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にわかがショパンを聴きにいく

角野隼斗さんのオールショパンプログラム@紀尾井ホールに1人で行ってきた。たまたまこの日パートが休みで。また場違いなところに来ちゃったなーと思った。チケットは抽選販売だったけど、告知からわずか2週間後の開催でファンクラブ会員限定(つまり1人1枚)で平日の夜、という条件だったのでそれほど競争率が高くなかったのかなと思う(あくまでも個人の感想です)。でもキャパ800人の紀尾井ホールは9割がた女性ファンでほぼ満席。空いていたのはカメラ周辺の数十席。カメラはステージに向かって右バルコニーと真後ろ一番奥、それとピアノ脇にあった。私は2階席の後ろのほうに座っていたので、1階の様子は分からなかった。
これだけしっかり撮影していたんだから、たぶんサントリーホールのときみたいに動画が公式サイトに上がるんじゃないかな。チケット代払ってなくてもせっかくの有料会員なんだし、見られないのは不公平だよねえ。
やっぱりこのご時世なので、とにかくマスク着用会話は控えて掛け声もダメ気持ちは拍手で…と繰り返しアナウンス。なんでもなかったら…みんなファンクラブ会員なんだし、おばさんは隣の人に話しかけちゃったかも。
二つ前の席にカップルもいて、へえファンなのかなピティナの関係者かなと思っていたら後に亀井聖矢くんと判明。マスクしてたから分からなかったよ。

配られたプログラムは以下の通り。事前に公開されていたリストからは一曲外されていた。にわかのおばさんはこういう番号と調性でタイトルが書かれてる曲だとさっぱりなので、いくらか予習していった。

<オールショパンプログラム>

マズルカ 作品24
練習曲 作品25-4、作品25-11「木枯らし」
ピアノソナタ第2番 変ロ短調 作品35
スケルツォ第3番 嬰ハ短調 作品39

マズルカ風ロンド ヘ長調 作品5
バラード第2番 ヘ長調 作品38
ワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」変ホ長調 作品18
ポロネーズ第6番「英雄」変イ長調 作品53

そうこうしているうちに角野さん登場。ショパンオンリーだから、かっちりした演奏会スタイルなのかと思っていたら、スーツでも黒いシャツにノーネクタイ。ジャケットのボタンを留めるしぐさも無し。
ここのところ音楽番組での露出が多くて画面越しによく見ていたけれど、やっぱりご本人を直に見られるのはいいなあ。しかも今回ガチのクラシック。

無言でピアノの椅子に座り、またしばらく間をおいて演奏が始まった。軽やかなマズルカからエチュードへ。

で、「木枯らし」から空気が変わった。マズルカはウォーミングアップだったのかなーと思った。音の圧が上がって、ここから本気出す!みたいな。生演奏を聴くと、本当に音が強くてびっくりする。あんなに細い体で涼しい顔で演奏しているのにね。ホールの響きもまた良し。

ソナタ2番云々はタイトルに書いてないけど第3楽章が誰でも聞いたことがある「葬送行進曲」。これ聴きたかったんだ。途中で曲調が明るくなるところが好き。心置きなく天に召されるような。
スケルツォはなんかひらひらした曲(小学生並みの感想)。さっきウィキペディア見てきたら、「レース」「すだれ」と形容される、と書いてあった。なるほどなと思った。
ここまで50分ほどを一気にきて20分の休憩。ご本人一言もしゃべらずステージを去っていった。あれれ、今回最後までこのままいっちゃうのかな。

休憩中にピアノ(スタインウェイ)の調律が入った。演奏会の途中で調律、なんて初めて見た。本人から要望があったのだろうか。演奏中に調律師さんも控えているんだと、なんか感心した。

休憩が終わって次はマズルカ風ロンド。ピティナのチャンネルに、過去に角野さんが演奏した動画が上がっている(予習で見ていたら画面をのぞいた娘がうぉおおえええい、と変な声を上げていた)。
…と思っていたらなんか違う!これは…プログラムには無いノクターン9-2の角野アレンジ!あれですか、ボーナストラック的な?ああでもちょっとほっとした。

ノクターンが終わって、ここで初めてMC。来月ショパン国際コンクールの予備予選に出場するので、今回予行演習のつもりで臨んだと。予行演習に皆さんをつきあわせて…とのコメントに会場から笑いが起こる。前半重めだったので後半はリラックスして、とのことだった。

そして今度こそマズルカ風ロンドから、サントリーホールでも演奏されたバラード2番へ。明るく始まって途中でががががっとくる曲ね。
聴いていて、やっぱりショパンってすごいなーと思った。明るくて、美しくて、上品で、クリア。大胆で細かくてメリハリがあって。そして曲の数が膨大で。それらがずーっとたくさんの人の耳に残って。
作る側も聴く側も、こういう経験できるのって幸せね。

終盤の「華麗なる大円舞曲」もすごく聴きたかった曲。角野さんが演奏したらどんなふうになるんだろうと楽しみにしていた。
この曲と「葬送行進曲」は、私が中学生のときに買った全音のピアノ名曲選集(中巻)(黄帯)に入っていて、ちょっと取り組んだことがある。全然モノにならなかったけど、今回の角野さんの演奏でああこういう曲だったんだとしみじみ思った。途切れていた線がつながったような、なんとも言えない感覚だった。
最後の「英雄ポロネーズ」は王道。ザッツショパン。かっこいいよねー。

鳴りやまない拍手にアンコール。始まったのはエチュードの10-1。行ったり来たりの連続高速アルペジオ。うおお、角野さんの10-1、初めて聴いた。リアル「ピアノの森」だ!耳福だ!圧巻でございました。

アンコールの後にMC。まず満席のリサイタルがうれしいと。そして〝巨人の肩の上に立つ〟という話を。研究者界隈で使われる表現だそうで、先人たちの功績の上に自分の成果を積み重ねるというような意味合いらしい。ぐぐってみたらウィキペディアにも載っていた。
肩の上に立つには、まず肩まで上がらなくてはならない。それが自分にとってのクラシックだと思っていた。そして肩に上がるための一歩が今回のコンクールへの挑戦だと。だから応援してくれるとうれしい、というようなことを話したと思う。
天才だ何だと言われている人だけど、自分だけ高みに上がるということではなくて、ちゃんと足元に積み重なっているものを感じてその次を見据えて橋渡しを考えている。まだ20代半ばの青年だよ?どういう次元に生きているのだろう。

アンコール1回じゃ収まらず、それは本人も想定外だったらしく、じゃ子犬のワルツを弾きましょうかと。誰もが予想した通り、途中で大猫が入ってきて拍手が起こる。また子犬に戻っていったけど、エンディングは猫もまだいたんだろうなと思わせるボリュームがあった。
はい、拍手鳴り止みません。さすがに3曲目は無かったけれど角野さん何度も出てきてお辞儀を。しまいには客席に向かって手を振ったり拝んだり、ホールはもう前のめりのオーディエンスでいっぱいの、濃い空間と化していた。それは角野さんの壮行会でもあった。

ショパン国際コンクール、予備予選(164人だって)が終わったら帰国して国内の演奏会をこなし、本選に進めれば(シード含めて80人だって)また渡欧してということになるのかな?結果を出して凱旋リサイタルが開かれるなんてことになれば素敵だな。

角野さん、関係者の皆様、今回の粋な計らいをありがとうございました。おばさん、今年は配信だけで演奏会には行かないだろうとか書いていましたが、申し込んで良かったです。毎回、これが最後の機会かもしれないと思いつつ臨んでおります。
来月はどうぞお気をつけて行ってらっしゃい。
ご武運を。

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…このプログラムが下敷きにできそうなくらいの厚紙。

※7月24日追記:予備予選突破おめでとうございます!10月からの本選も実力が100%出せますように。

※8月24日追記:有料会員向けにファンクラブ公式サイト内にて、当日の演奏が公開されました。

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