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できそこないの祝杯

3〜5人声劇台本。フリー。
闇鍋お題企画参加
できそこない/祝杯/王/椅子/風鈴/透明
執筆: cyxalis

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登場人物

前王以外と兼ね役可
【新王】30代 5人子どもがいる。奥さんは元側近で食物流通科に勤めていた。

新王以外と兼ね役可
【前王】50代 最高判事相談係なんて珍妙な役をつくり引っ込んだ。死罪判決に関して無効権を持つ。撤回も可。

【ストライド・メリブマト (男爵) 】商人。他国出身。国教ではない宗教家。国内で信徒を増やしている。
【ヨーデル・ナッシュ (子爵) 】9〜18歳まで新王の側仕えとして任命され城にいた。18歳まで官吏の行儀見習いの仕事だった。昆虫が好き。
【フェリクス・ホーエナウ(伯爵)】 新王のいとこ。前王の妹の子ども。26歳。24歳まで身体が弱く登城できなかった。本人の弛まぬ努力により、官僚勤めは出来ないが側仕えを許された。成果が欲しい。

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新王「祝杯の準備をはじめたもう。」
  「前王よ、手伝ってはくれないか。」

前王「もう祝杯の暦か。めでたいことだ。そなたを誇らしく思う。しかし......最高裁判局相談係が忙しくてな。新王の好きになさりたまえ。」

(口調をかえる)

新王「父上、息子の相談係についてくださりませ。」

前王「いやじゃ、私は裁判局相談係をやる。」

新王「困ります。」

前王「誰が困るというんだ。君がか?冗談ばかり言うな。だれも困らん。好きにさせよ。」

新王「こんなときばかり、お年を理由になさる。」

前王「そんなこと一言も言っておらん。」

新王「では相談に乗ってくださいませ。」

前王「いやじゃ、私はただの爺さんだからの。」



(同日の昼。官吏棟の一室。祝祭科)

子爵「祝杯の儀のため、新王の祝福を受け新たに設立された祝杯科を始動させたもう。」
「今日という吉日を心よりお待ちしておりました。みなさま。手元の資料をご覧くださいませ。」

伯爵「ヨーデル・ナッシュ子爵、なぜ貴方が指示する。私が行う。」

子爵「おそれながら申し上げます。フェリクス・ホーエナウ伯爵様、ここではナッシュ卿とお呼びくださいませ。私もフェリクス卿とお呼びいたします。」

伯爵「ナッシュ卿。爵位は私が上。よってここは私が執り行う。」

子爵「フェリクス卿。爵位は確かに貴殿が上でございます。ですが官位をお持ちではありません。官吏の仕事は官吏が執り行う決まりです。」

伯爵「なれば私は何のためにここにいる。」

子爵「新王の側仕えのためです、フェリクス卿。貴方様なら新王に寄り添い支えられると前王が判断したのです。」

伯爵「前王が?嘘であろう。私は24まで身体が弱く登城できずにいた。叔父と甥の関係ではあるが、会ったことなど数えるほどだ。」

男爵「お話しのところ大変申し訳ございません。一つお伺いしたいことごございます。」

子爵「ストライド・メリブマト男爵。もちろんお答えしましょう。ですが会話の途中に割り込んではいけませんよ。お気をつけてください。」

男爵「ホーエナウ伯爵様は新王と従兄弟なのですか?」

伯爵「そうだ。私の母が前王の妹なのだ。ストライド卿、私のことは官吏のルールに基づき、フェリクス卿と呼ぶように。」

男爵「かしこまりました。フェリクス卿。」



(後日、執務室に隣接する休憩室にて)

前王「して、祝杯の準備はどうなんじゃ。」

新王「おや、手伝ってくださるので?」

前王「聞くくらいよかろう?手伝いはせぬ。」

新王「手伝いはしないのに話せとは……。何か代わりにしていただかないと割にあいませぬ。」

前王「官吏の仕事は手伝わぬ!私はただの年寄りよ。」

新王「私に5人子どもがいるのはご存知ですね?」

前王「あぁ。知っているとも。」

新王「お爺ちゃんとして会いに来てくださいませ。」

前王「なぜそうなる!?いやじゃ。」

新王「おや、先日にホーエナウ伯爵を憐れんでいらっしゃったのは嘘ですか?もっと会いに行けば良かったと。」

前王「……確かに。あとでまた思い悩むことじゃろうて。あー。まぁ、月に一度はそれぞれ会うこととしよう。」

新王「ではそのように、奥にも伝えておきましょう。お好きな時においでませ。」

前王「して、進捗はどうなのじゃ?」

新王「祝杯をガラス細工にしようという話になっております。こう、ちょうど風鈴を逆さにしたような透明で涼やかな色合いです。」

前王「ガラスもお椀の形も良かろう。だが涼やかな色合いでは威厳がない。なぜその色に?」

新王「案の持ち込みはメリブマト男爵なのですが。」

前王「なしじゃな。どうせ宗教絡みの形式だろうて。国の祝祭はその国らしさを感じるものでなくては。」

新王「ホーエナウ伯爵がどうにも肩入れしているようでして。」

前王「なんと伯爵が?」
(沈黙)「功の焦りか……だがこればっかりは聞いてやれぬな。」

新王「……色合いを側仕えの家紋色に致しましょう。男爵には家紋色か宗教色のどちらかを選ばせましょう。」

前王「ガラス工房を選ぶのは男爵であろう?工房に関しては彼が1番詳しいし仲が良い。すべからく宗教色で作りギリギリで持ってくるのではないか。」

新王「男爵が狙っていないとは言い切れませぬ。」

前王「それくらいなら、できそこないの祝杯の方がましよ。伯爵にガラス工房を作らせよ。ステンドグラスの祝杯にしたまえ。それを持って伯爵に花を持たせることとする。……あぁ、子爵に手伝わせよ。」

新王「子爵は優秀ですからね。祝祭に間に合うことでしょう。」
(沈黙)「なんだかんだ甥に甘くていらっしゃる。私には何もないので?」

前王「国の椅子をやった。相談に乗った。それが全てだ息子よ。」

新王「子どもを持つと、不思議と無性に親の愛が欲しくなるものでして……。どうぞ、孫たちに会いに来てくださいませ。もちろん私にも。」

前王「全く……、こうして夕食を共にしているだろう?なぜそうも要求が尽きぬ。」

新王「ここは執務室の横の休憩室にございます。意味合いが違います。」

前王「さてはて。」

新王「それに、欲しいものを欲しいと言ったまで。素直さが私の良いところにございます。」

前王「あいわかった!婆さんと共に訪ねばと思っていたところだ。さぁ、もうその口は閉じてしまいなさい。そして食べることに集中しなさい。が更けてしまう。早く寝なくては元気な顔を見せてやれぬだろう。」

新王「"余が老けてしまう"?」

前王「ばかたれ。ダジャレではない。」

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あとがき。

祝祭の後、伯爵が急遽工房で作らせたガラスの祝杯は、新規宗教の派閥と比べると拙いものだとマスメディアが騒ぎ立てました。

ですが、国に宗教関係なくガラス工房ができたのは初めてのこと。
さて……祝杯は本当に"できそこない"だったのでしょうか。

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