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ドナー (4)

台風の日、伊藤さんから3度の着信があった。

複数回の連続着信は初めてだったので、何かあったんだなと唾を飲んだ。

折り返すと「小林さんがドナー候補者に選ばれました!」と冷静な伊藤さんが興奮気味にドバッと吐き出した。「どうやら、(執刀医が)小林さんに最初から決めたかったようです」とのことだった。HLAの適応度が高かったのか、骨髄の量か、スケジュール的なことが良かったのかはわからないが、通常2-6週間かかると言われていた選定に5日で選ばれた。

骨髄移植のドナーになった。

当初抱いた手術の恐怖より、俺の血で大丈夫なんだろうかと思ってもみなかった心配が湧いた。手術後に患者さんが、なんかテキトーになったとか、逃亡癖がついたとか、根っこが腐り始めたりしないだろうか。血液情報は末代まで引き継がれ、それは身体的なことだけでなく性格などにも影響があると何かに書いてあったことを思い出した。

店とお金の心配も現実的になった。ドナー患者への報酬というか給金は6泊しても総額5000円+交通費。僕は個人店をやっているため、誰かにバイトの手伝いをお願いしなければいけない。有給でも無給でもなく、支払いが生まれる。僕が店番していない方が売れるという説もあるけれど、それにしても少なすぎるだろっとツッコミをいれたくなる金額だ。

そんなマイナス面ばかり見がちだが、「ドナー患者」という報告は気を引き締めた。誰かの役に立つということは、顔を上に向かせ、目を黒くさせ、気持ちを強くさせた。

最終面談、最終健康診断を経て、入院になる。

つづく


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