者なら誰もが願う、いつかは脚光を浴びたい、という野望を果たそうとしている話である。阿刀の後に続きたいボーラーのために書いたつもりだが、参考になっただろうか。心技体の心にフォーカスすることで成功できるという話は、簡単なようで難しいように私には思えた。感情の起伏をコントロールしつつ、常に自信を持って試合に臨まねばならない。

「バスケのことがずっと好きで良かったです」

インタビューの最後に阿刀は言った。そう言う阿刀の顔は晴れ晴れとした笑顔だった。心を武器にするのは難しい。しかし、もし貴方がその他大勢から抜け出そうともがいているとしたら、自問自答してみるといいかも知れない。自分はまだ、バスケを好きだろうか。そこに答えが隠されているように、私には感じられた。

Text & Photo By Sohei Oshiba​

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