マラケシュ1

【旅の製図法/6】『シェルタリング・スカイ』の世界は本当にあった!!

2016.2.29

ポール・ボウルズの『シェルタリング・スカイ』は、あまりにも遠くへ行きすぎたために、もはや帰還が不可能となった旅行者の物語である。舞台となるのは戦後のモロッコで、ニューヨークからの旅行者であるポートとキットは、そのまま自分たちの故郷へ帰ることはない。

マラケシュの鉄道駅を出ると、タクシーの勧誘に会う。宿のある通りまで30ディルハム。今日からマラケシュに2泊する。

宿のある通りまで来たはいいものの、道がさっぱりわからない。地図を見ながら迷っていると、地元の人間が英語で話しかけてくる。仕方ないので、案内してくれる彼についていく。もちろん、純粋な親切心から道案内してくれているわけがないので、後で金銭を要求されるだろう。彼のあとをついて行きながら、私はポケットに手を入れて小銭を用意する。

モロッコのフェズやマラケシュといった都市は、外敵の侵入を防ぐ目的で、まるで迷路のように道が入り組んでいる。地図を慎重に見ても、同じような細い小道ばかりで、すぐに方向感覚を失う。道案内してくれる彼の後をついていくが、こいつ絶対遠回りしてるだろ。トンネルを何回もくぐったり、日がほとんど差さないような暗い小道をぐるぐると歩かされる。この光景には見覚えがある。そう、映画『シェルタリング・スカイ』で、キットが病気のポートをその場に残して、泊まれる宿を探して地元の人間の後をついていく場面だ。キットは、迷路のように入り組んだ道を憔悴しながら彷徨う。やっとのことで探し当てた宿では疫病が蔓延しており、ポートとキットはその街での宿泊を断念せざるを得ず、さらにモロッコの奥地へと進むことになるのだ。

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