【無料公開中】すべては世界平和のために……医薬品業界に警鐘を鳴らすノーベル賞

『大村智-2億人を病魔から守った化学者』(中央公論新社)

――日本人の受賞者が出るたびに報道をにぎわすノーベル賞。特集【1】では、利益追求の激しい医薬品業界の問題を見てきたが、ノーベル賞にはそのような時代の風潮に警鐘を鳴らす役割もあるのだという。

「今年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生(北里大特別栄誉教授)の研究は、現在の科学界の中では泥臭く地味な分野ともいえます。

 しかし、その研究から寄生虫の特効薬が生まれ、無償配布されたアフリカで多くの人々の命が救われました。単純な研究の新規性のみならず、科学を通して世界に貢献した点が受賞の背景にはあったかと思います」(佐藤氏)

 近年のノーベル物理学賞、化学賞、生理学・医学賞には、そのような社会貢献を評価する傾向が強く見られるため、「自然科学3賞は、ノーベル平和賞的な意味を持ちつつある」(同)と言われているそうだ。
「14年のノーベル物理学賞に選ばれた『青色LED』の研究も、低電力でエコロジーな点が評価に結びついた面があったでしょう。現在の医薬品業界では、抗体医薬の研究が盛んで、重要な発見も多くあり、莫大な利益も上がっています。ですが、そこから生まれているのは先進国のリッチな老人を延命する薬ですからね(笑)。

 そこにノーベル賞を与えず、大村先生に与えた点は、『今の歪んだ状況をどうにかしろ』というノーベル賞委員会からのメッセージだと僕はとらえています」 (同)

 そのような選出基準は、自身の発明したダイナマイトが戦争の道具と化したことを悲しんだアルフレッド・ノーベルにも本望のはずだ。

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