【女子大生アイドル・小池里奈×アイドル研究家・境真良】アイドルが直面する進学のホンネと現実

――ここまでは、アイドルと大学に関して見てきたが、実際に現在、大学に通いながら芸能活動を続ける当の本人たちは、どのように考えているのか? ここでは、現役JDアイドルにそのホンネを聞きつつ、アイドル産業が拡大していく中で、その先にどういった出口を模索できるのかを、探っていこう。

小池里奈氏。

アイドルたちはなぜ「大学に行く」のか──? このほど、『アイドル国富論』(東洋経済)を上梓した境真良氏が、わずか9歳から芸能界に身を置き、チャイドルからグラドル・女優へと、活躍の場を広げる現役女子大生・小池里奈に鋭く迫る!!

 小池さんが通う亜細亜大学は、いわゆる”一芸入試”を早くから取り入れている大学ですよね。

小池 私は指定校推薦ですね。入学後は一芸入試の子と同じクラスに入っていますけど。もともと、高校が日本大学の付属校だったんで、最初はそのまま上がっちゃおうとも思ったんですけど、高校の先生から「これまでは少ししか授業に出られなくても出席にしてあげられたけど、大学はそんなに甘くないよ」って言われて。それなら、芸能活動にも理解があって、両立できる学校にしようかなと。

 実際に通って、両立はできてます?

小池 正直、去年はあんまり学校に行けなかったですね。私が入学するまでは仕事との両立をしながら通ってる芸能の子もわりと多かったんですけど、入学した次の年ぐらいから、なぜかすごく厳しくなっちゃって。一芸で入った子のなかには、途中で辞めちゃう子も結構います。

 それはおそらく、国の無粋な政策の影響もあるんじゃないかな。というのも、僕らのような教える側は、08年以降、「1タームに15回は絶対に講義をしなさい」っていうお達しを受けていて、それと同時に「6割以上出席しない学生には単位をあげるな」とも言われ、大学の学生管理が厳しくなった。それまでは15回のうち、だいたい2〜3回は休講になるのが当たり前だったのに、今はそういうことがどこの大学も一律にできなくなっているという実情があるわけです。

小池 そういう事情もあるんですね。ウチの大学も「一芸で入れるようにしている以上、大学側が責任を持って卒業させないと」っていう先生がいたかと思えば、「いやいや、入ったからには頑張るのは自分自身でしょ」っていう先生もいて、いろいろ意見が分かれているみたいです。

 ところで、指定校推薦なら、高校では勉強もしっかりやっていたんだね?

小池 人並みに(笑)。しかも、小学校のときからテスト前だけガッと勉強して、終わるとすぐに忘れちゃうタイプなんですよ。

 それは僕もそうだし、たぶんみんな同じだよ(笑)。むしろ、それって、一時に集中してセリフを覚えて、次の作品になったらまたすぐにリセットするってことでもあるから、すごく女優さん向きの性格だと思うけど。ちなみに、経営学部っていうのは自分で選んでそこに?

小池 最初は漠然と英文科に行きたいって思ってたんですけど、小学校の頃からずっとお世話になってきた塾の先生や両親に相談しているうちに、将来、女優とは別のことをやりたくなったときに役に立つことを勉強しておくほうがいいって思うようになって。まぁ、そこまで経営学部に惹かれたわけではないですけど、入ってしまえば、どの学部の講義だって受けられますし。

境真良氏。

 そもそも、芸能活動1本に絞って、大学には行かない選択肢はなかったの?

小池 なかったです。両親や先生からは「行かなくてもいい」とも言われましたけど、周りも大学に行く風潮だし、それが普通だと思ってきたから、「行かない」っていう発想がなくて。それに、専門的になる大学の授業にも、ちょっと興味はありました。

 勉強するのが好きなんだね。

小池 うーん(笑)。テスト前の追い込み勉強は好きですね。コツコツ勉強するタイプじゃないし、普段から本とかも全然読まないんですけど、テストってすぐ結果が出るじゃないですか。それが楽しくて、ゲームみたいな感覚でやっちゃえるんです。

 それはもう、ますます芸能向きだね。ただ、僕自身は小池さんのような芸能界にいる子たち、いわゆるアイドルが大学に行くのはいいことだと思っているんだけど、たとえば僕らの時代のアイドルで、大学に行った人がいたかっていうとすごく稀。(山口)百恵ちゃんにしても、(松田)聖子ちゃんにしても、ちょうど僕と同世代のおニャン子だって、大多数の人は行ってない。だから、今小池さんから「風潮」って言葉が出てきたときに、すごく新鮮っていうか、意外な感じがしたんだよね。

小池 ウチの高校から大学に行かなかった人は、私が知る限りではいないですよ。ほとんどが4年制で、短大がちょっといるかな。就職した人はいなかったと思います。

 学校の同級生たちにとっては、大学に行くのが当たり前でも、小池さんがずっと身を置いてきた、芸能界にいる同世代の子たちの中には、高校はとりあえず出るもので、そこから先は知らないって子も相当数いると思うんだけど?

小池 私の周りは、芸能の友だちでも進学している子のほうが多いです。やっぱり不安定なお仕事だし、いつまでやれるかもわからない。それを考えたら、保険が欲しいっていうか、何かを身につけておいたほうがいいって気持ちにもなりますし。もちろん考え方は人それぞれ違いますけど、私は行って損はないと思うので。

 なるほど。もし大学が保険だとするなら、例えば、進学の時点で小池さん自身がアイドルとして盤石の地位を築いていれば、「行かない」って選択肢もあったのかな?

小池 私はそれでも行ってたと思います。やっぱり大学での勉強や出会いは高校までとはまったく違うし、それを経験せずに人生が終わるのは、個人的にはちょっとイヤかな、と。それに、私の場合は小学生から芸能活動をしてきたから、学校に行くことでオン・オフを切り替えられるんです。自分が普通でいられる場所を、まだ持っておきたいなっていうのもあったので。実際、中学受験で日大の付属を受けたときも、芸能コースがある日出学園とかっていう選択肢は、まったくなかったです。

 その考え方を延長していくと、大学を卒業したあと、フルタイムで芸能活動をすることになったときに、学校に代わるものが欲しくなると思うんだけど、それが何かっていうイメージは自分の中にある?

小池 自分がベースにしてきた”普通の生活”がなくなる不安っていうのは感じてますけど、具体的にコレというものはまだなくて……。ずっとそうやってバランスを取ってきたから、芸能以外の何かしらは必ず持っていたいとは思いますけど。

 いいですね。僕が常々思っているのは、芸能活動をしながらフレックスで働けるような一般企業があったらいいよねってこと。昔、森永製菓の社員なんだけど、アーティスト活動もするっていう”シャインズ”ってのがいたんだけど、企業と芸能事務所が手を組んでああいうことをもっとやっていったら、広報活動にもなって絶対いいと思うんだけどね。それこそ、実業団のスポーツ選手は、それが許されているわけだから。

小池 それができるようになったら、すごく素敵ですね。毎回違う現場でたくさんの人に会えても、私自身、一般的な意味での社会経験がものすごく少ないなと感じますし、できるなら、お仕事をお休みして、アルバイトとかもしてみたいですから。

 隣に座ってるマネージャーさんがギョッとしてるよ(笑)。でも、一芸をはじめとしたAO入試で大学に入った子のほうが成績はいいっていうデータもあるくらいだし、そういう意味では”地頭”が良くないと生き残れない芸能界と大学とは親和性もある。大学に行くっていう選択肢がライフプランの中に自然とある小池さんのようなアイドルが出てきている今こそ、それをきちんとサポートして、誰もがウィン・ウィンの関係になれる体制作りが必要なのは確か。まぁ、それをやるのが、半官半民の立場にいる、僕みたいな人間の役割なわけだけど。

小池 私も来年は4年生なんで、仕事と両立しながらできる”何か”を探します!

(構成/鈴木長月)

小池里奈(こいけ・りな)
1993年9月3日、栃木県生まれ。04年、小学5年生で実写版ドラマ『美少女戦士セーラームーン』(TBS)のルナ役でデビュー。ドラマ『ウルトラマンギンガS』(14年、テレビ東京)など、テレビ、雑誌を中心に多方面で活躍。12th写真集『RINA REAL』(ワニブックス)が発売中。

境 真良(さかい・まさよし)
1968年、東京都生まれ。国際大学GLOCOM客員研究員、経済産業省国際戦略情報分析官。経済産業省に本籍を置きながら、産官学それぞれでコンテンツ産業や情報産業、エンターテインメント産業の研究を行う。このほど、『アイドル国富論: 聖子・明菜の時代からAKB・ももクロ時代までを解く』(東洋経済新報社)を上梓。そのほかの著書に『テレビ進化論』(講談社)、『Kindleショック』(ソフトバンククリエイティブ)など。

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