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2023年の活動振り返り、ゲームワールド制作で夢が叶った話

こんにちは、Linxです。私は主にclusterやVRChatといったメタバースプラットフォームで活動しており、ゲームワールドやギミックの制作を行ってきました。
今回は2023年の自身の活動を振り返り、どんなことを考えながらこの一年間を過ごしてきたかについてお話しします。


2021~2022年の憂鬱

さて、私がゲームワールドの制作を行ってきたのは以前はほとんどclusterが中心でした。
今年は無かったのですが2022年には2回、cluster公式が主催されている大規模なゲームジャムがあり、賞金が豪華なこともあって開催されるたびに300を超えるゲームワールドが投稿され、clusterではゲームワールドを作ることが非常に活発になっていました。
clusterでのゲームワールド制作が楽しい一方で、私個人としてはある悩みを抱えていました。(当時の)ゲームワールドを遊ぶ側の活動は、作る側に比べて全然活発ではないということです。
私を含めて多くのクリエイターがゲームジャムのおかげでワールドクリエイターとして参入するきっかけができた一方で、本来あるべき環境からやや逸脱していたことは否定できません。
私自身光栄なことに過去にゲームジャムで受賞し、豪華な賞品を頂くことがありました。
しかしその結果ゲームが本来持つ「遊ぶ」という存在意義を無視し、受賞するためのゲーム作りという面が濃くなっていた時期があることは事実です。
そしてゲームジャムというイベント自体が、どんなゲームが現れるかよりも誰が受賞するかという方が注目されるようになっていったように思います。
一方、賞金でブーストされた作る側の熱量に対して、遊ぶ側の熱量は全然足りません。
もちろんゲームジャムのおかげで多くの人がワールドクリエイターとしてデビューするきっかけができることは非常に有意義なのですが、私個人としては賞を取るためのゲーム制作ではなくて、何度も遊びたくなるほど面白いという本来目指したゲームを作りたいという思いが強くなっていきました。
その指標としてはやはり継続的に人が遊びに来ているかどうかなんですが、ゲームワールドを遊ぶ人そのものがごく一部しかいなかったり、ゲームジャムで私よりもはるかにすごいゲームがいくつも投稿されたはずなのに数週間で人がいるのを見かけることがなくなったりと、なかなか厳しい状況だった記憶があります。
いくら賞金ブーストでクリエイターが集まっても、ゲームが面白いから遊ぼうという流れが絶えればゲームワールドという文化は持続不能です。
実はそもそもゲームはあまり求められていないのか…と思う一方で、VRChatでのゲームワールドの話をよく耳にするようになりました。VRChat内とかtwitterとかではなく、cluster内でも頻繁に話を聞くようになりました。イベント終わりとかに、「VRChatのほうで気になるゲームワールドあるから行こう!」とかそんな感じです。clusterにもゲームワールドはあるはずなのだが…。
ともかく、これのおかげで非常に焦っていました。clusterにいるはずなのにゲームワールドの話題は毎回VRChatなわけです。さすがに何かがおかしい。どうしてclusterのゲームワールドはこんなにも盛り上がっていないのか…。
いろいろな可能性を考えていましたが、誰も言わないだけで結局のところclusterのゲームクリエイターはVRChatに比べてレベルが低く、何度も遊びたいと思えるような魅力を持っていないのでは?という私としてはあまり考えたくない答えが可能性として残ることになってしまいました。

2023年は私がずっと苦しんできたこの問題に対し、ひとつの答えを導き出した年になりました。

BABEL!のVRChat版

VRChat版のBABEL!を公開したのは2023年1月28日です。2022年の9月頃から開発を続けて、ようやく公開できました。
このゲームは実はclusterからの移植で、cluster版は2022年7月7日公開です。

BABEL!というゲーム、元々はclusterお題企画のプリミティブワールド(Unityに最初からある図形縛り)や、clusterでは技術的に対戦ゲームで敵を倒した回数を正しくカウントするのが難しいといった側面からあのようなルールになりました。また、「海賊ハンター」を制作した時に、人を集めるのが難しかったりチーム分けで奇数だと遊びにくかったりといった理由でclusterではチーム対戦ゲームが遊びにくいというのを感じていたこともあり、個人的にはそこまで期待していないゲームでした。
実際公開後しばらくは注目もされず、ほとんど遊ばれずに終わるだろうと思っていたのですが、お題企画で受賞したのをきっかけに遊ぶ機会が得られると評価が一転。実際に遊んでくれている方々が、本当に面白いから何度も遊んでくれているというのを感じられました。
もちろん自分自身も遊んでいて面白く、このゲームはかなり面白い、何度も遊びたくなる魅力があることに気が付き始めます。
一方で、アクション性の高いFPSのようなゲームはスマホユーザーには遊びにくいことやclusterのゲーム人口が少ない等もあり、このゲームはVRChat移植版を作ってみることにしました。
VRChat版ではUdonSharpの自由度を活用し、cluster版で至らなかったユーザービリティの大幅改善を実現。人数差がある場合は攻撃力に補正がかかるなど、様々な部分で遊びやすくなっています。
その甲斐もあって、VRChat版BABEL!は公開直後には大きく話題になり、その後もtwitterに遊んでくれた報告が上がり、「面白い」という報告を何度も聞くことができました。正直な所、ここはclusterの時とは雲泥の差。
cluster版よりも話題になるのはVRChatの人口が多いからなのはもちろんなのですが、VRChatコミュニティのゲームワールドを遊ぶことに対する熱量が非常に高いのを感じました。グループ機能の導入などもあり、公開直後から現在までゲームワールドのグループやイベントで何度も遊んでいただき、私としても大変嬉しい限りです。
VRChatでは対戦ゲームの戦略やバランスに関して真剣に考えてくれるプレイヤーが多く、そういった熱意を受け止めつつ、ゲームを完成させた後もアップデートやバランス調整といった形で運営していくことの難しさを経験することができました。
また、この一件でゲーム自体が同じでもプラットフォームが違えば反響も全く異なるということ、「clusterのゲームクリエイターはVRChatではレベルが低すぎて通用しない」ということが全くの杞憂であったこと等がわかってきました。
では、やはりclusterでゲームを公開してもヒットしないのでしょうか?

カジノ『バニー×バニー』

2023年4月21日、clusterのお題企画「大うさちゃん祭」に合わせて投稿したのが「カジノ『バニー×バニー』」です。
このワールドは、コインを賭けて自動ディーラーのブラックジャックができるというワールドです。制作した理由は単純で、新しくできたclusterのスクリプト機能で作れそうなギャンブルゲームがブラックジャックだったという理由で、さらにそれをお題企画に沿った世界観にした結果だったりします。しかし、BABEL!の時とは別の方向で、私の予想を裏切っていくことになります。
なんと「カジノ『バニー×バニー』」は公開直後から非常に多くの人が集まり、1日あたり1000入室程度の勢いになっていました。その後も今週のワールド選出やゴールデンウィーク期間と重なったこともあり、cluster全体でも目立つ大きなブームを生み出すことになりました。大盛況すぎて、私自身びっくりです。
「ブラックジャックができるだけでそこまで注目されるのか?」と思ってしまいますが、これだけ人が集まっていたのには別の理由があります。

檻に閉じ込められる人たち

ギャンブル系ゲームワールドに必ず発生する問題として、所持金が無くなった場合どうするかという問題があります。全くない場合はすぐに初期状態くらいのコインがもらえる、というのは考えられますが、ペナルティ実質ゼロなので少し味気ないですよね。
というわけでこのワールドではそもそも所持金を超える金額をベットすることができるようになっていて、それで負けた場合は所持金マイナスとなり、プラスに戻るまでは強制的に檻に閉じ込められてゲームを遊べなくなります
檻にいる間は毎秒3コイン増えるので、最大の10000コインベットで負けた場合でも1時間以下で出られることになります。ダブルダウンを使用した場合は2時間。
時間というペナルティがあるからこそ、ベット額を増やすことやゲームの勝敗にある程度の重みがあり、ギャンブルの緊張感を演出することができました。
ちなみに「ワールド一回出たら戻れるのでは?」と思うかもしれませんが、このワールドはclusterに実装されているセーブ機能対応。VRChatで時折見かけるパスワード式セーブでは不可能な、オートセーブ&強制セーブ仕様なので、入りなおしても所持金マイナスなら無慈悲にも牢屋スタートです。

10000を賭けて負けるとしばらく遊べないのであまりそんな遊び方はしないだろうと思っていたのですが、予想を超えた状況になっていました。
何が起きていたかというと…釈放後即10000ベット組によって檻に人が溜まり始めました。「フレンドがいたので会いに来たらみんなペットになっていた」という声もちらほら…。
どういうことかというと、自分がゲームを遊ぶだけではなくて誰かが大金を賭けると注目されて盛り上がる、という遊び方です。逆に自分がプレイしない時は檻で待機することができるので、常に忙しいアクションゲームなどと違って雑談する場所として活用できます。
普通のゲームであれば「負けたら暇」となりかねない場面ですが、むしろ自分がプレイしなくても楽しめるというゲームとしては一見奇妙な状況になりました。
clusterはスマホで入れるという性質は、この状況では相性抜群。作業や別のゲームをしながら檻の中や周辺で雑談、たまに大金を賭ける人を応援する「ながら雑談+α」の使い方ができるワールドとして完成しています。
そして大流行の理由として外せないのが、「人が多い場所には人が来る」というclusterの性質。clusterのトップページは人が多い順(現在はフレンドが多い順が上部)であるため、人が多いワールドには自然と人が集まります。
檻の中で待機する性質上、雑談以外の理由で滞在する理由ができる(滞在時間が長い)ので、自然と人が集まってきます。
逆に言うとclusterではBABEL!のようなゲームに人が集まりにくい理由のひとつがこれで、大人数向けゲームは人を集めないとそもそも始められないのに、一度解散してしまうと以降誰かが入ってくることがありません。
また、プレイ中は動き続ける・考え続けるとなれば長時間遊ぶのに適していないゲームが多いです。
本当は遊ぶ機会が欲しいけど、ゲーム系には人がいないので人が滞在している雑談スペースに留まってしまうのかもしれませんね。

実は「カジノ『バニー×バニー』」のような理由で大流行を引き起こしたゲームの前例がないわけではなく、2022年に公開されたW@さん制作の「WAT’S PLAYGROUND」のメダルゲームが人気を博していました。こちらもコミュニケーションを主体としながらもメダルゲームの内容も話題の種にしつつ、滞在時間を長くできるので人が集まる…といった共通点があります。

つまりこの手のブームはcluster史上でいうと2回目ということになり、clusterの仕様や文化と「カジノ『バニー×バニー』」の持っているような性質が奇跡的にかみ合った結果流行したのだと考えています。

また、カジノということで「勝てば天国・負ければ地獄」の世界観を強調し、「きらびやかなカジノから一転して薄暗い地下室に飛ばされる」「可愛いバニーさんのペットにされる屈辱的な仕打ち」などの印象深いシーンを作ったおかげでtwitterやcluster内フィード等を見た人が気になって来てくれている、そういった話題作りにも成功したと思います。

「カジノ『バニー×バニー』」の流行を受けて嬉しい反面、当初は困惑しておりました。
よりゲームとして完成度が高く、「遊んで面白い」ゲームらしいゲームワールドが他にたくさんあるのに…。
しかしながら、ゲームの面白さだけではclusterでのゲーム体験を語れないのは説明してきた通りです。
偶然にも今回のカジノが流行したのと、VRChatのほうで「BABEL!」が成功したおかげで2023年、私のゲームワールドにまつわる考え方が変わりました。
それはつまりプラットフォームによって取るべきゲームデザイン戦略は違うということ。思ってたよりターゲット層が違うということ。
VRでの没入感やアクションを重視した、ゲームワールドと聞いてまず想像するようなゲームは、VRChatの方が「しっかりと遊んで盛り上がれる土壌が整っている」といえるでしょう。
一方でclusterでヒットするゲームが何かというと、確かにカジノやメダルゲームは一種のモデルケースとなりそうです。しかし正直な所ブームにまでなったゲームワールドが多いとは言えないので、まだまだ未開拓のジャンルが潜んでいる可能性が高いです。
そこまで考えると、clusterでゲームを作るのはかなり難しいと言えるかもしれません。まだまだ何が当たるかわからないのですから。
とはいえ、カジノのヒットのおかげでこれまで感じていた「ゲームはclusterよりもVRChat」という諦めにも近い考え方から抜け出し、「clusterにはclusterに向いたゲームデザインがある」という前向きな考え方に変化しました。

「カジノ『バニー×バニー』」はその後もイベント「兎爆黙示録ジイジ」での盛り上がりやクラスター社公式4コマで登場するなど、今年大活躍したワールドとなりました。

車好きを加速したLinxCarSystem

私が以前からclusterで公開しているドライブワールド「CityDriving」は多種多様な乗り物で広大な都市を駆け巡ることができるワールドで、安定して人気のあるワールドとなっています。
折角乗り物関係のノウハウがあるのだからということで、この車でサーキットのタイムアタックができるワールド「シティサーキット」を9月に公開。こちらも今週のワールドに選出されるなどもあり、異常な勢いではないものの、そこそこ人気のワールドになりました。

「CityDriving」に引き続き「私の痛車」カラーの車が配置されているのですが、これを作るのは少々大変でした。
車のボディは単色が基本なので、アセットストアで車の3Dモデルを購入してもまともなUV展開がされているとは限らないのです。つまり、BlenderでUV展開を自分でできる技術が必須です。私は痛車を作れるけど、誰でもできるかというとちょっと難しい。
そこで、clusterのワールドで使える、画像を投影できる「スクリーン」の機能を車のボディに割り当て、誰でも痛車が作れるという発明を思いつきました。

これは反響が大きかったものの、問題もあります。UVの配置がわからないと、結局どこに何が出てくるか予測不能ということです。
自由に誰でも痛車を作れるようにするには、誰でも車の3Dモデルが手に入り、UV配置図が公開されている必要があります。自分で配布するために、車のフルスクラッチモデリングに着手しました。
そこで、いっそのことclusterで基準となるような車のアセットを作ってしまおうという計画のもとに製作されたのが「LinxCarSystem」です。置くだけで動かせる、音やアニメーションも同梱したパッケージです。
また、実在する車種だと使いにくい人もいるだろうということで車のデザインも架空のものということになり、誕生したのが「Felis」です。
サーキットやタイムアタックでの出番も多いだろうと思い、1985年~95年あたりの国産スポーツカーにありそうなデザインを踏襲しつつ、かといってスーパーカーでもない…乗用車として街中を走っても違和感のない仕上がりになりました。ドライブ系ワールドや峠道でも問題なく走れます。

clusterテンプレートキット同梱の「ゴーカート」も軽量で使いやすいのですが、走行性能や機能面で物足りないという意見もあり、より本格的な乗り物に焦点を当てたワールドでの「LinxCarSystem」の普及という目論見もありました。
その甲斐もあって、主に車好きの方が「LinxCarSystem」を使ってくれています。私一人がワールドを作るのは数に限界があります。技術的に難しい部分を私がパッケージ化して配布することで、多くのワールドクリエイターが参加し、「clusterで車」という遊び方全体を盛り上げることができると思っています。

「LinxCarSystem」の制作では、必ずしもゲームワールドというパッケージにこだわる必要はないと感じました。場合によっては自分がゲームワールドを投稿するよりも、技術だったり、コミュニティだったりを活性化する方が、新しい遊び方を発展させられることがあります。

2023年はひとつ夢を叶えた年になった

clusterやVRChatを始める前の2018年、2~4人オンライン対戦ゲーム「スライムラボラトリーオンライン」を制作・公開しました。
たくさんの人が参加して競技として発展していくのを夢見て制作したものの、公開直後から盛り上がる気配を見せず。オンライン対戦専用であったために「対戦相手がいないので誰も遊ばない」となり、全く対戦ゲームとして普及しませんでした。
人がいないと成立しないゲームは発売前から人を集められないと動き出せないという、当たり前すぎる現実があります。
ゆえに個人製作のゲームは一人用がメインのものがほとんどで、二人用でも厳しく、大人数対戦ゲームとなればよほどプロモーションをうまくやらない限り無理でしょう。さらにプレイ人口の少ないVRゲームとなれば、あまりにも非現実的だと思っていました。
しかしゲームワールドであれば、常に人がいる必要はない。「ゲームタイトル」ではなく「ワールド」という単位なので同じ仲間集団で移動するという状況が生まれ、ゲームワールドに参加者がそろいます。
個人開発のVRゲームで、大人数対戦が実際に遊ばれる。
「BABEL!」はそんな夢のような状況を私にもたらしてくれました。
個人ゲーム制作者として、こんなに嬉しい状況はめったにありません。
2018年には想像もできなかった場所に立っているし、ずっとオンラインゲームを作りたかった私にとっては特異点と言えるほどおいしい場所かもしれません。
私はclusterとVRChatのおかげで、2018年に破れたと思った夢を叶えたのです。
また、「BABEL!」を遊びに来てくれる人は「私と知り合いだから」「ゲームジャムだから」などではなく「純粋に面白いから」遊びに来てくれる人がたくさんいて、それも何度も遊びに来てくれています。
これはゲームとしては当たり前に思えるかもしれませんが、誰かを真剣にさせて満足してもらえるゲームを作るというのは並大抵ではありません。そして、何度も遊んでもらえるということは、そういう資質を持っていることに他ならないのです。
思えば10年以上ゲームを作り続けて、ようやくその領域に近づきつつあると感じた一年でした。そしてそれはclusterとVRChatのおかげであり、ゲームワールドを遊ぼうというコミュニティの熱量のおかげであり、実際に遊んでくれる人のおかげです。
また、「作って楽しいだけ」のゲーム制作をいよいよ卒業したいと思うきっかけになりました
VRChat版の「BABEL!」は遊びやすさ向上のための機能が多く、これらはゲーム性と直接的なかかわりが薄いため作っていてあまり面白くないパートです。
リストアップすればきりがないので、ゲーム制作の初心者が突き付けられたら挫折するかもしれません。
しかし、ゲームをトラブルなく楽しむことができてまた遊ぼうと思ってもらうためには、そのような作りこみは欠かせません。ゲーム作りとは本来そういうものです。
純粋に面白いからという理由で遊びに来てくれる人、真剣に遊んでくれる人がいるからこそ、自分が作っていて楽しいパートだけではなく、快適に遊んでもらうための機能などを提供してそれに応えようという感情が湧き出てきました。
そしてもちろん、これからも自分が面白いと思うゲームを作っていくことには変わりありません。


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