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アルジャンセル花桂

花桂さんの解体が始まった。

5月に開業47年の店を閉め、居抜きで他の女性が引き継いだ。しかし1ヶ月でやらない決断をされて、緑と花の店は無機質なシャッターに変わった。

花桂が開いてないこと、桂子さんと平(ヒラ)さんのふたりがいないことが、こんなにも残念に思うなんて想像できなかった。毎朝の挨拶も、暇つぶしの冗談も、集荷のおじさんのモノマネも、隣のカレー屋の音量うるせーなと盛り上がることも、もうできない。 

展示で使われた花の器を花桂に持っていくことが楽しみだった。帰港したサンマ漁船の船員が取れ高を自慢するかのように、ふたつみっつのカゴをふたりに渡して「まあ使ってくださいよ」と鼻を膨らませた日々が早くも懐かしい。

毎日、毎時間、レジから見える無人の花桂は、この街や未来にひとり置いていかれる気がして、投げ槍な人生をより投げ槍にさせる。神様、もうオレをできるだけ遠くまで力一杯投げてください。ミシガン湖あたりが嬉しいです。 

桂子さんのキビキビな動きや若い声は、年齢的にまだまだやれると感じさせるけど、花屋の大変さを見ていると続けてほしいと懇願することはできない。 

個人店の良さは、無くなる危うさだと思う。続くかもしれないし、店主に何かあって明日終わるかもしれない。代わる人が誰ひとりもいない。

8年間も花桂さんと向かいで同時期に営業できたことは、筆舌に尽くし難い幸運だったことに、無くなってから気がついた。ありがとうございますと感謝したいが、行き場を失ったカゴを見て、まだメソメソしてる。

早く次の和食屋が開店して、花桂臭をカツオ出汁かなんかに変えてくれ。ちきしょー。

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