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ドナー (5)

一週間後。

最終同意面談のため、メンドくせーなという雰囲気の妻を連れて、朝9時に土砂降りの武蔵野赤十字病院に着いた。

病院内のタリーズで伊藤さんが待っていて、「石黒さん(仮名)です」とスーツの男性を紹介してくれた。弁護士だった。同意書の署名に公正な第三者の立会いが必要とのことで、またしても事の重大さを思い知らされる。

この最終同意面談で親族の同意を得られないことも稀にあるらしく、特にドナー候補が独身男性の場合、親族へちゃんと説明せずに、聞いてないわ!と母親が土壇場でサインを拒否することが何度かあったらしい。小林さんは大丈夫ですよね?と念を押す伊藤さんを前に、早く終わんねーかなという白目で妻はささっと署名した。

「最後にもう一枚」と取り出された書類には驚かされた。「骨髄・末梢血幹細胞提供者由来の遺伝学的情報を含む臨床的意義のある情報開示に関する意思確認書」

笑えるほどの長さだが書かれている内容は、ドナー由来の血液になった患者は血液情報も変わっているから、患者がDNA検査した場合には、その結果はあなたにも当てはまるか、もしくは近い結果がでます。その結果を知りたいですか?ということだ。

つまり、患者さんがDNA検査をして、50歳で肺がんリスク40%とか60歳でアルツハイマー70%、男性型脱毛症の確率95%などの未来予想が出た場合、僕は患者さんを通じて自身の未来健康を知る事になる。患者さんが年上か年下かわからないけれど、同じ血液由来の病気ならどちらかを追随して発症するのだろうか。もうリアルアルジャーノンに花束をだ。知能低下、怖すぎる。患者とドナーの接触を徹底的なまでに避けているのは、こういう健康情報にも起因してるのだろう。

次は、実際に入院する関東内の病院での術前検査。契約上、どこの病院かはブログ等で明かせないが、物事はガシガシ進んでいく。

つづく


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