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プロダクトの「独占」と「キャズム」について考えた事

hey/STORES.jpでプロダクトマネージャーとして働いている西岡(@nishiokadaiki1)と申します。

この記事はSTORES.jpアドベントカレンダーの11日目の内容として書かせてもらっています。

自己紹介

これまでの経歴は、楽天市場 -> トクバイ-> hey / STORES.jpというサービスで一貫してプロダクトマネージャー(ディレクター)を担当してきました。経歴についてはこちらの記事でまとめてもらっているので、クソ暇なときにでもチラっと見てくれると嬉しいです。

前提として、下記の内容は大成功した経験談ではなく、過去プロダクトマネージャーとして、もがき苦しみつつ、様々な文献をインプットしながら、プロダクトの成長のために考えていた内容を一度まとめたいと思い、筆を取りました。

結論を先に述べます。

プロダクトの成長には、「独占」と「キャズムを超える」ことが交互に必要であるというのが現時点の結論です。もちろん、私オリジナルの考えではなく、過去の文献のほぼ丸パクリです。特に、ピーター・ティール「ZERO TO ONE」とジェフリー・ムーアの「キャズム2.0」に多く影響を受けています。



プロダクトが長期的に成長するためには、非連続的なグロースが不可欠です。facebookのグロース戦略を紐解いたこちらの記事では、初期の想定以上にユーザー数を増加させた事が記載されています。

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どうやってユーザーを獲得し成長するか (Startup School 2018 #08 , Gustaf Alstromer)
https://review.foundx.jp/entry/how-to-get-users-and-grow

この記事を読むまで、「スマートフォンデバイスの登場」と「フィードページUIの発明」の一発屋としてfacebookは成長したと解釈していました。しかし、実際は、複数の非連続的な成長を実現しており、適切なタイミングでキャズムを超える一手を実行したため、当初の予想を超える成長ができたのだという考えに至りました

「独占」と「キャズム超え」とは?

そもそも、「独占」と「キャズム超え」の意味を考えます。

この場合の「独占」とは、ある特定のユーザーやユースケースにおいてプロダクトが利用される事を指します。「キャズム超え」とは、プロダクトの対象ユーザーを広げるために、現在利用してくれているユーザーとは違う、新しいユーザーを獲得する意味として使っています。

「独占」と「キャズム」を繰り返し成長するグラフ

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いきなりマスを狙うとなぜまずいのか?

ピーター・ティールは名著 「ZERO TO ONE」で何度も下記のような内容を述べています。なぜ特定ユーザーのユースケースに狙いを定める必要があるのでしょうか。

大成功している企業はいずれも、まず特定のニッチを支配し、次に周辺市場に拡大するという進化の過程を創業時から描いている。

https://www.amazon.co.jp/dp/B00NQ3QONK/

個人的な解釈ですが、いきなり大多数(マス)に向けたプロダクトを作っても、ユーザーが自分ごと化できないため、獲得効率が悪くなります。また、熱狂的なムーブメントは人から人へと徐々に伝播していきます。周り道のように見えますが、多くの人に使ってもらうには、最初に特定ユーザーに熱狂的に活用してもらう事が一番の近道です。

キャズムを超える時

まず、現時点で「誰に何を提供しているのか」を明確に言語化する必要があります。その上で、現状のターゲットユーザーを獲得しきれているのか、それとも新しい顧客をターゲットにするのか?を最初に意思決定しなければなりません。

いま満足してくれているユーザーは誰なのか、逆にすぐ離脱してしまうユーザーは誰なのかを明確に言語化することが重要です。退会時のアンケートやアクティブ化するまでのデータなどを参考にする場合が多いと思います。

新しい顧客にアプローチする場合、下記のような内容を検討します。最も重要な事は、優先順位が低い(対象外)顧客を定義しておく事です。先に対象外にするユーザーを明確にする事で顧客の解像度が高まり議論が進みます。

キャズムを超える時の検討事項
・どの顧客をターゲットにするのか?
・その顧客が抱えている課題は何か?
・その顧客は数年後どうなるのか?
・その顧客に刺さるコアの機能は何か?
・その顧客をどのように獲得するか?

あのサービスも「独占」と「キャズム」を繰り返していた?

下記は他社サービスの事例なので、勝手な妄想ですが。。。

現在はフリマアプリとして国内1位の座を築いているメルカリ。今ではユーザー層も幅広く、様々な商品が売買されていますが、アプリリリース当初から現在のような状況であった訳ではありません。

メルカリのプロモーション遍歴に関してはこちらの記事にまとまっています。記事を拝見すると、ターゲット層を変更させつつ、プロダクトとマーケティングの巧みな戦略により、順調に利用者数を伸ばしてきた歴史が垣間見れます。

初期のfacebookもハーバード大学など有名大学生をターゲットにした事で、一気に利用者を増やしていたようです*1。最近の事例では、TikTokがオンライン広告で学生を獲得した後、テレビCMではマスを意識して上戸彩さんを起用しているのが印象的でした。

キャズムを超える時の苦しみ

過去、何度かキャズムを超えるタイミングを経験しました。実際に体験したSaaSモデルとマーケットプレイスに分けて考えてみます。

SaaSのプロダクトでは、対象ユーザーが変わると、提供価値を変更する・増やす場合が多いです。初期はSMB向けに作っていたプロダクトを大企業向けに変更しようとした場合、UI・UXに悪影響がでるリスクがあります。

この点、Shopifyは必要な機能をユーザー自身でカスタマイズできるアプリストアを提供しており、多様なユースケースにワンプロダクトで対応するための一つの解を示しています。

また、SaaSは一つのプロダクトに関わる人数が非常に多いです。マーケティング・営業・カスタマーサクセス・プロダクト開発が同じユーザー像と戦略を描き、実行できるかは、キャズムを超える時の最も難しいポイントであると思います。過去苦労した経験しかないですが、社内の関係者で何度も議論し、しつこく何度も発信していく地道な広報活動が重要だと思います。

一方、マーケットプレイスでは、供給側とユーザーの両方に影響がでます。定石*2は先に供給側を獲得するのですが、トランジション期において苦労する傾向があります。既に成り立っているマーケットプレイスにタイプの違う供給者を増やした場合、ユーザー側に必ずハレーションが起こります

例えば、今まで女性用アパレルのマーケットプレイスに、男性用スーツが急激に増えるとユーザーの期待とは全く違うものになるでしょう。負のフィードバックサイクルが回ると、既存のヘビーユーザーが離れてしまうリスクがあります。

この時にポイントは2つあると思います。

1つ目は当たり前ですが、既存の利用ユーザーと相性の良い供給側を優先的に獲得していく。2つ目は既存ユーザーへのネガティブインパクトを抑える方法をリーンに検証していく。いきなり全展開するのではなく、リーンに検証してネガティブインパクトを最小化する方法を探るのが良いかなと思います。

最後に

上記がプロダクトを成長させるためにぼんやり考えていた内容になります。プロダクトマネージャーに成り立ての頃は、日々出てくる顧客の要望を一つずつこなせば良いのでは?と考えていましたが、要望を順番に解決する事が必ずしも事業の成長に結びつく訳ではないことを実感しました。

今回の内容で一番難しいのは、既存顧客からヒヤリングしたり、データ分析するだけでは、キャズムを超える意思決定を導き出せない点です。そうしたスキルはある方が絶対良いし、必要な場面が多いというのは大前提ですが、僕自身一時期、プロダクト開発の周辺スキルを追い求め「PMスキル沼」にハマっていました。現在もスキルが高い訳ではないですが、スキルだけではプロダクトの成長に寄与できないのではないかと思ったのが、上記の思考を推し進めた要因になります。

プロダクトを成功に導くプロダクトマネージャーには、常に現状のキャズムを超えた未来のあるべき姿を「執着して描く」と同時に、「適切に疑う」という相反する姿勢が必要だと実感しています。まだまだ、自分自身その境地までは全く至っていないのですが、自分自身を継続してアップデートできるようにチャレンジしたいです。取り留めのない結論になりましたが、この記事が誰かの参考になれば幸いです。


参考文献

※1 /  Facebookが2004年にローンチしたとき、たった8つの機能しか実装していなかった
http://www.turnyourideasintoreality.com/2014/08/facebookwithonly8f/

※2 / CtoCのニワトリとタマゴの問題を解決するためにやった5つのこと(元FRIL 堀井さんの記事)
http://shotahorii.com/diary/chickenandeggproblem/


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