ほとんど生まれてきた意味を掴みとるような
夏ものの、とても素敵な靴を持っていた。
何を着ても合わせられるし、足がしっくりおさまって長時間歩いても痛くならない。誰にでも自慢したくなるかわいい靴だった。この靴に並ぶくらいのデザインと歩きやすさを兼ね備えた靴はいくら探しても他になく、くたびれてきてもめげずに何年も履いていた。
今年も涼しげな格好で歩く季節がやってきた。
久々に履いたその靴はやっぱり惚れ惚れするし、一日歩き回っても全然疲れない。
でも帰りの電車を待ちながら、うっとりと靴を見ていて思った。
私はこの靴が大好きで、いまでもとてもかわいいと思うけれど、知らない人からすればそれはただのぼろぼろの靴だ。
私の想いは少しも衰えないけれども、このまま履き続けていたら、こんなに素敵でかわいい靴が私の認識以外の世界にとっては薄汚れたぼろぼろの靴でしかなくなってしまう。
後日、素敵な靴を100点としたら75点くらいの靴を見かけたとき、現品限りでずいぶん安くなっていたので迷う前に買った。
その靴を置く場所を作るために、大好きだった素敵な靴を捨てることにした。
新しい靴で一日過ごしたら両足とも靴ずれして、お風呂でめちゃくちゃしみた。
別邸を後にして私の旅は続く。
(IとIIの文章は、写真を撮った水族館のパネルに書かれていたものです。)