【無料公開中】【識者が語るマツコ・デラックス】――モー娘。楽曲アレンジャーの大久保薫が舌を巻くその音楽的感性とは――識者たちの「マツコ論」【1】

――ハロプロ諸作を手がける辣腕編曲家がマツコとモー娘。の親和性を鋭く指摘。マツコの“ハロー!プロジェクト推し”から推察する音楽的素養とは?

 初めてマツコさんがモーニング娘。を好きと話していたのを知ったとき、音楽的な評価からではなく、グループの中心となる10代の女の子のメンバーが来る日も来る日も特訓に励み、技量以上のことをやってのけている体育会系的な姿に心を打たれていたのかと思っていたんですね。また、長い人生を生き抜いてきた女性でもなく、派手な女子高生でもなく、純粋で素朴なアイドルが〈とてつもなく大きな愛を歌っている〉という違和感、本来は相容れないものが混じり合っている部分に惹かれたのではないかなと。でも、マツコさんが書かれた連載を読んだり、テレビやラジオでの発言を聞くと、「あんなアグレッシブなアレンジを、よく歌いこなしているわ」など、実は細かな部分まで評価していることに気がついたんです。

本誌の翌日に発売となるモーニング娘。の新曲「Oh my wish!/スカッとMy Heart/今すぐ飛び込む勇気」を、マツコはどう評価するのだろうか?

 日本の音楽は歌詞に重きを置かれる文化がありますが、マツコさんはモーニング娘。楽曲のアレンジに目を向けられていた。正直日本は“編曲”が注目される機会って本当に少ないんです。でも、マツコさんは的確にアレンジを評価されていました。

 そもそもマツコさんは、ゲイ雑誌である「Badi」(テラ出版)の編集者で、新宿二丁目がテリトリーであったことから察するに、ダンスミュージックへの造詣は非常に深いと思うんですね。実際に『僕らの音楽』(フジテレビ)に出演されていた際、「マライア・キャリーの『Fantasy』のクラブ・ミックスとかすごいよね。あれって絶対にサトシ・トミイエだよね」と話されていましたが、富家哲さんはハウス・ミュージックでは有名なプロデューサー/リミキサー。ゲイカルチャーとハウス・ミュージックは密接な関係にありますから、そのジャンルにも、きちんと精通されているのがわかります。

 一方で過去のモーニング娘。楽曲を評価する際は、アース・ウィンド&ファイアーやシックといったファンクのアーティストを挙げて比較するあたりも、音楽全般への造詣の深さを感じます。中森明菜さんや小泉今日子さん、松田聖子さん、モーニング娘。といった新旧のアイドルに加え、ダンスミュージック、ファンク……それに政治経済、オタク文化、食べものもなんでも語れる。きっとピュアな方なんでしょうね。聞きたいことがあれば聞くし、知識を得るためには常に貪欲なんだろうなと感じます。

 ちなみにモーニング娘。が13年にリリースしたシングル「Help me!!」という曲には“待つ子ミジメックス”なる歌詞が出てくるんですね。僕はアレンジを担当したんですが、メンバーのボーカルが乗った状態で最終調整をしたときに、「ん、今マツコって……?」と空耳を疑ったわけです。実際には“待つ子”だったんですけどね(笑)。つんく♂さんが作る楽曲には、良い意味での“美しいメロディに対する唐突な歌詞の違和感”というものがあって、5~10回聴いて、初めて理解できる音楽を作られる。今のマツコさんは国民的タレントですが、出始めの頃って、やっぱり視聴者からしたら違和感だったと思うんです。でも、何度も何度もメディアに登場するにしたがって、違和感が薄れ、そのきわもの的ルックスから説得力ある発言を次々と述べて、知らぬ間に国民からの理解を得ている。これって、冒頭で話したモーニング娘。の違和感ともリンクするのかな、って感じたんですよね。(談)

(構成/編集部)

作曲家・編曲家|大久保薫(おおくぼ・かおる)
1972年、大阪府生まれ。95年より作曲家/編曲家として活動を開始。8月19日発売の新曲「Oh my wish!」をはじめ、モーニング娘。のシングル5作連続1位を獲得した全楽曲のアレンジを担当している。

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