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ブローデル『物質文明・経済・資本主義 15-18世紀 日常性の構造』 序論・第1章 数の重量

 今回からブローデルの大作『物質文明・経済・資本主義 15-18世紀 日常性の構造』に挑む。すでに、序論でやられた感がある。彼のいう物質文明は、私の言葉ではサービスシステム、その中でも交換価値として計上されない使用価値に焦点をおく。早く読みたくなって、序論から一章全体を読んでみた。

物質文明・経済・資本主義3層構造

 ブローデルの歴史を見る枠組みは、下層から物質文明・経済・資本主義3層構造だ。通常、経済では市場経済(農村活動・屋台店・工房・作業場・取引所・銀行・大市・市・それらの生産・交換のメカニズム)、『恵まれたひとつの光景』に焦点が当たる。しかし、ブローデルはその下に広がる我々の生活、経済活動に組み入れられない下部経済『物質文明』に目を向ける。そこには、自給自足の活動、物々交換の活動、経済的交換価値に伴わない私たちの生きる世界、使用価値に基づく空間が広がるのだ。一方、経済の上にも透明地帯が広がるのだという、それが資本主義だと。

人口から紐解く物質文明

 物質文明を理解するためには、私たちの生活の全てのタッチポイントについて研究するのか?そうではなく、まず人口の変化に注目する。なぜならば、人口が増えるのは生活の変化を表しており、結果として増えた人口が生活を変えるから。

 人口の増大が生産できる食糧の規模を超えると、生活水準が低下し、流行病・食糧欠乏によって人口がが減少し始める。労働力と雇用の新しい均衡ができる。しかし昔の人口を的確に知るためのデータは少ない。それでも、このような現象は、ヨーロッパだけではなく、地球上のあらゆるところでみられた。つまり、人口は人々の生活の変化、細菌などによる病気、栄養状態や気候変動によって増減してきたのだ。

民族・文化・文明と市場経済

 以下に示すのは、Gordon・W・Hewesによる1500年ごろの民族の世界地図だ。民族や文化に注目して世界を眺めるのは意味がある。なぜならば、私たちの生活の場や環境はなかなか変わらないからだ。この地図の色付けの黒い部分が発展した地域だ。地域の発展は人口密度と関連がある。産業化するとより多くの人を支えられ、人口密度が上がる。黒く広がる帯は、人が集積し産業化された地域なのだ。

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18世紀の生物的旧制度の終焉

 ブローデルは、人類の生物学的旧制度は18世期とともに終わるという。つまり、その頃から食糧難や自然災害などによる人口減少にたいして、人口増加が常に優勢になった。大航海時代の幕開けや、砂漠や山沿いに住む民族の大移動によって、人が移動し流行病が起き多少人口が増減したりしたが、それにもまして人は増え続けた。一部の人口密度の高い発展した地域から、まだ発展の余地がある地域へ産業化が広がり、人を養う基礎力が増加し続けたのである。

 もう空いている空間はなく、民族による空間の奪い合いが始まる。市場拡大と植民地化の戦いだ。地域に長年住んできた民族が作り上げた文化は、『いまだにその成熟・最適条件に到達せず、あるいは確かな足取りで成長するまでに至らない文明』であり、長期間存続するとは限らない。しかし、市場化の戦いで敗れたとしても、また生き返る。

18世紀産業革命以降は人工物世界の開花

 ここで注目したいのが人工物だ。私たちが作り出した人工物、これは物質文明の主役として躍り出るのではないか。もしかしたら、私達はとてつもないモンスターを世に送り出してしまったのではないか?第2層に位置する市場経済は、異なる形相の枠組みが必要とされるかもしれないが、この物質文明を成り立たせる文化・文明は、それらがどのような結末になろうとも私たちの基礎を為しているのである。物質文明の中の重要な要素として、人と共に『人工物』が存在することに留意する必要がありそうだ。



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