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【終末ショート】α《アルファ》世代のぼやき

終末は核ミサイルの応酬によってもたらされると誰もが思っていた。
でも現実はそう簡単ではない。大国が選択したのは核ミサイルを撃ち込むことではなく、高層大気で核爆発をさせることによってあらゆる電子部品を破壊する電子戦だった。
発生した電磁パルスによりあらゆる電子部品が破壊し尽くされ、世界は闇に沈んだ。

懐中電灯さえ使えなくなった人々は最初は助け合って生きていたものの、次第に生きるために略奪をするようになった。そしてまともな医療も受けられず人口は激減した。

とここまでが聞いた話である。私は戦後に生まれた世代。通称α《アルファ》世代というらしい。戦前にはZ世代というのがいたらしいがアルファベットはネタ切れだったのだろう。

戦前を体験していた祖父はいつもこう言っていた。
「昔はいつでも綺麗な水が飲めて、快適に温度調整されていて、おいしい食べ物があったもんじゃ。特に液状のおやつが大好物でなぁ。」

果たしてそんな夢のような世界が本当にあったんだろうか。あったとして、なぜそんな世界を戦争で過去のものにしてしまったのか。理解に苦しむ。
それと液状のおやつとはいったいどんなものなのか。まったく想像がつかない。

今は常に食糧を探さねばならず、雨が降らなければ少しでも綺麗な水を探し、冬は廃屋でじっとして過ごす。それが当たり前の日常である。液状のものは水か動物のはらわたくらい。

祖父は言っていた。「わしは賢かったから人様の言葉が理解できたんじゃ、だから世の中のことを知ることができた。おまえらも人様に会う機会があったらしっかり媚びていくんじゃ。運が良ければわしのような生活ができるかもしれん。まあ、ヒトがまだ生存していればの話じゃがな。ふぉっふぉっふぉ」

そして想像する。暖かい部屋で、ヒトの傍らでチュールなる液状のおやつを食べている自分を。いつかその日のために最上級の猫なで声を練習しておこうと思う。
それまで私は野良というものらしい。名前はまだない。

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