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2022年7月15日午後4時32分

展示なし、金曜日、雨。
この三つが揃うと、売上ゼロの確率が急上昇する。
そんな7月15日金曜日16時32分。店を開けてから、4時間半。閑古鳥の店のレジには若造した中年の男。なんて悲しい絵面だろう。

もう何回、冷蔵庫を開けただろうか。レジ奥の冷蔵庫に入っているのは、こだわりレモンサワー檸檬堂350ml1本と小さい角切りのチーズ。
レモンサワーは、おととい集荷のおじさんに2度来てもらったお礼にと2本買ったうちの残り1本で、チーズはチーズの輸入代理店で働く女性から大量にいただいた。塩味が濃いが酒にはちょうど良い誘惑の一粒だ。
飲んでしまおうか。いやまだ早い。営業中に飲んだら終わる。考えれば考えるほど、サワーとチーズコンボに脳と舌が救いを求めてくる。

ガチャ。
人が入ってきた。
人だ。絶滅したと思っていた人類が店に入ってきた。二人。
お願いだ、何かを買ってくれ。文庫でもマステでもポストカードでも。
店を開いて12年。売上ゼロが1日もないのがささやかな自慢だ。105円のポストカード1枚という日が最低記録だが、ゼロはない。売上ゼロの刻印はまだ先にしてくれ。神様、私にレジを押させてください。

人類Aがマステを手に取った。
「マステって買う?」「買っちゃうよね」「私も。でもマステの使い道ってほんとわかんないー」「わかるわかる」「あ、これかわいいー」
やべー、買わないパターンの会話だ。

悲壮感が漏れないよう忙しそうなふりをしてゴミなんかを片付ける。
人類Bが、レジそばまで二足歩行で歩いてきた。目的と意思を持って近寄ってきた。飢えてチーズを狙ってるのかもしれない。

「サイン本ですか?」

レジ前に置いている絵本「こけしのゆめ」を持ち上げた!
歓喜を隠して冷静に「はい、そうです」と答え、1,8,00,税と丁寧にレジボタンを押して金額を告げた。

う、売れた。。

祝杯だ。

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