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酷評される軽自動車の真実<日産デイズルークスB21A/三菱ekスペースB11A>

2003年のダイハツタントの登場を皮切りに、世はスーパーハイトワゴンと呼ばれるジャンルの軽自動車が続々と登場しタントやスペーシア、そして王者とも言えるN-BOXが市場をさらに開拓したことによって戦火に満ちていた。軽自動車規格という枠組みである以上、全長や車幅を拡幅してスペースを確保することは難しく、室内高をあげることでスペースを確保する。そんな考えのもと、走行性能面で不利になりがちな面を各社多様な工夫をしより良い実用車として普及してきた頃その中に三菱・日産の両者が投入したのがekスペースとデイズルークスである。
今回は急遽、しっかりと試乗することができたのでクルマとしての構造を交えつつ話していく。

登場から10年経ってもなおネタにされ続けるクルマ

 スーパーハイトワゴン市場の中である意味異彩を放っていた車種としてネタに挙げられる理由として、非常に三菱らしい車であることが挙げられるだろう。包み隠さずにいうと 「ターボモデルはとても力強く、NAモデルは非常に非力である」ということである。軽自動車なので、たかが知れていると言いたいところではあるが、登場当時のライバルたちと比較しても非力さは一際目立っているのは事実。実際にネット上ではとても遅いクルマとしてしょっちゅうネタに挙げられる始末だ。
 このネット上で騒がれる遅さの原因が、心臓部である3B20エンジンとCVTの異常なほどの相性の悪さである。当時の時代背景として、やはり燃費が良ければ良いほど良いとされていた部分があり、カタログ値を追いかけた結果がこの遅さを生んだとされている。

遅さの原因となった特殊構造


そもそも3B20エンジン自体は燃費を追い求めるエンジンではない。各社ロングストロークエンジンを開発しNAでも低回転からトルクを得ることができる踏まなくてもある程度加速してくれる実用的な低燃費エンジンを搭載している中で、この2台に限ってはなんとスクエアエンジンを採用している。その上本来は過給機を設けることを前提とした構造だ。
そもそも3B20エンジンの成り立ちとして、三菱の軽自動車iの存在が大きい。
iはミッドシップレイアウトを採用しており、限られたスペースにエンジンを置く都合上3B20はスクエア形状を採用したというものである。
簡単にいうなら流用したことが悲劇への第一歩と言っても良い。とはいえ、当時の三菱自動車の体力的側面や資金面を考えると自然とその流れになるのは致し方のないことだったのかもしれない。そんな設計の面で一歩遅れたエンジンを搭載する以上、空力面でも不利なスーパーハイトワゴンで燃費を稼ぐにはどうすればいいか。そう、CVTの制御である。
これがまた曲者で、脳死で踏み込んでも加速を許してくれない。一瞬大きめに踏んでから緩めて踏み直すときちんと加速してくれるのだが、この手の足として使われることが多い実用車においてたった一つのアクセルワークにすら技術や工夫を強いる作りは正直如何なものかと思ってしまう。
変速比も前進4.007~0.550とライバルと大して変わらないがエンジンに対してはワイドで、ロングストロークエンジンならまだしもスクエアストロークエンジンには明確なミスマッチである。トレンドを中途半端に取り入れてしまったというのが実態だろう、
思い切ってクロスレシオ化すればカタログ燃費こそあまり良くはならないが、実燃費と、スクエア特有のレスポンスの良さを活かすことで走りのスーパーハイトになることもできたのではないだろうか。

実際に乗ってみると

文章を読んだり乗っている身の人間から話を聞いただけ調べただけというのはモノを語る上で作り手に対して大変無礼だ・・・・ということで実際に試乗してきた。


 第一印象としてはまず異常に窓がでかい。現行型のルークスよりも縦幅があるように思う。そのおかげか前方視界、後方視界ともに非常に見切りが良く運転が苦手な人間でも扱いがしやすい。着座位置も高いゆえに女性でも不安を感じることなく運転できる姿勢をつくることができる大変実用的なパッケージングであった。足回りはよく言えばクッションを意識したステアリングと足回りのセッティングである。街乗りには最適だが、スピードレンジの高い環境でハンドルを切ると片側にロールが寄ってしまい、たいへん恐怖を感じた。背が高いからこそ、フロントのロール方向に荷重をいれるようなセッティングは好ましくないと感じるのだが・・・・特に都市部の場合街乗りの一環で、都市高速に乗るような機会も多いはず。その点ではあまり印象が良くない。個人的には後述する非力さよりもこちらの方が気になった。
そしてハンドリングに関しても小回りがよく効く分、大変戻りが悪い。純粋にキャスター角が小さいことが原因で反力がでないというところだろう。小回りのことを考えてこのようなセッティングにしているのだろうが特にワインディングやカーブで走行性能が犠牲になりがちのスーパーハイトワゴンとしての車種特性を考えるとキャスター角をもう少し大きくとって、ハンドルに反力をつけつつ直進性も上げたほうが運転が不慣れな人間でも安心して走らすことができる車の動きを生み出すことができるのではないだろうか。
非力さに関して言えば踏み方を考えさえすればそれなりに加速してくれる。ある程度回す必要があるのはエンジンの設計を考えれば妥当なラインだろう。ベンチダクトから音は侵入してくるが、雑音というよりはしっかりとしたエンジン音なので静粛性に関していば当時の軽自動車としていうとそこそこ。
一点気になることがあるとするなら、回生ブレーキの効きである。これが異常に強く走りとしても違和感につながる上に鈍いアクセルセッティングと合わさって余計に車の重さ、ダルさにつながっているように思った。首都高の下り坂ですら減速してしまうほどだ、利きすぎである。パワーの面で劣っている以上いかに頻繁に加速しなくてはいけない場面を減らせるかというのも工夫である。かなりの蛇足に思えた。もちろんアクセルワーク次第でコースティングに持っていくことは可能だが、実用車において工夫を求めるのもユーザー層に寄り添えていない点の一つだ。間違いなくこの装備がないだけで、燃費も稼ぎやすくなるし万一の故障リスクもだいぶ減らせる。

とはいってもさすがはスーパーハイトワゴン
痒いところに手が届くように収納を備えており、使い勝手は大変良好であった。後部座席も前後幅が大変大きく、完全に前まで移動させてもある程度のスペースは担保されている。グレードによってはサーキュレーターも備えており、ライバル達と比べると地味な優位点だが快適性に対する真摯な向き合い方は感じ取ることができた。

会社の状況、時代背景を色濃く反映したクルマ

それなりに賛美するべき点もあったが一通り試乗して、商品力として当時のライバル達と比べると後出しの割には使い勝手の面で見劣りする点が多いのも事実だった。デイズ、EKワゴンにも言えることだがエアコンの操作性は大変よろしくない。タッチパネルで先進性を演出することが主目的なのだろうが、三菱らしく全体的にインパネの操作系はかなり古い印象を受けた。
インパネ周りの設計に対してまずデザイン面でタッチパネルの存在が浮いてしまっていること、そして操作系としても誤タッチが多く細かい調整も正直使いづらいというのが本音だ。せめて、温度調整と風量のみダイヤル式にすることで使い勝手の面では大幅に改善できたのではないだろうか。
ここのデザインだけで、すでにやっつけ仕事感が否めない。そして動力性能面の話でもしたワイドなギア比についても、エコを意識した作りをひしひしと感じる。
ここまででお分かりであろう、このクルマの一番の弱みは走りではなくクルマとしての良さ、特に使い勝手や操作性の面で決定的な優位点が何一つとしてないのだ。サンシェード、マルチアラウンドモニター、ワンタッチスライドドア、アシストバッテリーなど細かな優位点はあれど強く推せるポイントに関しては何もない。開発に余裕がなかったことを感じてしまう。

とはいっても三菱らしいクルマであると言えばその通りである。
ぜひ乗ってほしい!とは言えないが、時代背景と資金状況次第でクルマ作りはいくらでも変わってしまうことをよく認識できる。ある意味、学べることが多い一台ではあると思う。




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