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白南風

special thanx : カルパン@妄ツイ学校初等部1年生花車組( @kalupan_19 )
special thanx : ベル( @Beru_uru )
special thanx : ノシンさん@妄ツイ( @noshinmot )

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流転しない想い、これだけは譲れない。

心の奥底に埋まっていた、あの感情を呼び起こして。

辛くなった時に思い出すのはいつだって。

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7月。


葉は新緑色に衣替えをし、何処に行っても平穏な温度はない。

唯一あるのは、人工的に造られた建造物の中。

人々は駆け込むようにして、安息地点を目指して行く。

僕だってそうだ。

夜は寝れないし、妥協して付けて寝ると、ひと月遅れで来る電気代の衝撃。

今年から親元を離れて独り暮らしをしている自分の部屋には、必要最低限のものしか置いていない。

冷蔵庫、机、電子レンジ、炊飯器、PC、冷暖房器具。テレビはない。

昔は取り衝かれる様にして毎日も見ていたはずなのに、今となっては興味すら湧かなかった。

流行に乗り遅れることは、もしかしたらあるかもしれないが、そんなことは気にならなかった。

誰かによって定められた流行りに乗っかるのは、どうも癪に障るということが最近になって分かってきた。

スマホさえあれば何だってできる良い時代にいる。

流行りなんて検索かければ良いし、動画も見れるし困ることはない。

これで遠方にいる友達と気兼ねなく会話できるし。

スマホ様様の生活を送っているわけで。

スマホさえあれば生きていける。

これは近年の流行だろう。

そう未来では言われていそう。

流行りがいくら嫌いだと言っても、それには抗えるわけもなく。

むしろそれは日常必需品だから、流行りなんかではないと。

ひと月前の快適な気温を思い出そうにも、思い出せないもどかしさを感じながら、今日もいつも通り。

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8月。


昨月に続き、熱気は更に厳しさを極める。

青春がいつだって熱いように、今月も変わらない暑さ。

お盆も花火大会も自分には全く関係ないけど、それでも非日常感を味わいたくて。

ひと月ちょっとの非凡で怠惰な生活にも慣れ、このままが良いと毎度思う。

それなのに来たるべき日が迫ると、妙に焦る気持ちも毎回している。

計画を立てコツコツとやるか、前半に一気にやってしまうか。

そんなのは決っている。

やりたい、やらなきゃ。

そんな事を思ってはいても、最後まで引き延ばしてしまう。

いつだって自分は、やりたい事だけをやりたい。

やりたくない、めんどくさい、嫌いな事なんてまっぴらだ。

それでも、社会というものはそれを許さない。

だからという訳では無いが、僕の為と最後は言い聞かせて。

睡眠時間を軽く削って、ギリギリで何とか終わるのが定石だ。

長いと思っていた期間が一瞬にして過ぎてしまうのは、今となっても慣れない。

ただ春の夢の如し。ということか。

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9月。


新年度並みに、新しいことが続々と始まる。

残るこの熱帯夜はたくさんの人の熱気もあり、早い所戻りたい気持ちに駆られる。

それなのにも関わらず、あの人はいつもいつだって長話をする。

稀に良い話をして、僕たちを楽しませてくれるけど、それがあるのは本当にごく僅か。

今回もハズレだったかと、右から左へも聞き流していく。

すると大抵、退屈になってきた後ろの人に突かれる。

今朝と同じように。

そして先生に軽く怒られるまでがオチ。

先生たちも多分退屈になって、僕たちの気持ちを分かってくれて。

だからこそ目で訴えかけられるだけ。

申し訳ないと思うが、つまらないものはしょうがない。

ようやく終わって、僕たちの教室へと戻る。

長い期間に何をしたかとか、そんな話を聞いても僕には何も無い。

仲の良い友達は軽く焼けて、少しチャラくなった印象を受ける。

気になるあの子も、どこか大人びて舞い戻ってきたようで。

楽しい空気がこの空間を埋め尽くす。

この瞬間だけは気持ちが良い。

終わった喪失感は、後の楽しい日常によってどこかへと置き忘れていく。

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10月。


味覚・スポーツ・芸術・読書なんかの秋なんて言うけど、実生活には何ら関係なくて。

いつもは静かなはずの図書室は、普段使わない人すらも来て珍しくガヤガヤと騒がしい。

五月蝿くなりすぎたら、司書さんに怒られる。

気まずくなった人達は、ひっそりとこの場を去ってしまう。

けど時間が経てばガヤガヤと、また賑やかな空間が形成される。

この繰り返しも、休み時間が終わる頃には、そんな素振りすら見せないほどだ。

読書週間だとか言われて、読んだ本の数が多いと栞をくれる。

たかが栞、されど栞。

バリエーション豊かなそれに、心くすぐられてしまう自分は、興味の少しある本を片手にパラパラと。

内容なんて何も覚えていないけど、斜め読みをして分かった気になる。

目を活字に慣らせたのだ、そう思えば悪くもない。

喧噪といえば、月末には渋谷が大騒ぎする。

小さい頃は近所の人達に、「Truco o Trato ! 」なんて言ってお菓子や飴ちゃんを貰って。

食べ過ぎると虫歯になるから。

そう親に言われるまで口に入れ、この日は歯磨き二重でしたり。

毎年のように仮装までしていた、あの無邪気で無垢な日々。

あの頃は何も考えずに純粋に生きていることが楽しくて。

今となってはどうしてもうざったらしく感じてしまう身内の年下女子。

昔は自分の後を付いて来るような可愛い子だったはずなのに。

まん丸と甘えて育った人を見て、そうならないようにと思い、人一倍見えないように努力した。

うちの子はいったい、どこで方向を間違えたのだろうか。

そんなこと、思ったこともなければ考えたことすらもない。

それがあの人の個性だから。

それを疑ったり、否定したり、そんなことはとても野暮である。

どちらかというと、変にひん曲がっているのは僕だから。

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11月。


時期的には本当にギリギリ。

年によっては開催が、延期に延期を重ねたこともあった。

丸一日も長いこと外に出て、特に面白くもない種目を見るのは、非常につまらないものである。

クラスがクラスで、ネジが飛んでいる人が多いからか、ボイコットする人も何人かいた。

でもそれはだろうなという反応で。

この日の楽しみは、大音量で流れるミュージック。

それと先生からのさりげない贈り物。

知っている曲。

大好きな曲。

興味のない曲。

定番の曲。

口ずさんだり、裏でこっそりと熱唱したり。

広い空をぼーっと眺めたり、皆で盛り上がったり。

この日とだけは、先生も妙に優しい。

片付けも終わって、帰り支度も終わって。

後は先生が話して終わり。

そのタイミングでくれるアイスは、僕達にとっては、ちっぽけだけど大きな幸せ。

偶にはこんな日があっても良いか。

そう錯覚してしまう程に。

今年最後のイベントで、

それでも僕はやっぱり、非日常なんかより日常が好き。

こう思うのは、やはり僕がずれているのだろうか。

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12月。


街は一気にムードを変える。

一週間前はこんなにも映えるような演出はなかったはず。

それなのに僕だけは全くそういったそぶりはない。

煌びやかな照明にピンク色の会話が妙に僕の心を刺してくるが、そんなことは気に留めずに歩く。

いつからだっただろうか、サンタクロースが来なくなったのは。

気付いた時には来なくなっていた。

この世界はなんて悲しいんだ。

そう思ったこともあった気がする。

この時期になると、思い返すことはあっても常日頃からそうする訳でもなく、記憶なんて薄れていくばかり。

二日にも及ぶこのどんちゃん騒ぎは、基本的には友達と共有できないのが一つの難点であるようにも思う。

気付けば3年前も4ヶ月前も同じような生活。

やはり人間というものは、怠惰で傲慢で飽き性だと再確認。

他者が止めれないように、自分も止めれるはずがなくて。

特にこの時期から食が凄い事になる。

チキンにケーキにシャンメリーに。

普段食べないからこそ、この時期に食べるそれらはどこか特別感があるのに。

既視感が拭えないことも多々。

こんな天使がいれば良いななんて思うけど、僕の元に来るわけなくて。

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1月。


年の瀬からはテレビに張り付く日々。

長番組を消化したくても、特番があまりにも多すぎて時間と体力と気力を奪っていく。

おかげで全く動かない生活に、食べては飲んで寝ての繰り返し。

それでも、毎年恒例、家族で出掛けるし。

昼夜逆転生活をしている今の自分からしたら、起きるのが辛くて。

しかも起きて外に出て寒くて。

何が楽しくてわざわざ行かなければならないのか。

グチグチ言っても変わる訳なく。

15円と作法と願いをここに残して、背を向けないようにそっと離れる。

インテリア雑貨と化していた由緒正しきそれを返納する。

100円という大金をはたいて、今年の運勢を簡易的に試す。

帰りは出店でクレープを買い、食べながら団欒しながら行く。

いつだって非日常は短いもので。

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2月。


この日だけは、特に女子の手荷物が増える。

心浮かれる男子に、内心期待している男性教師。

あ、今のは想像。

手作りと既製品論争は、結局ステークホルダーの立場で。

あの子は、仲の良い女子にあげたらしい。

気にしてない素振りをするけど、やっぱり考えてる時点で裏返し。

怖くて行けるわけが無い。

眠たい瞼を擦り、最後の力を振り絞って席を立つとここには誰もいなかった。

皆の撤収がいつもより早いことに相当な違和感を感じたが、どうでも良いや。

さて、帰ろうと思ったら教卓に贈り物が置いてあった。

宛先は僕。

差出人は不明。

その書き方。

そして後ろからの異様な視線。

特徴的なそれは分からすには充分だった。

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3月。


困った。

あれからひと月が経とうとしている。

勿論返さなければならないのだが、その手に疎い僕は誰にも聞けず。

頼りになるのはネット。

でも似た状況の人なんかそう居ない。

マシュマロ、キャンディ、チョコ、入浴剤、クッキー、バームクーヘン、アクセサリー、お酒。

最後に関しては論外だが、アクセサリーは重すぎる。

お返しするものにも意味があるのか。

あげたいものをあげられないのはこんなにも難しいのかと。

無縁の僕からしたら、こんなしがらみはとても好きになれない。

一通りそう考えては初めに戻るのだが、結局無難にマドレーヌ。

彼女にこれで伝わって欲しいなんて思うけど、陰から喜んでいる姿を見て何も言えなくなった。

それでも良いか。

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4月。


この物語が始まってから3年と9ヶ月。

屁理屈で悲観的だった僕も変わった事がある。

メガネからコンタクトに。

長髪気味だったのからさっぱりと短髪に。

袖や裾が短いものよりも長いものを好むように。

そして、隣に彼女がいることが増えた。

何かしら関係が変わったのかと問われると難しい所ではある。

距離感は近いけど、告白なんかしてないし。

友達以上恋人未満。

なんとなくそれがしっくりくるようで。

ある種それはそれでステータスになりかねない。

実際に知らない同級生から見たら、そう見えてしまうのは致し方ないし。

ただこの時は二人して否定していたからまだ良かった。

日常に見えていた時間は一瞬にして消え去るようで。

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5月。


君が芸能の道に進んでしまう事が分かった。

それも君の口からじゃなくて、周りから聞いたこと。

数日経つとその話は膨らんでいった。

身近に僕がいたと思うのに、相談もなかったことにショックは受けた。

好きな事ばかりじゃ生きていけない事も知っているし。

いつかは来てしまう終わりが早まっただけ。

少し違った形で訪れただけ。

そう思うことしかできなかった。

ただここで一つの問題が生まれた。

君の道を良いと捉える人も、そうでないように捉える人もいる。

その中でも厄介なほう。

無論それは君が可愛いからであって、近すぎた距離感はスキャンダルになりかねない。

君のために少し距離を置くことも考えたけど、君は気にせず詰めてくるから。

戸惑いもしたが、諦めていつも通り。

とは思っても一度、僕からだけ微妙に空いた距離感は戻ることなく。

それが君を不安にさせたようで、

『私を好いてくれた貴方はどこにいるの』

核心を突かれたような問いに答えられなかった。

それを言ってしまうと、君を困らせてしまうのも見えていたし。

そんなことで自己中な人にはなりたくないし。

何より君の夢を応援したい気持ちがあったから。

強引に部屋を訪ねては、正座させられて。

君と面向かってしまった時点で僕の負け。

僕の胸にある想いを全て君に伝えるしかなかった。

大事な人ほどすぐそばにいて、

君にだけ気付いて届いてほしい想いは隠してしまって、それに逃げていた僕の人生。

投げ出したくなって悩んで、それでも最後には君に救われて。

僕は瞳を閉じて、君の笑顔を思い描いた。

君の温もりに包まれている中で。

いつもいつまでも想う事は一つだけ。

そして繋いだ手は堅く、そして愛は固く育んで。

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6月。


この広い空の下で、僕達が出逢った。

泣いて、笑って過ごす日々に、

隣に立って居れることで、

僕が生きる意味になって。

今さら、君の心揺らす言葉は僕にあるだろうか。

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「仲良くなりたい」

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物に逃げて、本当の思い隠して。

あの時に言えなかった思いを、今度は僕の口から。

本気を詰め込んだ、真面目な愛で。

「何層にも生地が重なっているように、二人の人生が交わって幸せが続いていけますように。」

僕にしか言えない。

君にしか言わない言葉を紡ぎ足した。

そっと優しく抱いて、涙をぬぐってあげるくらいがちょうど良い。

この前は落ち込んでいたのに、今日は嬉しそうな顔が見れて充分。

願わくば僕のこの思いをバームクーヘンに込めて。

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「幸せが続きますように」

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