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教えて院長 第2回 (補足) 青のりに踊ることなかれ。踊るのは鰹節だけで十分。

自分が学びたい治療を本当に学べるのか?

動画の中でコロナ解雇で酷い目に遭った後輩の話が出ましたが、その子は解雇される前にもうひとつ酷い目に遭っていました。マイクロでの治療を学びたいと思ってそれの学べるはずの歯科医院に就職したのですが、行ってみるとマイクロを使った治療などほとんど行っておらず。治療を見学する機会すらなかったとのことでした。

「自分が学びたい治療を本当に学べるのか?」問題。小児歯科を標榜しているけど本当に小児を沢山経験できるのか?インプラントを標榜しているけど本当にインプラントを経験できるのか?

見学の時にそれを知ろうと思ったら受付に行ってみることです。アポイント表の前に居る受付のスタッフにさりげなく「今週の○○の予約ってどれですか?」と聞いてみましょう。即座に「この方とこの方とこの方ですね」と教えてくれるでしょう。ちなみにたまたまその週だけ多いとか少ないとかいう事もありますので、「いつも大体このぐらいの数ですか?」と聞いてみると良いでしょう。その医院の真の症例数を知ることができます。

この方法は私たちプロの経営者が見学に行ったとき、アポイントにさっと目を通して「この医院で取り扱いの多い診療メニューがなんなのか」を把握するのに使っている方法です。その前提を知った上で、その医院の診療の流れや経営の成り立ちを勉強させてもらいます。簡単だけど効果絶大なので学生や研修医のみなさんもぜひ使ってみてください。

普通の保険診療の重要性

さっきの話しにやや反しますが、ぜひお伝えしなければならないので書きます。

学生さんとお話ししていて「インプラントが…」「審美が…」という話しがよく出てくるのですが、実は「普通の保険診療ができないうちに、インプラントだ審美だと言っててもその時点ではあまり意味が無い」というのがありまして、最初の3年~5年は自費治療どころではなく保険診療をきちんとすることだけで手一杯であることがほとんどです。夢が広がっているところへ身も蓋もない話しをして申し訳ありません。

例え話をしますと、野球において特殊な変化球とか150キロ越えの投球とかが先ほどの「インプラントが…」「審美が…」に該当します。では保険診療ってのは何かというと、走る、投げる、打つの基本動作ということになります。走ることも、キャッチボールも、素振りもしたことが無い状態で「変化球の投げ方は…」と眉間にしわを寄せていてもあまり意味がないんですね。

弁護士のノースライム先生もこうおっしゃってます。

身も蓋もなさがハンパない…でも的確

現実に立ち返るならば、将来一般歯科でやっていこうと思っている人はまず最初の3年間で保険診療が「ある程度」きちんとできるようになることを目指しましょう。まあ保険診療ってやったことない人は馬鹿にしてるかも知れないけど実はとても奥深くて、3年ごときじゃ「ある程度」できるぐらいのとこしか行かないですけど。

ということは、そういう勉強ができる環境に身を置く事が大切なわけです。基本動作ができるようになってはじめて、その上のトッピングとしてインプラントや審美があります。派手に見えるし単価も高いから気になってしまう気持ちは分かります。でもあくまでもトッピングなんです。たこ焼きで言えば青海苔、お好み焼きで言っても青海苔、ちらし寿司で言えば刻み海苔です。掛けたら風味が良いし色合いもきれいですが、デート前の若い女性からは「あ、掛けないでください」って言われちゃうぐらいのものです。

保険の歯科診療を一切受けずに人生を楽しく終えられる人はほとんど居ませんが、自費治療を一切受けずに人生を楽しく終える人は山のように居ます。普通の保険治療でやる内容こそが歯科治療のメインストリーム、すなわち王道なんです。王道でなおかつ非常に重要だから、みんなが受けられるようわざわざ保険に入れてあるのです。

総義歯なんて地味だと思うでしょ?ところが総義歯の配列っていうのはその人の頭蓋骨の中で、どこにどんな風に歯が並んで、どう動いて、どう機能するかって話しなんです。それを私たち歯科医師が決めなければいけないんです。その決め方には先人の経験や知恵が詰まった素晴らしい規則や法則があるんですね。人の歯がどんな形で、どういう風に機能するのかも分からないのに、ちゃんと機能して長持ちするインプラントなんかできるわけがないんです。

CRって簡単そうに見えるでしょう?でも実際にやってみると、ちゃんと機能して長持ちするCRをするには基礎的な理工の知識が必要だし、やはり歯の形や機能の事を知っている必要があり、プロは症例によって沢山の工夫をこらしています。段差なく詰めたらいいわけじゃないのです。まあ、そもそもちゃんと手が動かないと段差なく詰めることもおぼつかないですけど。CRがまともにできないうちに機能的で美しい審美などできるわけがないんです。

そして、若い歯科医師を悩み第1位がエンド(根治)です。これをじっくり学んで、保険治療でも一定のレベルで処置できるようになるのが一人前の歯科医師になるための最大の関門といえるでしょう。根治はそもそも「保険であっても、ある程度の治療ができる」レベルに達するまでが非常に大変で、なおかつどんなに上達してどんな道具を使っても予後が思い通りにならないことが多く、現実と理想の狭間で悩み続けるものです。アベレージに到達することすらおぼつかないままベテランになってしまう人も沢山いる分野です。ちゃんと麻酔ができる、レントゲンが読める、髄腔開拡ができる、根管の位置を理解している、ファイルを挿入できる、普通にそれらができるようになった向こうに便利な道具としてマイクロがあり、自費のエンドがあるのです。

みなさんは、この話を聞いてちょっとがっかりしたかも知れませんが、保険診療をバリバリ勉強することで自動的にその先のより高度な治療の礎を築くことができるわけです。そこを乗り越えたら、バラバラだったものがパーッとつながって、その向こうに一回り大きな世界が拡がるんです。世界のまとまりと広がりが見えた瞬間、鳥肌が立つぐらい感動しますよ。そう思ったら「お、じゃあ保険診療、本気で頑張ってみる価値はあるな」って感じがしてきたりしませんか?保険診療はロマンの入り口なんです。

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