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ファルーカ

30代半ば、僕は踊るフラメンコの曲種、
レパートリーを増やしていた。

師事したアントニオ・アロンソが、
次はこれ、次はこれ、と決めていく中で、
自分の踊りたい曲が生まれてくる。

女性らしい踊りの曲が多い中、
男性らしい踊りとして、ファルーカがある。

激しく、繊細であり、圧倒的である。
曲も特徴的で、フルートが入ることが多かった。

数々の著名なバイラオールが、
レパートリーのひとつにするので、
いつか自分も踊りたいと思っていた。

正確に言えば、踊れるようになりたい、だ。
速く正確なサパテアードが求められる。

他にもシギリージャがある。
マルティネーテと組み合わせて、
無伴奏の部分をバストンを使って踊った。

このバストンは、杖なのだが、
欧州の剣、日本の刀のように、
男性向けの小道具として使えるのだ。

またサパテアードと組み合わせて鳴らすことで、
超絶技巧みたいになるのである。

無伴奏のあの緊張感も堪らない。
コンパスに合わせるのではなく、
コンパスを作るのもフラメンコの醍醐味だ。

そしてフラメンコの王道として、
陽のアレグリアス、陰のソレアがある。

乱暴に言えば、ソレアは技術より表現、
アレグリアスは表現より技術を必要としている。

アレグリアスがひとつ成長の目安であり、
踊れるようになると、あとは表現力を磨いていく。

観るので好きなのは、ガロティンだ。
華やかで陽気で、コミカルな踊りである。
思わずこっちも口ずさみたくなる曲だった。

とまあ、奥が深くて切りが無いフラメンコ。
特にブレリアは、かなり上級で難しい。

ギター、カンテ、バイレの呼吸を合わせた即興や、
さらに曲種ごとに異なる独特のコンパスは、
なかなか身体で覚えるには時間がかかる。

僕はファルーカを舞台で踊った時に、
燃え尽き症候群になってしまった。

ファルーカには、それほどの魔力がある。
でもまたいつか、踊りたい。

人に魅せるためでなく、自分で楽しむために。

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