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ドナー (6)

実際に入院する病院での術前検診。綺麗で巨大なロビーには、病人や付き添い人が溢れんばかりにいて、入院ドキドキ初体験気分をじわっと灰色に変えた。
身長、体重、血圧を測り、問診、採血、採尿、エコー、心電図。検査結果は良好で、改めて医師からドナーのゴーサインがでた。

入院手術といっても、今回僕が受けるのは末梢血幹細胞採取というもので、全身麻酔で骨に小穴を開けて骨髄を抜き取るものではない。G-CSFという薬を4日間に渡って皮下注射をして、骨髄から染み出してきた血中の造血細胞を人工透析のような機械で5時間かけて取り出すというものだ。
全身麻酔のリスクは少ないが、G-CSFは比較的新しい薬のため、予後どのような病気になるかはまだ十分にはわかってないくさいし、なにより自分の身体が謎の液体で培養庫になり赤血球なり白血球などが大量に増えていくのは気味悪い。どうせなら指からクモの糸が出せたり、透明になって壁をすり抜けるようにしてほしい。

どちらかというと全身麻酔の方を経験したかったのだけど、患者さんと医師の意向で末梢血になった。どういう判断で末梢血を選択したのか聞きたいが、患者さんについて僕が知れることは3つだけだ。性別、誕生年代、居住エリア。患者さんも同様で、僕のことは知らされない。患者さんからしたら「男、40代、関東在住」の3情報だけでは今後の人生不安だろうから、猫好き、睡眠良好、ゴミ収集日は忘れないぐらいの情報を足してあげてほしい。

とにかく、患者さんには無事に生着してなんとしても楽しく生きてほしい。

一週間後、入院だ。

つづく

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