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 「2次製品革命」で増産された生産物は、おねだり女神信仰と管理システムを創る

 ポール・キンステッド著『チーズと文明』、第2章文明のゆりかご チーズと宗教は、これまでと異なる歴史の視点を与えてくれる。(上の画像は、豊穣の女神イナンナ)

古代文明に影響を及ぼしたシュメール文明の誕生

 降水量が従分で農業に適した北部のハラフに対して、灌漑設備がないと農業が行えない南のウバイド地域でなぜシュメール文明が起きたのか?ウルクに代表される都市国家は、中央集権的マネジメントシステムを持ち、精神的、経済的に階層化社会を形成した。それには、耕作と飼育による混合農業によって人類にもたらされた栄養素の改善と生産性革命、「2次製品革命」が関係している。

物の画期的な「新たな活用方法」の発見

 「2次製品革命」とは、物をそのまま消費してしまうのではなく、他のものを作り出すために活用することだろう。実際その頃のメソポタミアで起こったのは、鋤を牛に引かせて田畑を耕すことだった。そのため耕作地は広がり、収穫も増え、生産性が高まる。また、放牧の耕作地の休眠地の活用や、季節移動の仕組みが作られた。
 ヤギや羊のミルクの活用、それから貯蔵可能なチーズの作成も、肉を消費することから2次製品生産といえるだろう。羊毛を活用して織物も作られる。さらに、生産物は、牛による輸送手段によって荷物を運ぶことによって、遠距離貿易が可能になり、公益ネットワークを拡張した。
 このようにして、人類はあるものをそのまま消費することから、人工的に育て、人工物を使って他のものを作ることに活用することによって、生産性を向上したのだ。次の段階が、蓄積のための制度の登場だ。

豊かな実りを祈る宗教的儀式と生産物の保管庫としての神殿

 豊かな実りを与えれくれたことに対する感謝は、信仰へとつながる。シュメールでは、豊穣の女神イナンナを祀る神殿が作られた。神殿は、宗教的儀式を行う役目だけではなく、生産物の保管庫としても使われる。その記録のために、トークン、やがてはシュメールの楔形文字が生まれ、世界最古の書紀言語となった。生産物の保管システムは、階層的な管理システムとなり、支配層を生み出した。彼らは、農作物として重税を取り立てることになる。

https://en.wikipedia.org/wiki/Bulla_(seal)#/media/File:Accountancy_clay_envelope_Louvre_Sb1932.jpg

 その都市国家の長は、イナンナの夫の化身として神格化し、権力を持つ。このイナンナは、ギリシャへと伝わり、アフロディーテとなった。

地域の食生活や精神的文化に依存するチーズ

 シュメールでは、イナンナ信仰と共に、チーズは信仰と生活にとってかけがえのないものとなった。それは、エジプトにも引き継がれた。
 シュメールのウルクやその他の都市には、周辺地域から人が集まった。それらの人によって、分業が進み、「新たな活用方法」の発見、つまりイノベーションが加速する。シュメールは、アッカド帝国による征服を経てメソポタミア文明終焉まで続いた。
 一方、インドのヴェーダ聖典によると、チーズは作られていたが、フレッシュチーズで熟成したものはなかった。それは、チーズの固形化に必要な動物由来のレンネットが文化的に行われなかった(牛の活用)ことと、衛生概念の違いによるのではないかということだ。
 中国では、中華思想の影響もあるのか、他の文化を取り入れにくかったのはないかという。

信仰と美術

 ラスコーの洞窟の中の跳ねるような牛の絵画が描かれた。それは、これからも動物を食料として授かることを祈った宗教的な絵画だったそうだ。同じく、豊穣を祈る女神像(ヘッダーはイナンナの一部)は、美しく作ったのだろうと期待するが、ラスコーの牛ほど美が感じられないと思うのは、私だけか?

 神々の位置付けは、人間の雑念も混じり合って、簡単には片付かない。豊穣の神であり、欲望のシンボルであり、戦いの神。それは、人間が牛よりも神に親しみをもっていることの証なのかもしれない。

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