LGBTペンギンを棚から外せ! 米国で禁書扱いされる創作童話・児童文学

――前記事では海外での童話の規制事情を紹介してきたが、実は創作童話や児童文学の締め付けも厳しいみたいで……。

日本でも昨年、岩崎書店から出版された『にじいろのしあわせ』は、ペンス副大統領を皮肉った政治的なパロディ絵本でもある。

 何百年も前の童話の中には今の価値観だと許されないような表現や描写もあるだろう。その結果、前記事でも紹介したような排除運動が起きているわけだが、憂き目にあっているのは童話だけではない。

 米国では図書館や学校に対して行政ではなく、保護者がクレームを申し立て、特定の地域だけで禁書にされた創作童話や児童文学がある。わかりやすいのは、人種差別的だという『ハックルベリー・フィンの冒険』や、反キリスト教的だとしてやり玉に挙げられていた『ハリー・ポッター』シリーズだろう。一方で、イマイチよくわからない理由で禁書に指定された本もある。

 例えばディズニー映画でもおなじみの『クマのプーさん』は06年にカンザス州の一部地域において「動物が人間の言葉を話すという表現は神への侮辱」という理由で、禁書になっている。また、カンザスつながりでいえば『オズの魔法使い』は「子どもに無利益であり、子どもを臆病にさせる」という理由で、シカゴやテネシーなどの図書館や学校で禁止されたこともある。

 さらに、ニューヨークの動物園で赤ちゃんペンギンを育てる2羽の雄ペンギンの実話を描いた『タンタンタンゴはパパふたり』(日本語版・ポッド出版)という絵本は、05年の出版以降、多くの保守的な地域で「LGBTQIA+コンテンツだから」という理由で禁書となった。ちなみに、シンガポールでは14年に国立図書館で破棄処分されている。

 そして昨年も同じような理由で、『にじいろのしあわせ~マーロン・ブンドのあるいちにち~』など、LGBT理解と個性の尊重を訴える児童書や絵本が何冊も禁書扱いされた。「宗教」や「教育」という名目なのかもしれないが、大人の思惑で子どもたちから本を取り上げていいのだろうか。

スペインだけじゃない! 世界で起こる童話排除のムーブメント

――学校や図書館から童話を取り上げる動きはスペインに限ったことではない。ここでは各地で行われている童話の追放運動を見ていこう。

●ディズニー版ですらNGなの?
カタール

2016年、SEKインターナショナル・スクール・カタールという私立学校に通う生徒の保護者が、学校の図書館に置いてあったディズニー版『白雪姫』は「性的な描写を連想させ、イラストや文章が教育上好ましくない」という理由(どのシーンかは不明)で、カタール最高教育審議会(SEC)にクレームを申し立て、SECは学校側に本を撤去するように命じた。「The Guardian」紙によると、性的、もしくは品位を欠くという理由で、コンテンツに検閲が入ることはカタールでは珍しくないという。

●「相手の同意なしのキス」は有害
イギリス

2017年、ニューカッスルの学校に通う息子が借りてきた『いばら姫』を現代版に描いた児童文学を見た保護者が、同書で描かれている「眠っていて意思表示ができない女性にキスをするという行為は、『相手の同意なしに性的行為に及ぶ』というレイプの根本的問題と重なる」として、学校の教材から外すべきだと主張。ツイッターでも問題のページを開いた写真と「#MeToo」のハッシュタグを用いて問題提起したが、彼女のクレームに対しては多くの反対意見が上がった。

●行政が主導して童話を排除?
オーストラリア

2017年、メルボルンがあるビクトリア州政府は、学校や幼児教育にジェンダーバイアスを見直す教育プログラムの一環として、教室内にあるおもちゃや絵本の中に、男女のステレオタイプを助長するようなものがあれば排除すると、一部報道で伝えられた。このプログラムが実行されることで『シンデレラ』、『美女と野獣』、『ラプンツェル』などの童話が教室から撤去されると問題視されたが、州政府は「童話を締め出すことはあり得ない」と説明した。

●そもそも禁書が多すぎる!米国各地
米国各地

上記のコラムでもいくつか紹介しているが、米国では図書館に対して、「この本を置くな」と市民団体からクレームが寄せられたり、学校が指定する課題図書にも「こんな本を子どもに読ませるな」と保護者が噛みつくことがあり、これまでに数多くの本が禁書扱いされてきた。童話もご多分に漏れず、90年にはカリフォルニア州の2つの校区で『赤ずきん』の「子どもなのにワインを持っている」イラストが問題視されて禁書となった。

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