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第5話 good distance

今度は僕の修行に関する物語だ。

前菜の酢締めを嗜んでると
1串目の砂肝が焼き上がった。



いつのまに

そもそもこの鳥よしというお店は
煙が店の中に無く
どこで焼鳥が焼かれているか分からなかった。

特に僕が着席した場所は焼き台の
死角となる場所で見えなかった。


クリーンな店内なのに
いきなり本気の焼鳥が出てくる不思議な感覚



僕は砂肝を口にした。

あの時のあの食感だ。

そうニューヨークの鳥心



鳥心がこのお店から
影響を受けている事を理解した。

外がパリっと 中ジューシー
備長炭と焼き手の技術が
掛け合わされる事により
出来るその食感


砂肝のようなシンプルなネタは
技術の良し悪しが味に出る。


今まで僕が食した砂肝の中でも
それは群を抜いていた。


その頃
店内はお客様で溢れており、
お待ちのお客さんも居た。

僕の席の横は1席空いており、
その三つ隣も1席空いていた。

並んでいる次のお客さんはカップルだった。

すると職人さんから

「お客様、お食事中 申し訳ないのですが
お席をあちらに移動させて貰っても
宜しいでしょうか?」


カウンターで席を移動するというのは
初めての経験だった。

「全然大丈夫です。」

すると職人さん

「お身体だけで結構です」

何気ない言葉だが
とてもこちらの事を
大切にされている印象を受けた。

そして、僕が三つ隣に座ると
新しくおしぼりが提供され、
すでに食べていた
お皿の続きがセットされていた。



本来移動するという事は手間な行為だが
僕にとって特別な時間になった。

それから次々と焼き上がる串の数々

あらゆる角度から
食べた事のない食感に酔いしれた。


凛とした店内で食べる極上の焼鳥

ここで学びたいと確信した。

そして、お腹がそろそろ一杯かなと
思ったタイミングで職人さんから

「お腹の方はいかがでしょうか?
もし宜しければ、締めのソボロ御飯食べますか」

僕の大好物が提案された。

「お願いします」

5分ほどすると、そのソボロは出てきた。
横には鶏スープが添えられていた。


あっさりしてるのに、奥行きがある。
ほわほわの食感
こちらもこれまでで食べた
ソボロご飯の中で群を抜いていた。

スープは僕の疲れた
カラダを優しく包み込んだ。

そして食べ終わりお勘定の声を掛けた。
店内には値段は提示されていなかったので
かなりビビりながら。

1万超えは覚悟した。


お勘定書きには7000円

安っと思った。
本来焼鳥屋で7000円って高いはずなのに

プロの仕事とはこういう事かと
身をもって体感した。

鳥よしで最初に感じた印象

近すぎず遠すぎず、程よい距離感

究極の接客だなと思った。


僕はそのまま新宿バスタに向かい
夜行バスに乗り込んだ。

休憩のサービスエリアで煙草をふかし
今回の旅を振り返った。

東京という場所は必ず
自分を成長させてくれる。



京都に到着し、朝の公園を通ると
サクラが咲いていた。



僕にも春は来るのかな

つづく

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