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よしばな書くもん 6 「炎」

同級生のデュークが失踪したのは、大学2年生の初秋のことだった。
僕は
就職だとか進路だとか口には出していても、まだ未来は海のように茫洋としていて、ただ流されているだけなのに舵を取ることさえ思いつかず、自分の人生がいつか終わる実感などまるでなかった。
デュークがいなくなったことによって失われた僕の小さな一部分は、最後に残っていた無邪気な子ども時代の懐かしい果実だ。
昨日いた人は今日もいる、離れてもみんなずっとどこかで無事に生きていく、自分の知っている範囲で恐ろしいことなど決して起こらない、それはニュースの中の遠いできごとだ。
無条件でそう信じていたけれど、この世の大海の中でいつでも裂け目はとなりにあると知った。線を越えるのは、ちょっと違う流れに乗ってしまったら簡単なことなのだと。全てのことがあたりまえではないことを思うと、今もほんの少しだけ気持ちがピリッとする。
現実というものにはきれいなオチは一切ない。ただもやもやとした割り切れない時間を過ごすだけだ。

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