事象の地平面

商店街を抜けた先、駅前の広場が普段より幾分にぎやかだ。
簡易な屋台のようなものが建っている。アイボリーを基調に、同じ色味で統一された造花やアイビーや小鳥のオブジェが飾られている。屋台の前面にはやわらか筆記体の英語が書いてあった。

•:*♡ Loves Cauliflower... ♡•*+
  Happy cole ♡ peace flowers

辺りに実直そうな男女数名、花のような笑顔だ。その顔を固定したまま軽やかに呼びかけている。
カリフラワーをもっと知ってください!
一緒にカリフラワーを食べましょう!
麻っぽい素材のエプロンをつけた素朴な感じの綺麗なおねえさんがつつつ、と近づいてきて小さな紙袋を差し出した。

「こんにちは!ただいまこちらをお配りしてます」

小分けにしたカリフラワーをミニブーケ様に可愛くラッピングしたものと、ごはんですよくらいの小瓶にカリフラワーとなにやらキラキラした小さな粒の浸かったピクルスが収まっていた。一緒にフルカラー印刷の冊子もくれた。


《カリフラワーはホワイトホール*》

花甘藍、英: Cauliflower
学名: Brassica oleracea var. botrytis

カリフラワーはキャベツと同じアブラナ科の野菜です。和名は"花甘藍はなかんらん"(甘藍=キャベツのこと。どことなく趣深いネーミングですね♪)
カリフラワーはホワイトホールの象徴とも考えられており、無限の可能性と愛を表現しています。可愛らしい花の形はまるで天使の巻毛のよう。人々はカリフラワーを体内に取込むことにより、宇宙のパワーを吸収し宇宙と一体になることができるのです。

私たちが目指すのは、ひとりひとりが小さな宇宙を内包し手を取り合うことで育まれる平和な世界。平和への第一歩を踏み出すのは実はとても簡単なのです。

月に1〜2回、カリフラワーとのふれあいを楽しむお茶会を開いております。こちらはどなたでもご自由にご参加いただけますのでまずはお気軽に足を運んでみてください!宇宙の平和に関するさらに詳しいお話もお聞きいただけますので、ご興味のある方はぜひお越しくださいませ。
場所や注意事項は別途記載してあります。

《あなたにも白い宇宙ホワイトコスモの愛を・・・》


一通り読んでしまった。他にも種のなりたちや主な栄養素とその効能、天国に自生していた説がある的なことも書いてあった。コーヒーが進んだ。
中学生の弟が玄関から走り込んできた。つやつやの赤い顔をして鼻息も荒く、私を見ると目に星を散りばめて叫んだ。
「ねーちゃん駅前にやばいやついた!」
それから私の手にある冊子を見て顔を緑にした。
「げっまじかよ」騒がしいやつだ。
「ねーちゃんが入信するのは勝手だけどさ、俺をカンユーすんなよな」
そう言うと冷蔵庫から紅茶花伝のペットボトルを取ってばたばたと自室に消えた。せわしないやつだ。

非常に迷ったが、好奇心に負けてピクルスをひとつ食べてみた。あっさりしてなかなか悪くない。俗物の私からするともう少し塩気があって酸っぱくて香辛料を効かせた方が好みではある。

母が帰ってきた。私の手にある冊子を見ると眉を八の字にして肩をすくめた。駅前を通ってきたようだ。
「ご時世かしら… 何にでもすがる人ってのがいるもんねぇ」
買い物袋の中身を各所にしまいながら、テーブルに載ったピクルスの瓶を見て眉をきゅっと上げた。冊子はスルーできても口に入るものはそうはいかない。
「やだアンタはもう、もらって来ないでよそんなのぉ」
あわれピクルスは三角コーナーへ。
合掌。
ミニブーケもよくわかんないけど捨ててしまった。

本気でカリフラワーを食べさせたいなら、専門店でも出せば良い。
カリフラワーって意外とどう調理していいかわかんないし、白米の代替品にすればダイエットにも役立つ。流行ると思う。