サイゾーの校閲は“冷めた目”で!?――言葉狩りか炎上対策か、校閲モンダイ最前線!

――いつしか日常的になった“炎上”という言葉。個人や企業のSNSをはじめ、ウェブメディアのニュースの見出しだけでも燃え盛ってしまい、その影響はネットに限らず、印刷物にまで波及している昨今。「この言葉は危険」「その表現は叩かれる可能性」――そんなことが赤字で指摘される“校閲”という作業の現場において、いま何が起きているのか?

『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』によって、広く知られることになった校閲という仕事。実際に校閲に携わる関係者からは「サービス精神旺盛すぎ!」という指摘も。

 2016年、石原さとみ主演のドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)の高視聴率によって、普段は“裏方”の印象が強かった校正者の職務が大々的にピックアップされたのは記憶に新しい。マンガや雑誌、小説などの出版物はもちろん、大企業が作るパンフレットからスーパーのチラシまで――さまざまな定義はあるが――あらゆる活字に対して誤字や脱字がないかを調べる作業が“校正”で、事実誤認や矛盾、表現として適切であるか否か、その内容を調べ、指摘を入れる作業が“校閲”である。これら“紙”を媒介としたメディアの校正・校閲業務に加え、インターネットが普及してからは、当然のようにウェブメディアが発信する記事にも同様の作業があてがわれる。しかし、ウェブは即時性が問われるメディアのため、“校了”【編註:校正作業が完了し、出版物を印刷しても問題のない状態】という概念がなく、誤字や脱字、浅はかな表現方法が問題視されることも多く、結果、炎上という末路をたどることも少なくない。また、ドナルド・トランプがポリティカル・コレクトネス(差別や偏見のない正しき言葉遣い。通称ポリコレ)に異を唱えたことによって、「不適切かもしれない言葉(もしくは表現)を使ってしまったら、ポリコレを推奨している側から非難されてしまう」という恐怖心からか「ポリコレ棒で叩かれてしまう」なる表現まで誕生。その影響は、いつしか文字を発信する者たちへと波及、“表現の自主規制”へとつながり、さらにはそのような危険信号が灯りそうな言葉や表現には、校正の段階で校正者から――時に過剰なまでの――赤字の指摘が入ることも増えたという。

 フリーランスで校正業を営むA氏によれば、「社内に校正部門を抱える新聞社や大手出版社であれば、社の方針に則った正確な校正に加え、イメージを損なうような表現には厳しい指摘を入れる。特に出版社でいえば、集英社と講談社、岩波書店、新潮社の校正を担当する部署は細かな指摘を入れることで業界内では知られ、少年誌を多数持つ出版社はポリコレに非常に厳しい」とのこと。となると、昨今、作家やライターといった著者の本当に表現したかった言葉が、実はやんわりと違う言葉に差し替わっている可能性も……? 本稿では、そんな「本と校閲」の関係性について、先述『校閲ガール』の校閲監修を務めた校正・校閲専門会社「鴎来堂」の代表取締役である栁下恭平氏に、その現状を聞いてみた。

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