現代を生きる私たちは著作権侵害と炎上リスクにどう向き合うか

1.はじめに

 2020年7月10日、そのタイトルから注目すべき記事だと一見してわかる「XX 博報堂と著作権侵害」が公開されました。(広告代理店が自己の名義で赤裸々に著作権侵害を語るというのは極めて珍しく革新的なことではないでしょうか。)
 元々、雑誌「広告」著作特集の中で掲載される予定だったようですが、社内や関係各所への確認・調整に想定以上に時間がかかり、初稿の完成から約7カ月、ようやく社内調整が完了し、noteにて公開を行なう運びとなったようです。

 著作権侵害と現代における炎上リスクを考える上で、とてもためになる内容であり、現代を生きる制作者にとってはぜひ一読いただきたい内容です。以下、我々としても、この「著作権侵害と炎上」という非常に難しいテーマを少し深掘りしてみたいと思います。

2.必ずしも「法律的にアウト→炎上する」ではない

 日々ご相談をお受けする中で、よく出会う勘違いが、炎上しているものは法律的にアウト(著作権侵害等)であるから炎上しているのだということです。(もちろん法律的にもアウトであり、炎上しているものも多数ありますが。)
 しかし、上記記事でも紹介されているとおり、およそ法的には著作権侵害が成立しなくとも、実際にはSNS等のネットを起点として批判が巻き起こり、炎上しているものも少なくありません。
 現代の創作に携わる上では、究極的には裁判所という司法機関により判断される法的にアウトかセーフかという基準以外に、ネット上で批判を集めないか・炎上しないかという基準に意識を向ける必要があることは間違いありません。

3.他の作品を参照することは悪ではない

 ここで前提として確認しておきたいですが、創作の一部の現場で存在すると思われる「他人の作品を少しでも真似てしまったら悪である」という風潮は必ずしも正しいものではありません。
 たとえば、ピカソの言葉としてスティーブ・ジョブズも引用する「優れた芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む」との言葉にもあるとおり、新たな創作にとって模倣から出発することは欠かせないものであるといえるでしょう。
 このことは著作権法のルールとして、アイデアには著作権が発生しない(すなわちアイデアの模倣は自由)とされていることにも表れているといえるかもしれません。
 著作権法の目的は、その第1条において記載されているとおり「文化の発展に寄与すること」であり、法律上自由に利用できる範囲(模倣していい範囲)を明確にすることで、文化の発展を促しているともいえます。

4.著作権侵害と炎上との関係

 しかし、上記の記事にもある通り、現在はネットやSNSを通じて、類似の制作物が存在することに関する批判や炎上が生じるケースが格段に増えており、その結果、事実上存在が許されなくなる制作物が多数発生しています。これは、専門家から見れば著作権侵害にあたらない、プロの制作者から見れば問題ない範疇と思われるものであっても容赦はありません。
 これは、いわば文化の発展のために決められた法律によるアウト・セーフの線引きの客観的なルールが、印象やその時々の空気により容易に左右されうるネット世論により変えられてしまっているともいえるでしょう。
 その是非はここでは割愛するとしても、現代の創作に携わる上でこうした現状の認識は不可欠です。

5.リスク評価を誰が行うのか

 本来的にこうしたアウトやセーフのバランスを判断するのは、一クリエイターや個人ではなく、その多くは制作物の送り手である広告代理店や出版社が、過去の経験や専門家の意見を踏まえて判断してきました。(もちろん今日でもそうです。)
 しかし、ネット時代においては、こうした広告代理店や出版社を介さずに、個々人が全世界に直接的かつ簡単に発信することができ、時には炎上してしまうケースがあります。 
 個々人の発信だから、こうしたリスク評価を行わなくていいのかといえば全くそんなことはありません。ネットで炎上したがために今後の創作活動に支障がでるケースがあり得ることや、その炎上が個人に直接降りかかってくることからも、個々人で発信する場合であってもそのリスク評価を適切に行うことが重要です。

6.炎上リスクはどこにでも潜んでいる

 炎上リスクは、単に類似の制作物や広告物だけではなく、同人活動やパロディ・オマージュにも関係してくる問題です。
 パロディ・オマージュについて、特に日本においては、現作品に対する「リスペクトがあるか否か」や「やりすぎていないか」など、いわば阿吽の呼吸こそが、その存在が許されるか否かにおいては重要などと言われており、より繊細な判断が必要といえるかもしれません。

※以前セーラームーンチャレンジというものが流行しましたが、これは無許可である限り著作権法的にいえばかなりアウトに近い評価をうけると考えられるものですが、いわば原作に対するリスペクトから行われているものであり、非営利でやっている以上、許されてしかるべきという空気が一般的であったように思います。

7.さいごに

 これまで述べてきたとおり、誰でもネットを通じて手軽に発信できる現代こそ、表現・発信する前にはたと立ち止まり、法的リスクや炎上リスクがないかを適切に評価することが重要となるでしょう。
 時には広告代理店等が担っている役割の代替として、適切な専門家に相談することも重要だと思います。(我々の活動のミッションの一つも、このような役割を担い、クリエイターが安心して創作できる環境を整えることにあります。)
 誰もが自由に表現し発信できるこのネット時代という素晴らしくも厳しい世界の中で、上手にネット時代と共存共栄を図り、思う存分、創作活動をしていただけることを願っていますし、その手助けをしていければと思っています。

~デザイナー法務小僧とは~
我々の活動の詳細は、以下の記事をご覧ください。


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