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5分でわかる、日本の「研究のお金事情」

2022年9月1日に「株式会社POL」から「株式会社LabBase」への社名変更と新Purpose「研究の力を、人類の力に。」の発表がありました。

今回の発表をきっかけに少しでも「研究」について知ってもらえたらと思い、9月1日から1ヶ月間 #研究アドベントカレンダー を実施していきます。

この記事は、11日目の記事で、前日の記事はさとだいさん「おもしろ凄い?!変わった研究3選!!!」でした。

こんにちは。株式会社LabBaseでLabBase就職事業を担当している宮崎(Twitter)です。今回は、少し真面目に、日本の研究事情を「お金」に焦点を当ててまとめてみたいと思います。
主にマクロな視点で研究に使われているお金の事情をまとめています。これから研究職を目指す学生の方や、自分で研究をすることはないものの興味がある皆さんに、取っ掛かりとしてお気軽に読んでいただける内容になっていると思います。

はじめに:研究はどこで行われているの?

日本で研究者が職業として研究を行っているのは、
① 企業の研究部門
② 非営利団体・公的機関
③ 大学等の研究機関
の3ヶ所になります。このうち「② 非営利団体・公的機関」は、企業を除く民間の研究機関と国立・公立の特殊法人を指します。

2020年現在、①企業では約62万人、②非営利団体・公的機関では約7.5万人、③大学等では約41万人の方々が研究に従事しており、その合計は約111万人です。
日本にはおよそ100万人の研究者がいて、うち5〜6割が企業研究者、3〜4割が大学研究者、と理解いただけばおおよそ間違いないでしょう。

企業研究者は自社の利益・価値となる知識や技術に到達するために中長期的な戦略に基づいて、組織的に研究をしています。企業にとっては、研究者の活躍が10年後やさらに先の業績に影響します。研究にかかるお金は、販売によって得た売上の一部を将来のための研究費に回しており、その資金を社内で配分しています。一方、大学研究者は各大学の各学部に設置されている、研究室という単位で研究をしています。1つの研究室には、研究者である教授・准教授・助教と、今後研究者になることを目指して学ぶ学生がいます。教授・准教授・助教は公的機関や企業から研究資金を自分で獲得し、研究にかかる費用を賄っています。

こうした企業研究者・大学研究者は学会などを通じて交流し、互いの強み・弱みを補うために共同研究を行ったりもしています。

研究資金はどのくらいあるの?

さて、研究資金の具体的な話に入っていこうと思います。
まず、日本と主要国の研究開発費の総額と、その対GDP比率を見てみましょう。

研究開発費総額は米国・中国と大きな開きがある
GDP比での研究開発費は主要国トップクラス

総額では米国、中国には大きく水を開けられ、日本は3番目に位置しています。この各国の研究開発費の変動はGDPの変動に比例しており、研究開発費の対GDP比については、各国緩やかに上昇しており、中でも日本はトップクラスの水準となっています。
「日本の研究費は少なすぎる」という話を皆さんも聞いたことがあると思いますが、GDP比で見ると日本も程度善戦しているとわかります。

研究費の全体像を理解するには、「研究資金を誰が拠出し、誰が、何に使っているのか」と分けて考えると理解しやすいのではないかと思います。
順番に見ていきましょう。

研究資金はどこから出ているの?

2020年度の日本で支出された研究費は約19.2兆円でした。そして、その支出源は以下の通りです。

国・地方公共団体 ▶︎ 3.4兆円 (17.5%)
民間 ▶︎ 15.8兆円 (82.0%)
海外 ▶︎ 0.1兆円 (0.5%)

総務省 科学技術研究調査より

つまり、研究費のほとんどは民間企業が拠出しているわけです。政府の拠出割合を他の主要国と比較すると以下の通りです。

研究開発費の政府拠出割合は一貫して低い

日本は、今も昔も研究費の政府負担割合が低い水準で推移してきたことがわかります。
GDPを基準とすると、日本は高い水準の研究費を以前から拠出しています。しかし、政府の負担割合は各国よりも小さく、民間企業に大きく依存して研究活動が行われている現状がよくわかります。

研究資金は誰が使っているの?

次に、そのお金を誰が使っているのかを見ていきましょう。次のグラフは、企業等・公的機関等・大学等でそれぞれ使われた研究費の割合を主要国で比較したものになります。
なお、前項の「研究資金の出どころ」とここで示す「研究資金の支出者」が異なるのは、
・政府が拠出した科研費を、大学の研究者が獲得し、研究に使用する
・大学の研究者が、企業や公的機関からから資金提供を受けて研究を行う
といった場合があるからです。

日本では、企業での支出割合が高く、大学で少ない

これを見ると、日本の研究費支出の大きな特徴として、以下のことがわかります。

・日本は、欧米各国と比較して、企業での支出割合が高い
・日本は、欧州各国と比較して、大学等での支出割合が低い

前の章で、「日本にはおよそ100万人の研究者がいて、うち5〜6割が企業研究者、3〜4割が大学研究者」であると述べました。
一方で、先ほどのグラフから「研究費の約8割は企業にて支出され、大学では約1割が支出されている」という状況ですので、研究者1人が使える研究費は、大学と比べて企業のほうが非常に多いことがわかります。

ここまでをまとめると、
①日本では、政府の研究費の拠出割合が他の主要国と比べて低く、
②そのため、大学で使用されている研究費の割合が低い
③すなわち、研究者1人が使える研究費は、企業 > 大学である
ということがわかりました。

研究資金は何に使われているの?

ここまで、研究費を誰が拠出し、誰が使っているのかについて見てきました。最後に、その研究費が何に使われているのかについて見ていきたいと思います。
研究費を「基礎研究費」「応用研究費」「開発研究費」に分けた場合の、それぞれの割合を主要国で比較したものが以下となります。

なお、研究費の区分は科学技術基本法などに定義されていますが、ざっくりと説明すると次のようなものです。

基礎研究:特に応用先や用途を決めることなく、仮説や新しい理論・現象発見を目指す研究
応用研究:既に知られている事実を、特定の用途に活用できるか調べる研究
開発研究:ある用途に活用できることがわかった技術を、製品やサービスとして実社会で利用可能な形にしていく研究

研究費の使われ方は主要国でも大きく異なる

このグラフでは、各国によって研究費の使われ方が大きく異なることが示されています。
・日本、米国、韓国は開発研究費が60%を超え、残りが基礎研究、応用研究費に使われている
・中国は極端に開発研究費の割合が高い
・英国、フランスでは、他の国と比べて応用研究費の割合が40%程度と高く、開発研究費の割合が低い
という特徴があります。

このグラフの中で私が特に着目したのは、「基礎研究費」です。
前章の「研究費支出の割合」と比較すると、「大学で支出されている研究費の割合が高いほど基礎研究費の割合が高い」という相関があるのではないか、と見て取れます。
さらに前の章も含めてまとめると、日本の特徴として

政府が拠出する研究費の割合が少ない

大学等で使用される研究費の割合が少ない

基礎研究に充てられている研究費の割合が少ない

という一連の流れがあると考えられます。
実際、科学技術研究調査(総務省)によると、2019年度について、大学で支出された研究費に占める基礎研究費の割合は53.9%、企業では7.6%となっています。大学で使用される研究費が少ないことで、日本全体での基礎研究費の割合が低いことにつながっていると、やはり考えられます。

基礎研究費、やっぱり少ないが盛り上げていきたい

ここから、個人的な主張も含めてになりますが、
基礎研究は「これに役立つ!」という技術や理論を研究しているものではないため、「その研究は何に役立つのですか?」と問われても明確に答えられないものも多いです。あえて答えるならば、「この研究が何に役立つかはわからないが、今あるほとんどのものはそういった研究から生まれた」といった感じでしょうか。

私個人としては、既にある「知のパイ」を最大限に活用することだけでなく、新しい「知のパイ」を切り拓いていくことが社会を非連続的に変化させるキーになると思っています。これこそが「研究の力」の本丸ではないかと思っています。そして、「知のパイ」を切り拓こうとしているその時に、それが何の役に立つかがわからないのは当然なわけです。

こうした「研究の力」が中長期的に「人類の力」に実際になるように、そういったご支援をさせていただきながら、きっと「人類の力に」つながる「研究の力」を格段にパワーアップしていく、そんな取り組みをしていきたいなと思っています。

研究費の話に始まり、最後は個人的な想いを込み込みで研究の力について語ってしまいましたが、少しでも研究領域についての理解にお役立ちできたり、よくわからないけど興味を持っていただけた方がいらっしゃれば大変嬉しく思います!

さいごに

研究領域に少しでも興味を持ってくださった方は・・・
・「株式会社POL」から「株式会社LabBase」への社名変更の理由
・新Purposeを「研究の力を、人類の力に。」に込めた想い
などを代表の加茂が話すミートアップがあるので、ご関心ある方は気軽にご参加ください!
9/22の10/5の2日程のみで行う予定です。
場所は、9/22は弊社オフィスで、10/5はオンラインです。


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