ドリアン

【日記/30】興味度が低いことに割く時間

私の自宅には、テレビがない。

だいたいの議論は、たいがい一周するものである。一時期は自宅にテレビがないことを誇らし気に語る人もいたが、今そんなことをすればマスを見れていない人として、逆に情報感度の低いダサイ人だと思われてしまうことだろう。しかし私はというと、別に情報感度の低いダサイ人だと思われても特に困ることはないし(いや困るのかなちょっとは)、申し訳ないけど実際にたぶん低くてダサイので、「テレビがない」とはそこに何の主張もなくただの事実である。

それでも一応いっておきたいのだが、私はテレビというメディアを軽視しているわけでは決してない。「やっぱりテレビはスゴイ」というのは本当にそうなんだろうなと思うし、だれかが『いつ恋』の話をしていれば、そういうドラマがあるんだなあ、面白そうだなあ、見てみたいなあと思う。『おそ松さん』とかもいいなあ見てみたいなあと思うし、他のアニメとかお笑い番組だって見てみたいなあと思う。ちなみに今いちばん見てみたいテレビ番組は、TBSの『クレイジージャーニー』である。

だけど、私はやっぱり自宅にテレビは置かないのである。それはなぜかというと、『いつ恋』を見てみたいという気持ちに偽りはないけれど、それよりもスタンリー・キューブリックの映画を全作見直したい気持ちのほうが、私のなかで勝ってしまうからだ。『おそ松さん』を見たい気持ちよりも、ポール・ボウルズの旅行記を読みたい気持ちのほうが勝ってしまうからだ。お笑い番組を見たい気持ちよりも、アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画を見にいきたい気持ちのほうが勝ってしまうからだ。ようするに、他に優先的にインプットしたいものがあるので、テレビ番組をインプットするための時間が設けられないのである。テレビに興味がないわけではないのだけど、その優先度、興味の度合いを、他のコンテンツより優位な状態まで引き上げることは今の私にはなかなか難しい。それに、1日24時間をすべてインプットに捧げられるかといったらそんなわけもなく、私も人間なので、睡眠をとったりご飯を食べたり歯磨きしたりしないといけない。仕事とかもしないといけないし、電車に乗ったりもしないといけない。そこを押しのけてテレビを自宅に置く余裕が、今の私にはないのである。

こういったケースはおそらく万人にあるもので、たとえば「世界史をもう一度勉強し直したいですか?」という質問に、真正面から「No!」と答える人はあんまりいないはずである。社会人なら、みんなどこかで、世界史もう一回やったほうがいいよねー、とチラッとは思ったことがあるはずだ。だけどやる人とやらない人がいるのは、興味の度合いとか優先度の問題で、やらない人は他にやるべきこと・やりたいことがあって、世界史にまで手がまわらないのである。

英語の勉強とかもそうで、「勉強する気は一切まったくないっ!」と真正面からいうヤツはなかなかいない。みんなどこかで必要性はかんじていて、やりたいなあ、やらなきゃなあと思いつつ、他に興味度の高いことや優先度の高いことがあれば、英語は何となく後回しになってしまうのである。かくいう私も英語を本格的に勉強しないといけないと思いつつズルズルと何年も経ち、今でも英単語を覚えるより掃除や料理や睡眠を優先してしまう。そういう意味で、「興味度の低さ」とか「優先度の低さ」でいうと、英語とテレビは私にとってだいたい同じような位置にあるかもしれない。

何を言い訳じみたことをゴチャゴチャいってるんだコイツは、とお思いの方がいるかもしれないが、今日の結論というか落とし所は自己弁護にあるのではない。つまり、この「興味度の低さ」という問題を、私もみんなもどのようにしたら解決できるのだろうと、そんなことをつい考えてしまったのである。

私は『ブンミおじさんの森』という作品がとても好きだったので、アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画を見にいくと思うし、ブログにもけっこうな熱量を込めて感想文を書くことになると思う。だけどもともと興味のあった人を除いて、たぶん私の知人友人は、私がどんなにアピールしてもアピチャッポンの映画は見にいかないんじゃないかと思う。だって2時間も3時間も、安いとはいえない金額を払ってわけのわからない映画を見るのって大変だもの。そこには私が『いつ恋』を見ないのと同じ原理が働いている。連ドラって総時間を考えるとけっこう長いし、私も読書したりネット見たり紅茶を淹れたりしないといけないのだ。

もしかしたら本当は、私が『いつ恋』を見ることによって何かが変わるかもしれなくて、みんながアピチャッポンを見ることによって何かが変わるかもしれない。平行線上にあった異なる世界へ、パラレルワールドへ移行できるかもしれない。そのことに、みんな気付いてはいる。

だけどやっぱり、私にとっては、『いつ恋』を見るのだったらイスラエルに行くほうがまだ簡単なのである。「興味度の低さ」という、高い高い壁が、今日も私とあなたを引き裂いている。


※ブログも更新しました

http://aniram-czech.hatenablog.com/entry/2016/03/20/114531

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