差別表現、自主規制、隠れゲイの複雑多様な世界――ラッパーはなぜ嫌悪を示す?“ホモフォビア”の歴史と変遷
――黎明期から、かたくなに同性愛者を嫌悪するホモフォビア文化が根深く残る米ヒップホップだったが、2012年、フランク・オーシャンのカミングアウト以降、大きな変化が起きている。果たして、ホモフォビア文化はどのような背景で生まれ、影響を与えてきたのか? ヒップホップと同性愛文化の核心を、多角的に検証する。
Netflixのドラマシリーズ『ゲットダウン』をご存じだろうか。1977年のニューヨークを舞台に、ディスコ全盛期、そしてヒップホップの黎明期に生きた若者たちの姿を活写した物語で、日本でも幅広い層から人気を得ている。
そもそもディスコという空間は、性的指向の異なる人々や、さまざまな人種が集う場所であり、多様な文化を作り上げたこと、そして当時のディスコDJにはゲイが多かったことで知られているが、このドラマの第6話で興味深い場面が出てくる。それは、自分たちの仲間のレコードをDJにかけてもらおうと、グラフィティ・ライターの少年2人が麻薬窟のようなディスコに入り込むシーンだ。少年の1人が周囲の客を見て、こう尋ねる。「あれは男? 女?」、もう1人の友人が答える。「女みたいに着飾った男、自分の中に女を秘めた男、男でいることに飽きて女に変わろうとしている男」。そして、肝心のレコードをDJに手渡し、曲がプレイされるのを待つ間、偶然にも少年2人の唇が触れそうになる――。
ウィル・スミスは俳優業で男性とのキスを拒んだが、息子のジェイデン・スミス(左)は『ゲット・ダウン』で男性とのキスシーンに挑んだ。
同作はドキュメンタリー・ドラマではないが、当時の文化的背景をもとに、綿密なリサーチをもって制作されている。ここに「ヒップホップはゲイを嫌悪している」という根深く残る通説を重ねると、これはかなり示唆に富む描写ではないだろうか。このドラマの登場人物たちの多くは、ヒップホップ文化をもとに強い絆で結びついていたわけで、こうした同性愛的な描写は、一昔前だったらタブーであったかもしれない。本稿では、そんなホモフォビアの歴史を長く持つヒップホップと同性愛文化の歴史と変遷を分析していきたい。
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