青い心臓の音
一人朗読・一人声劇(1:0:0)5分
少年から青年へ成長していく音楽が好きな男の子のお話。
(少年から青年へ声を変えていってください)
原案AL / 編集cyxalis
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君ってさ、体の中からロックなビートが聞こえたことはある?
飛んだり跳ねたり踊ったり、楽しそうかと思えば憎たらしく疼ずく音が体の中から聞こえるんだ。
聞こえない?おかしいなぁ。
無意識にしてしまうことってない?
君だって疲れたら足を組んでしまったり、困ったら頬をかいてしまったりするじゃないか。
僕はそれが態度だけじゃなくて、言葉にもでる。
体の中から音がするんだ。
虹をぴょんと飛んで、青い空をひょいっと乗り越えそうなくらい通る絶え間ない声が体の中からする。
それが無意識に僕を突き動かすんだ。
普段その音に身をあずけていると、とても良いことがある。
人間関係も仕事もうまくいくし、もう無敵なんだ。
でも……僕が疲れている時は、不穏なビートを奏でだす。
そして、疲れている時ほど不穏なビートだってことが分からないんだ。
疲れているからさ、気が付かないんだ。
ビートに従っちゃったことにも、口から不穏な言葉が飛び出したことにも、そして人から傷ついた音がしたことにも。
口喧嘩みたいなことをして、距離を取られて、逃げられて初めて気が付くんだ。
あ、僕ナニカやっちゃったんだって。
……最近ね、みんなの音は規則正しいんだなって分かってきた。
まるで心臓の音みたいに、とんとんとんって小さくて体の内側に収まっている。
友達はね、
「バンッって飛び出してることあるよ」
「いやもうはみ出ているね。」
「ジェットコースターのこの音が分からないの?」って言うけど、僕は気が付かないんだ。
みんな同じに聞こえる。
僕だけが独り、この憎たらしいビートを抱えている。
もし、友達が僕の音を聞いたらどう思うんだろう。
僕だけの音を知って欲しいようで、知って欲しくないよ。
ねぇ、聴いて!
これどう思う?
いま流行りの曲なんだ。
みんな格好良いって言っててさ。
……うん。でしょ。格好良いでしょ。
へへ……。
え?それ聞いちゃう?
まぁ……、僕の音みたいなんだこの曲。
憎たらしいビートにそっくりの曲がみんなに格好良いっていわれていて、嬉しかったんだ。
びっくりし過ぎて、自分が褒められたような気持ちになっちゃったくらい。
音楽ってすごいね。
みんなが音を作り出せるんだ。
僕だけに聞こえなくて、みんなが聞いている音を聴くことが出来る。
僕だけが知っていて、みんなが知らない音を共有することが出来る。
知らないナニカを、その音を知ることが出来る。
なんだかそれって、とても幸せなことだね。
音楽の編集ソフトがポンッと通知を出す。
ノートパソコンを見やると、新しく作曲した音楽のファイル化が済んだみたいだ。
このファイルをネットに上げる時が一番ドキドキする。
広大な海の上を飛んだり跳ねたり、果てのない青の先を臨むようにビートが僕の心臓を動かすんだ。
批判も評価も見るのが怖くなるくらいに、たくさんの人が聞いてくれたら嬉しい。
もちろん、みんなの音も聞きたい。
知らない音を知りたい。
でも、それ以上に僕の音を知って欲しい。
みんなが僕の音を聴いているってことが幸せなことだって、実感したい。
僕が生まれ持った音が、人を幸せにできるものだって確信したい。
しょっぱかったり、すっぱかったり、疼うずくような愛憎あいぞうの音を響かせたりするけれど、
僕の音はこんなにも青いからさ、一回聴いてよ。
青いのは関係ない?
そんなこと言わないでよ。青って素敵な色だよ。
僕の好きな色だ。
僕の曲を聞いたら青の良さが分かるよ。