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"ラスボス"【小林幸子】の歌手としての意地「息継ぎのないボカロ曲で呼吸困難になりました」

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――日本の演歌界を牽引してきた小林幸子(60)が、今年、歌手生活50周年を迎えるという。今や、彼女の活動の場は、これまでの歌番組やコンサート会場のみならず、ニコ動やコミケにまで広がりを見せるが、実はアニメにも深い縁があった。

2011年11月の電撃結婚、そして12年の事務所騒動──。かつては芸能マスコミを賑やかしたこともあった、小林幸子。演歌に馴染みがない向きからすれば、こうした芸能ニュースのほかに、巨大な衣装で紅白に華を添えてきた大御所、最近ではニコニコ動画への投稿などがシックリくるだろう。さらに、今年8月には「コミックマーケット86」に初参戦、限定1500枚のボーカロイド曲カバーミニアルバム『さちさちにしてあげる♪』が即完売したことも話題となった。今や”リアルボーカロイド”としてもブレイクしている彼女だが、ちょっとした歌謡曲通であれば、覆面歌手としてアイフルのCM曲「お地蔵サンバ」を、そして『ポケットモンスター』や『クレヨンしんちゃん』などのアニソンを担当するなど、古い業界のしきたりにとらわれない幅広い活動が知られている。紅白の巨大セットによる威圧感により、ネット民から”ラスボス”とも称賛されている彼女が、小誌のアニメ特集に降臨……。数々の名曲を歌い上げてきたその口からは、一体どのような言葉が語られるのだろうか?

※※※

一見、アニメと演歌は無関係だと思われますが、小林幸子さんは1997年に『ポケットモンスター』(テレ東)のエンディングテーマ「ポケットにファンタジー」をはじめ数多くのポケモン関連の楽曲を、そして劇場版アニメ『クレヨンしんちゃん』では主題歌を担当しました。98年の『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』のエンディングテーマ「風といっしょに」は、NHK紅白歌合戦で披露したこともあります。

小林 『クレヨンしんちゃん』は存じ上げていましたが、ポケモンについては、製作の方からオファーを頂いた時は、まったく知りませんでした。もちろんそれから勉強しましたし、今では”世界のポケモン”ということも理解しています。そういえば、今年コミケに参加した時も、来て下さった方の中に「幸子さんの『風といっしょに』を聞いて育ちました!」とか、「私、『ポケットにファンタジー』をずっと聞いていたんです!」とか、涙ぐみながら話し掛けてくださる方もいて。

――ポケモンでいえば、中川翔子さんのエピソードも有名です。

小林 12年のポケモン15周年のイベントで、しょこたんと共演した時ですよね。目が合った瞬間にいきなり「神!!」って叫ばれた時はビックリしましたよ。その後、しょこたんが涙目で「映画第1弾で主題歌を歌った小林さんは、私の中で神的存在です!」って(笑)。

――何度聞いてもイイ話ですね。

小林 あとは『ダンガンロンパ』。

――え? あの『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』(TBS)ですか? 学園ミステリーゲームで、後にアニメ化された。

小林 そうそう。13年のお盆に放映(第4話)されたアニメのオープニング曲「モノクマおんど」を担当させて頂いたんです。たった1話だけの担当でしたが(笑)。もちろん『ダンガンロンパ』のことも知らなかったんですが、ファンの方からは「幸子さん、見ましたよ」って声をかけられましたよ。見てる人は見てるんですよね〜。

――たった1回のオープニングに小林幸子とは、贅沢すぎるというか、チャレンジングというか……。と、今ではアニメとの親和性の高いコミケやニコニコ動画など、急激に活躍の場が変わってきました。この影響なのか、ミニアルバム『さちさちにしてあげる♪』はコミケで即完売、アニメイトでの追加販売も予約段階で即完売。急遽決まった配信でも「iTunesアルバム総合ランキング」で10位、「dwango.jp アルバム総合デイリーランキング」で2位を記録するなど、話題を集めています。

小林 この反響には私自身とってもビックリしています。ボカロ曲には良い曲がたくさんありますし、もっといろんな方に知って頂けるとうれしいですよね。そもそもボカロ曲を歌うことになったのは、ニコニコ動画への出演がキッカケ。「ニコニコ超パーティー」や「ニコニコ超会議」へ出演させて頂いて、昨年のおおみそかには「ニコニコ年越し! 小林幸子カウントダウンLIVE」を開催しました。もちろん、初めは「ボカロって何ですか?」って感じだったのですが、いろいろ勉強する中で、興味を持つようになって。でも、実際に歌ってみると、ボカロ曲は元々PC上でサンプリングされた歌なので、生身の人間にとってはブレスする場所がなかったり、普通ではありえない音の動きをしたりするんです。

――ブレス……ですか?

小林 ボカロ曲って、私からすると信じられない音階やメロディーラインが出てくるんです。PCで作る歌だから、何でもアリじゃないですか? だからブレス(息つぎ)するところがなかったりするんですよ。それでも、私も一応プロとして「ここでは切れない!」と思って歌っていたら、呼吸困難になっちゃったりして(笑)。でも、歌っていて、とても楽しいです。

――なるほど。ご自身でもボカロ曲をよく聴いたりするんですか?

小林 聴いていますよ。先日のコミケの時も、即売会に並んでくださった方が、「こんなメロディーを作っているんです」って、自分が作った曲を持って来てくださって。”『蛍の光』のロックバージョン”とか、”100年後にはこんな『君が代』になる”とか頂いたんですけど、仕事の移動中に聞いて、「コレいいんじゃない!?」っていう曲もありましたよ。

――さて、先日のコミケには、一般サークル「5884(コバヤシ)組」として参加されましたが、歌手として揺るぎない地位を築いたものの、一般人、つまり素人の出展者に混じることに抵抗はなかったのでしょうか? 売名行為って話もチラホラありましたが……。

小林 抵抗はなかったですね。そういうイベントがあるという話を聞いて、モノ作りの原点に思えて、面白そうだからやってみよう、と。最初は名前を売るためだとか言われましたけど、以前からみんなが面白がっていることに興味を持つのが好きなんですよ。でも、とにかくものスゴい人で「どこからこんなに人が来るんだろう」って、SF映画を観ているようでした。10時から始まるので、私たちは9時入り。そんな私たちの目の前を、大勢の人たちが4列くらいになって、手を挙げながら通って行って。「何事だ!?」って思っていたら、コミケの主催者の方が「幸子さん大変です! 今通っていった人たち、みんな幸子さんのブースに来る人たちですよ!!」って。慌てて、私も(スタッフと)一緒になってCDを袋詰めしました(笑)。

――コミケっぽいですね〜(笑)。他ブースに行って挨拶する、いわゆる”ご近所回り”もされたんですよね?

小林 もちろん。向こう三軒、両隣のブースの方にご挨拶しましたよ。最初に「出店者は全員平等です」というルールを聞いていましたからね。それに客層が孫の世代というのも面白かったです。中には、数年ぶりに祖母から連絡があって、「サッちゃんの新曲買ってきて」って頼まれた方もいました。

――近隣さんはビックリしたでしょうね。会場ではコスプレをしている人も多数いたのでは?

小林 そうですね。男性も初音ミクちゃんの格好をしていたりして、盛り上がっていました。でも、ホントにアツイです! みなさん、好きでやっているのが素敵ですよね。コミケは、原点をきちんと思い出させてくれて、良いなって思いました。私のブースにもコスプレをしている若い男の子が来てくれて。「スゴく格好良いね!」って言ったら「ラスボスにホメられた!」って喜んでくれて。コスプレをしている方の間では、私の大きい衣装がコスプレの元祖というイメージもあるみたいです(笑)。

――小林さんのコスプレ、ぜひ見たいです(笑)。でも、ご自身としては”ラスボス”と呼ばれることに違和感はないんですか?

小林 はじめは”ラスボス”の意味も知らなかったんですけど、みなさんが面白がって言ってくださることは、いいなあと思っています。一緒に面白がらなくちゃ!

――そもそも「紅白」での豪華衣装はどうして生まれたんですか?

小林 みなさんがおっしゃる紅白での豪華衣装となると、85年に『夫婦しぐれ』を歌った時の”十二単”や91年に『冬化粧』を歌った際の(初の空中浮遊となった)”冬の鳥”あたりになるんでしょうね。実は私、大のアガリ症で。衣装を派手にして歌ったら、審査員の方がニコッと笑ってくださって平常心で歌えたんですよ。

――紅白33回連続出場の百戦錬磨でも、やはり緊張することはあるんですね。意外な”ラスボス”の原点を見ました。そんな幸子さんにとって今の音楽業界はどう映るのでしょうか。巷ではCDが売れないという悲鳴が、レーベルやアーティストから数多く聞かれます。

小林 10月からNOTTVで始まった『ボカロ生活(仮)』という番組の初回のゲストが(ボカロ曲を作る)八王子Pさんだったんですけど、「本当にこの10年間の音楽業界の様変わりはスゴい」という話になって。驚いてばかりもいられないんですけど、この世界も厳しくなっているのは事実ですよ。

――邦楽が苦戦を強いられる中、アニソンは好調だそうです。

小林 日本のアニメは世界中で高い評価を受けていますからね。こんなにスゴいことはないと思いますよ。今回、私がコミケに参加して話題になり、細川たかしさんとか三沢あけみさんとかから連絡がありましたよ、細川さんなんかは「サッちゃんは、今、一番活躍しているよ」って。そういえば「コミケって、私も出れるの!?」って聞く人がいましたね。でも、おそらくコミケのことは詳しくは知らないでしょうし、私と同世代の人に説明するのはちょっと難しいかも。アニメの主題歌を歌ったり、ボカロの曲を歌ったりしている私は、そういう方々からすると、ある意味で先駆者なのかな?(笑)

――「なんかわかんないけど話題になってる!」って印象なんでしょうね。さて、歌手生活50周年の集大成ともいえる日本武道館が11月17日には控えています。

小林 そうなんです。今は言えないのですが、日本武道館公演では、みなさんの期待している”大きなもの”もいくつか出そうと思っています。ニコ動さんの生中継もあるので、どんな反応があるのか、今から楽しみですよ(笑)。

(構成/編集部)

(写真/佐藤博信)

小林幸子(こばやし・さちこ)
1953年、新潟県生まれ。1964年6月にデビュー。言わずと知れた日本歌謡界の大御所。代表作は「おもいで酒」(79年)、「とまり木」(80年)、「雪椿」(87年)、「おんなの酒場」(11年)など多数。11月17日に『50周年記念 小林幸子in日本武道館〜夢の世界〜』が開催決定! ニコニコ動画では生中継も!! チケット料金:全席指定 アリーナ席9000円、スタンド席7000円 問い合わせ03-5366-3808

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