見出し画像

2023年7月締め請求書のお手紙

私たちデザインモリコネクションは、陶磁器デザイナー・森正洋さんのデザインした製品の卸売を主な活動としていて、毎月、お取り扱いいただくショップのみなさまへ請求書をお送りしています。
ふと思い立って、2021年9月分から、請求書を発送する際、お手紙を同封するようにしました。その時々に思ったことなどを書いています。何を書いたか保管しておく意味もあり、noteに置いておきます。
請求書をデジタル化した方がいいんだろうけど、その場合、こういうお手紙をどういう形でつけたら良いのか、悩ましいところ。


いつもありがとうございます。
2023年7月末締めの請求書をお送りいたします。

今回のお手紙では、物事の呼び名、言葉について書こうと思います。

森正洋さんがデザインし、白山陶器や山加商店や廣田硝子などのメーカーで作られるものについて、「作品」と呼ばれたり、「商品」と呼ばれたりして、どれもそう呼ばれるそれぞれの文脈があり、いずれも正解だと思いますが、私自身は「製品」と呼びます。

「作品」「商品」「製品」について、個人的に整理してみます。

まず「作品」(Work、Artwork)について。美術館などに展示されている場合は、森正洋さんのデザイン活動を表すものとして「作品」と呼ばれます。扱いとしては美術品で、私たちが製品を美術館へ貸し出しをする場合は、保険をかけてくれます。

次に「商品」(Goods、Item)について。メーカーなどの「つくる人」から「つかう人」へ届いていく流通の間は、売買を介するという意味で「商う品」、「商品」と呼ばれるのだと認識しています。

そして「製品」(Product)について。「製造された品」ということだと思いますが、「作品」のように日用品としての意味が薄くなるわけでもなく、「商品」のように商いに寄りすぎず、ちょうど良いなと考えています。

私たちの仕事としては、メーカーなどの「つくる人」から家庭などの「つかう人」へ届けていくことが重要なことなので、「商品」でも良いのですが、「商い」に寄りすぎると「商材」(英語だと「Merchandise」でしょうか)になっていきます。ちょっとネットで調べてみると、「商品」と「商材」の違いは、「商品」が売り手・買い手どちらの視点も含むのに対して、「商材」は主に売り手の視点から「商う品」を表す言葉のようです。たしかにそういうイメージがある。

ここまでの話の流れから、私が「商材」という言葉遣いを嫌がっていることはうすうす伝わっているかとは思いますが、その理由を考えてみます。

ひとことでいうと、「商材」的な視点には「商う品」への愛着がありません。「商う」ことが重要なので「品」はなんでも良いのですね。「商材」的な価値観では、あらゆる品が自分の商売・仕事のための駒・手札になります。愛着とは無関係に「利益」を得るために物品を商うことが、物品が流通していく原動力であることは否定しませんが、私たちはそのやり方じゃなくても良いかなあと思っています。たくさん売ろうと思えば「商材」として扱うことも必要ですが、会社の規模として難しいですし、なにより「商材」につきものの「交渉」をゲーム的に楽しめない私の性分として難しそうです。

また、「商材」的な視点に立つと「目新しさ」「新鮮に感じられること」がとても重要になってきます(技術革新とか、今までの世の中になかった、という意味での「新しさ」と区別するために、人が新鮮に感じるという意味で「目新しさ」という言葉を使います)。バイヤー向けの展示会ではみなさん目新しいものを探していますよね(自分の店でずっと売り続けたい定番品を探している人もいらっしゃるかと思いますが)。

目新しいもの(あるいは、古いものの目新しい売り方)の「目新しさ」は誰のためのものなのでしょうか。人間が「飽きる」から「目新しさ」が必要ってことなんだと想像しますが、つくる人が飽きるのか、売る人が飽きるのか、つかう人が飽きるのか、物の取引による経済を動かすために、飽きたことにしているのか。おそらくは、私たちは消費社会の恩恵として、物を通して「新鮮に感じられること」そのものを消費しているんでしょうね(最近読んだ本だと、消費社会をその自由ゆえに擁護する、貞包英之「消費社会を問いなおす」が面白かったです)。

「商材」的な視点からくる「目新しさ」を求める姿勢は、森正洋さんのデザインした製品を定番品として長く売り続ける、という私たちの姿勢とは、ちょっと相性が悪そうです。森正洋さんが亡くなっているので、そもそも「新作」が出ませんし、「復刻」はあり得ますが、今年の新作!という意味で、毎年、復刻するのも持続可能ではなさそうです。

とはいえ、幸いにも私たちがお付き合いしているショップのみなさんは、森正洋さんのデザインに愛着を持って紹介・販売していただいていて、お互いに良い関係をつくることができているのかなと思っています。

「商材」の話が長くなってしまいました。私たちが取り扱う、森正洋さんのデザインした物品を、私たちがどう呼ぶか、という話でした。日用品としての意味を損なわず、つくる人・売る(届ける)人・つかう人それぞれの、品への愛着も許容するであろう「製品」と呼ぼうと考え、こつこつそう呼び続けています。

私自身が何か物品を手に入れる場面を考えても、その物品に愛着を持っている人から手に入れる方が、手に入れる体験としても楽しいものです(いつもそれができるわけではありませんが)。製品の流通する過程においても、関わるみんなが楽しみながら「つかう人」へ届けられたら、それが理想なので、それぞれの商いのケースにおいて具体的にどうしたら良いか、いろいろ考えながら、活動しています。

2023.7.31

デザインモリコネクション有限会社
小田寛一郎

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?