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自由連想法による文章練習【5】

 笑いすぎて小便をドバドバ垂れ流したところの橋を渡って さらにそのもうちょっと向こうの海まで行こうか迷ったが 橋の三分の一くらいを渡ったところで やっぱりやめて引き返した 振り返ると「アドベンチャー」というとっくの昔に閉店したバイパス沿いの喫茶店に外観がそっくりのレストランがあって そこの右から二番目の窓越しでパスタっぽいものを食べていた同い年くらいの女と目が合った その女は梨花に似ていたわけではなかったが その女をみてぼくは梨花のことを思い出した 女から目をそらしがてらほんの一瞬視界に留まった八甲田山は 雲なのか霧のせいでこの日もやっぱり輪郭が濁って見えた そういえばいつかの真冬の晴天以来ビシッと美しい八甲田山を一度も見ていない気がした 一方の東岳は相変わらず隅々まではっきり見渡せたが 美しいとか綺麗というふうには全然思えなかった いったん家に帰って食材を冷蔵庫に入れてから柏原の店にいったが 接客中だったから今日はもうおとなしく家に籠ることにして 帰りにヤスハラでブロッコリーとしめじとイカを買った さんざん悩んだがとりあえずピザ生地のほうはシーフードだけにすることにして タルタルソースはサラダにだけ使うことにした だからぼくはやっぱり揚げ物を買わなかった 冷凍の唐揚げも迷った末に買うのをやめて 食パンは一番安い88円のやつにした 柿の種を我慢するかわりにパルムを買い レタスとアボガドをいったんカゴに入れるも やっぱりレタスはカットレタスのほうに替えて ついでにアボガドもやっぱり完熟していないやつに取り替えて……とか そんなこんなでこの日のぼくはスーパーの端から端を3往復くらいした ともあれこれからはネットでチラシをちゃんと見るようにして ポイント〇倍デー云々もしっかりチェックしようと思った それから安い菓子パンとか3本で98円の串団子みたいなやつはもう絶対買わないで どうしても甘いものが食べたくなったら クリーム玄米ブランか 「ま!ま!満足!一本満足~♪」と草彅くんがCMでやっていたチョコバーみたいなやつとか 一見割高だけど少ない量で満足できるものを買おうと思った 結局ピザソースはケチャップとマヨネーズと醤油とニンニクと岩塩とブラックペッパーとタバスコと乾燥バジルを混ぜて作った やや濃い味になってしまったが 市販のピザソースより断然美味しいと妻のお墨付きをもらって 少し料理が楽しくなった気がした その後にはじめて作ったイカ大根も褒められたが ぼく的には大根の下茹でが微妙だった気がした そもそも1本50円の見切り品の大根だったせいか 包丁でカットすると五分もしないうちに ボコボコと変な凹凸みたいなやつが断面の部分に浮き出てきた イカにしても1パック150円の「赤イカ」とかいう名前の超小さいやつで 処理の途中に肝と足の見分けがつかなくなったりした 2杯で300円の刺身用のイカを買わなかったのは その代わりになるくらい立派な白菜を買うことができたからで これでようやく残りもののカワハギを始末できると思った 妻はカワハギの身より骨を好んで食べる ぼくは普通に身のほうだけを食べる ハタハタの骨は食べない サンマは塩焼きだけ そういえば そろそろすき焼きを食べたがるタイミングかもしれないと思ったが違った 「だったら」の「きりたんぽ鍋」にはセリが必須らしいが もしかしたらミツバで代用できるかもしれないらしい 何にしてもゴボウを皮むき器で薄くスライスするのが一番手間なわけで そのことにぼくはうっかり嫌な顔をしてしまった そしてそれはぼくたち夫婦にとってまあまあの致命的な問題だったから ぼくはまたモンドールのパンで穴埋めをしようと一瞬思ったが モンドールのパンは切り札中の切り札だから あまり使いすぎるわけにはいかないと思い直した モンドールのパンを教えてくれた人はもと占い師だったらしく ぼくは直接会ったことがないその人の顔の輪郭を 誰もが強いて言及したくなるほどけっこうな丸形であると 頭の中で勝手にそう作り上げていて そしてそのことを 妻が仕事でムシャクシャしていたある日に少しでも気晴らしになればと ぼくなりに面白おかしく話したら 「ふふっ」と一瞬笑っただけで 結局その人の顔の輪郭が実はどうなのか?にさえ 妻はまったく言及しなかった そう 妻は仕事で疲れ切っている だからできれば妻が行きたがっている酸ヶ湯温泉に連れて行ってやりたいと思うが そんな金はもちろんないので だったらせめてわりと地味に行きたがっている雪中行軍の遭難資料館には連れて行ってやりたいと思う 資料館の施設近くには山菜そばとおでんが食べられるところがあるらしく ぼくはその山菜そばの山菜に合成的な酸味があるだろうことをすぐに想像した 鬼怒川で食べた湯葉そばの具がまさにそうだった その裏にあるお洒落な感じの店で食べた珈琲ゼリーはそのかわり超うまかったが その店の吹き抜けの中庭にあった池はなかなかの汚さで しかしその後に店を出てすぐに見たススキの大群はすごく良い感じだった 今朝 歩道の一角に細長く伸びていたオレンジ色の朝日も同じくらい良い感じだった ポプラの真裏の会社と住居が合体したような建物も ハト麦茶の袋のデザインも良い感じだった そういえば虎屋の羊羹の小箱をなかなか捨てられないから いっそ集めてみようかと思っている 虎屋の小箱だけじゃなくて 好きなものや気になったものをアレコレ集めてつなぎ合わせたい…… ということで 好きなものや気になったものたちを集め入れるためのクリアファイルみたいなものをまずは買おうと思って 携帯のメモに「ファイル」と入力したら 文字数オーバーになったから 「電球」「ヨクイニン」「荻窪5-17-7」「鶏皮玉ねぎ」「ミョウガの甘漬け」「梅酒」「15000円+杉並税金免除分」までを消した 明日は母にマグロとヒラメの刺身とツブかフジツボを買ってもらうつもりだったから「マグロヒラメ」「ツブorフジツボ」は消さないで さらに「100均→海苔と塩昆布」と「きりたんぽ」を追加した 来週こそきりたんぽ鍋をやってもいい気がしたのは セリが少量サイズで98円だったからだが しかしそのスーパーは「わだばゴッホさなる」の近くのスーパーよりさらに遠いスーパーだった というか里芋があれば豚汁のほかに筑前煮もできることをぼくは今朝妻に確認したばかりだった とにかく明日はナメコと大根おろしを混ぜる すでに今月の食費は6千円しか残っていないが 買うべきものはだいたいぜんぶ買ったはずである 明日はナメコのほかにジャガイモとネギも買う いや ナメコ以外の二つは別に買わなくてもいいかもしれない それはそうと 小さくてウサギの糞のようなコロコロしたやつだったが とりあえず今日もウンコが出たことに ぼくは今心から安堵している 昨日のぼくは自転車のサドルに尻をつけることができないほどだった というのもぼくは生まれてはじめて浣腸を打たずには済まされない事態に陥ったのだった 浣腸を打ってもらった病院は古くて薄暗かったが 先生も浣腸を打ってくれた看護師さんも受け付けの事務の人もみんなとても感じがよかった 待合室の窓からはレンタカー屋を挟んで第三候補くらいに借りようと思っていたベージュのマンションがみえた 第一候補のアパートからは田園風景と山々がみえた 第二候補のアパートは卒業した高校のすぐ裏だった 合浦公園でダンディとすれ違ったとき ダンディはぼくに気づかなかった ダンディがいた生徒指導室の向かいには図書室があって 図書室の窓からは八甲田はみえず東岳がみえた ダンディは胸ポケットにハイライトをいれていた ダンディの頭は真っ白だったが禿げてはいなかった ぼくはぼくでまったくの赤の他人のようにダンディから目をそらした ダンディもぼくに対して同じようにした しかしぼくは振り返ったがダンディは振り返らなかった 

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