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自由連想法による文章練習【9】

 昼間なのに暗いつまり何かの「中」にいたらしいぼくは その反対の「外」のイメージとして 大森裕太がスーパーワンの自転車にのって クリーニング屋の角を勢いよく右へ曲がった日のことを思い出した その日は夏休みに入ったばかりで カラスに襲われそうになった岸壁からの一本道に差しかかろうとしていた父の車の中から裕太のそれをぼくはみていた 天気は晴れで そのときのぼくがまだ小学一年生だったかもしれない気がしたのは ブログを2記事連続で投稿した2日後の15時すぎだった クリーニング屋を右に曲がったさきには駄菓子屋が一軒あるほかに裕太がいきそうなところは思いつかなかったが ぼくはその駄菓子屋じゃない別のところに裕太がいこうとしているような気がした 今はもうないその駄菓子屋の名前は「タナカ」で そこへいく裏からの道も今はもう通れないようになっていた いけば必ずボールをくれるおじさんが住んでいた長屋じゃないのにやたら細長い家と 最近のスーパーハウスのような横内の家と 「赤い三角の屋根の家」としか強いていっても特徴がない千葉の家の少なくともこの三つは 一方で昔とまったく同じままだった それはそうと ぼくがいた「中」の空気はむしろよく ほとんどいつも真っ暗だったが 視覚的にもかなり透きとおっている感じがした その証拠にまばらにしか見えなかった星の一つ一つが 信じられないほど強い光を発していた ぼくはまだこの世に生まれるまえで つまりそこは母親の子宮の中だったんじゃないか?みたいなことを ぼくより2歳年上の先輩はいったが ぼくはそれを信じることも信じないこともしなかった ただ「外」との違いがそう思ってしまうくらいだったことは確かで ぼくを襲おうとしたカラスの目はマンガで描かれたイラストのような単純な形をしていた そう ふり向くのがもう少しおそかったら ぼくはそのカラスに頭をコツンと蹴られていたに違いない カラスは確かに異常にうるさかった それどころか明確に殺気を感じさえぼくはした しかしその道を横切ることしかそのときのぼくには他に選べる道がなかった そんなぼくの気も知らずにというか そもそもそうぼくを追い込んだ張本人である文子おばさんの背中が いつこっちをふり向いてしまうかもしれないことをぼくは強く警戒した というか文子おばさんにもらった1万円を何に使ったかぼくはまるでおぼえていない 少なくとも生活費なんかではなかったと思う そもそもぼくはもっと食わない生活をしていればよかったとつくづく思うが 今からでもまったくおそくはなかった かたやコーラとポテチに侵されていた裕太のことをああだこうだいっていたアル中の父はもう本当にダメだろう かといってそんな父を見捨てきれない母の態度をわずらわしく思うレベルはそのつど違うし じゃあ平均してどうか?と聞かれてもよくわからない 父の車は緑だったが 裕太がスーパーワンの自転車にのっていたそのときは違う色だったかもしれず だとしたら「白」だったかもしれないという確信にはほど遠いものの一応形ある一つの結論にこぎつけるまでにぼくは約2~3分かかった いや 白は緑より後だったかもしれない気がした というかその2~3分のあいだ ぼくはそのことばかり考えていたわけではなかった しかしぼくはそのこと以外に考えていたはずのことを何一つ思いだせなかった だからぼくは最近みた浮気をした夢のことを考えていた時間がわりと長かったことにした 浮気の相手は篠田だった いや 篠田に似ていた 篠田っぽいその女の家のトイレの床は昔ながらすぎるタイルばりで しかも何のかわからない黒っぽい汚れや黄ばみが見渡すかぎりこびりついていて 酒を飲みすぎたあとの体にはあまりに耐えがたく だからぼくは何度か思いきり吐いた 女はぼくの背中をさすったり 後片づけもぜんぶやってくれた ぼくはだから「ありがとう」とやさしくいったら 女はますます恋に落ちた ぼくは妻と熱海にいったときにとった写真のある一枚を思い出した 同時に「人生は~紙飛行機~♪」という歌詞のAKBだったかのアイドルの歌が頭のなかで鳴り響いて ぼくは女に別れもお礼の言葉も何もいわず さっさと飛び起きた そして普段の朝に限ってはめったにしない妻の足つぼをマッサージしながら 今日もまた妻を社会の荒波に送り込まなければならないことを少し後ろめたく感じた しかし妻は「今日は休む」といって仕事にいかなかった だからぼくは妻と二人で午前中から酒を飲みはじめた ツマミの主役はおでんで キュウリの辛し和えやトマトやら ミモレットの12年も少しだけ切って出した ミモレットの18年はやっぱりもうなくなっていた シジミの気分はもう通り越したと妻はいったが 一応シジミがあるかヤオフジに見にいったらなく かわりにいい感じのタケノコがゴロゴロあって そのうち2つを合わせて350円で買った 翌日妻は仕事にいった 最後のお別れの長いクラクションが向かいの典礼会館から聞こえて それを妻の死後と重ねがてら 2日前に歩道脇で死んでいた猫のためにおかれた小さい花束をすりガラス越しにみた 猫は白くて大きかった もしかしたら犬だったかもしれない たぶん保健所から依頼されてきた業者の男はその死体を見るなり「ブハッ!」と一瞬強烈な高笑いをした いや くしゃみかしゃっくりだったかもしれない ともあれ二人できていたその業者の男たちが片付けていなくなった猫か犬がそこで死んでいたことをわざわざ妻にいう必要がないのと同じくらい 父が手術をする必要もまったくないだろうと思ったぼくは 「は??アル中のクソオヤジが手術するだと!?だからもう生きなくていいんだよ!!というのは生粋の本音です」とツィッターに書いてから 自転車で児童公園のまわりを2往復した そしてあらためて思った栄三おじちゃんの家に顔をだすことを結局ぼくはしないかもしれないと思った 栄三おじちゃんの家には日本刀と小判のセットが飾られていて 児童公園には豊岡もいつも一緒にいた 飯田の家も飯田の家のままだった やがて一応ユニバースにいくつもりだったぼくは とくに急ぎというわけでもないソースしか買うものがないということで やっぱりいくのをやめた じゃあどの道を通って帰ろうか?と迷うまでもなく児童公園に逆戻りしたところ 児童公園にはまた誰もいなかった 29年前の児童公園はとても賑やかで その賑やかの中心の一人だったぼくが懸念したとおり その日もまたちゃんと無事に帰ってきてくれた妻は しかしかなりキレていた だからぼくは足つぼマッサージなり何か特別なことをしたはずで しかしその詳細についてはすっかり忘れたというか ぼくの興味をまったくそそらず だからぼくは目の前にみえる「アラスカ」や「カラオケまねきねこ」や「チトセ」などの看板とか あるいは猿のようなおばさんなどをそのまま素直に目で追った おばさんはもちろん猿ではなく 上からだと一瞬そう見えなくもない黄土色の帽子をかぶっていただけだった というかそうこうしているうちに眠くなったぼくは ベケットを開いてますます眠くなった そして頭に浮かんだこのままでは「マズイ」と「どうでもいい」の両方のどっちを勝たせるでもなく さらに10分ほどダラダラ切れ切れに意識を失ったのが幸いし ぼくの焦点はやがてカラスの飛行に合わせられるほどまで回復した そしてぼくはモンドールのパンを買うことをほぼきめた 赤ワインはじゃあどうするか?というと びゅう商品券で買ってしまうことにした 

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