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サバゲーフィールドで近接航空支援を再現した話(MFE02)

 5月3日と4日に行われたミリシムイベントである「Milsim Far East (通称MFE)」に参加してきました。
 参加と言っても私は運営でも一般参加者でもなく、イベント中に行われる「近接航空支援の再現」という部分で協力させてもらいました。参加者からすれば影の舞台装置に過ぎないのですが、これまでの経緯とCASの再現という視点から見た今回のMFE02について忘備録的に書き留めてみます。

出発準備を整えるツワモノ達

MFEとは

 そもそもMFE、ミリシムとは一体何なのでしょうか?知らない方からすればサバゲーの延長のように思えるでしょうが、内容は全くと言っていいほど違います。ミリタリーシミュレーション、略してミリシムということで、軍隊の演習をそのまま再現したような内容になっています。似たようなイベントにリエナクトというものもあるようですが、こちらは多少のゲーム性はあるものの、歴史上の戦いを再現するために劇の要素が強めです。(間違ってたらスミマセン)

  • サバゲー: チームに分かれて勝敗を競う "ゲーム"

  • リエナクト: 歴史上の戦いを再現する"劇"に近い

  • ミリシム: 作戦立案、実行、評定なども含めた軍隊の考え方を体感する "仮想の演習"
    ※海外では単なるエアソフトの大規模イベントをミリシムと呼んでいる

 MFEはそんなミリシムを本格的に取り組んでみようという新進気鋭のイベントです。前身のメイソンロックから本格的なミリシムイベントに昇華して今年で2回目になります。
 イベントの数週間前に運営から状況や地図などが示され、各陣営の参加者はそれらをもとに分析し、作戦を立案して、当日の動きを決定します。各陣営には8名ほどの分隊が4-5つあり、それらをまとめる小隊長が現場の最高指揮官となります。現実さながらの軍隊構造を体感するため、参加者は規律に沿って行動し上官の指示に従います。撃てる距離に敵が居ようが、小隊としての任務にそぐわないのであれば射撃しない。サバゲーとは似ても似つかないということが分かるでしょうか。

部隊指揮官とJTACによる火力調整会議(状況1日目深夜)

今回の想定

 MFE02は前回よりもミリシムの要素が色濃くなったイベントでした。連続22時間の状況想定、任務の付与、B2iによる疑似バトラーの導入、ドローンや車両の投入、陣地構築、負傷と応急手当の再現、フライトシミュレーターとの連接など、より大規模かつ複雑になりました。
 参加者は普段サバゲーでは使わないであろうバックパックに2日間の食料、水分、弾薬、寝袋などを詰めて山に籠ります。事前のブリーフィングで示された展開位置に赴き、スコップで地面を掘って、土嚢で陣地を作り上げます。トラップや地雷も設置して敵の侵入を防ぎます。連続想定なので睡眠さえも山の中です。
 普通の人からすれば何が楽しくてGWに山の中で肉体労働しなきゃならないのか理解できないと思いますが、これがやりたくてたまらないヲタクが100人近く集まるわけです。

陣地を構築する参加者。これが後の寝床にもなる

MFEとの出会い

 私がこのイベントを知ったのはとあるツイートがきっかけでした。ちょうどJTACのnoteを書き上げて、TwitterでCASについてエゴサしていたときのことです。軍装に身を包み、CASカードと呼ばれる近接航空支援の情報を記入する小さなメモ帳を見ながら、なにやらゴニョゴニョと無線でやり取りをするサバゲーマーの動画を見つけたのです。一目でCASだと分かりました。 

Arma(歩兵シミュレーションゲーム)やフライトシミュレーターでCASを題材に遊んだことはありましたが、サバゲのようなイベントでも同様のことをしている人が居るというのは知りませんでした。
 聞くところによると、メイソンロック(後のMFE)というイベントでCASの再現に取り組んでいるとのことでした。そして参加者の方が参考にしていると紹介された資料の一つに、あろうことか私の知り合いが書いたArma向けのCASマニュアルがありました。世間って狭いですね。

 自分以外にもCASを真面目に調べている人が居るなら話してみたい、そしてできることならいつかこのイベントに参加してみたい。そのことをフラシム仲間に伝えたら、実際にそのイベントに参加している人と面識があるとのことで、しかもどういうわけか「参加じゃなくてお互いの得意分野を融合したらもっと凄いことができるのでは!」と勝手に盛り上がっていたのです。完全に浮かれています。
 確かにそんなことができたら夢のようですが、サバゲとフラシムには全くと言っていいほど接点がありません。しかも硬派なイベントにいきなり横から口出しして美味しいところだけ協力させてくれなんて虫が良すぎます。しかし、とりあえずメンバーが連絡してみるとのことで、私は半信半疑でそれを眺めていました。
 普通に断られてしまうだろうと思っていたのですが、なんと嬉しいことに承諾していただき、リアルなミリシムとバーチャルなフラシムの融合がここに誕生したのです。

MFE02で導入されたスゴクタカイドローンからの赤外線映像。

道程

 協力とは言うものの、無計画に打診したので具体的にどうするかは何も決まっていませんでした。それまでのメイソンロックでもCASを取り入れてはいましたが、フラシムを統合するとなると現地の参加者との連絡手段や着弾の判定など、問題は山積みでした。

 特に大きな問題となったのは "座標" です。日本国内で行われるミリシムなので、当然現地の座標を元に攻撃を要請するのですが、肝心のフラシム(FalconBMS)には公式の日本マップがありません。FalconBMSのゼロ座標を動かして、日本の座標を含めるようにすれば技術的には解決できるだろうと考えましたが、開催までには余裕がありませんでした。これが解決しないことには別々の座標を扱うことになるので、MFE01でのフラシムとの連接は見送りになりました。

 とはいえCASの再現には手を抜かずにやろうということで、それまで9-lineが中心だったCAS要請も、現実の手順と同じく、戦闘機が空域に進入してから離脱までの交信を目標にしたアップグレードが図られました。JTAC志願者には大幅な負担増を強いることになるのですが、事前練習会を設けて新しいCASの手順を習得していきました。

 MFE01当日、私たちは自宅でIP無線機を用いて現地のJTAC志願者とやり取りをすることになりました。フラシムとの連接ができていないので、実際には自宅で椅子に座りながらIP無線機に向かってパイロット役として喋るだけという、何とも絵にならない参加方法でしたが、頭の中にある将来のビジョンに向けたウォーミングアップとしては十分でした。

MFE01の記録

MFE02

 そして今回。かなりわがままなスタートを切ったMFEへの参加も2回目を迎えました。今年の目標は「FalconBMSとの連接」です。フラシム内の座標をずらして会場の座標をマップに含めれば、JTACから伝えられる座標をそのままフラシム内の戦闘機のシステムに入力できます。それだけでも十分だったのですが、フラシム仲間のひとりが即席で日本マップを作り上げ、会場の風景と座標をFalconBMSの中に生成したことで、フィールドの完全な再現が可能になりました。
 さらに別の電気タイプのヲタクがフラシムの無線システムにIP無線の信号を乗せる回路を設計し、戦闘機の操縦桿を模したコントローラーのスイッチを押せば直接IP無線の先のJTACと交信できるようになりました。これらによりノンストレスで協同できるようになったのです。

MFE会場(左)とFalconBMS(右)

 当日は両陣営合わせて計3回の航空支援が計画されていました。山口県岩国基地から米空軍第14戦闘飛行隊のF-16CM Block50戦闘機が2機発進し、開催地である岐阜県まで向かいます。戦闘機のエンジンスタートから行い、1/1スケールで再現された日本マップを実際に飛行します。当然、現実と同じだけの燃料を搭載し、現実と同じ距離を、現実と同じだけの時間を掛けて向かいます。これらは全てフラシムとの連接によって実現したものです。
 JTACとの交信も抜かりなく、米国防総省発行の近接航空支援マニュアルに基づいて全て英語で行われました。パイロットは、フラシム内に再現された岐阜県にあるフィールドを、戦闘機に搭載された目標指示ポッド(Sniper ATP)で確認しながら攻撃を行えるようになりました。

当日はこんな感じで参加してました

JTACとの交信の一部。これで全体の10分の1もない

 パイロットは戦闘機を操縦しながら無線を聞き取り、JTACから送られてきた座標を戦闘機のシステムに打ち込んで、攻撃方法や目標の種別を確認する。交信が終わったら旋回して投下へ向かいます。

 現地の参加者への被弾判定はどうでしょうか?実は運営側がこのやり取りを傍受していて、正しく座標の伝達が行われていると判断したら、今度はそれをマップアプリに入力します。このマップアプリというのは本物のJTACや特殊部隊が用いているものの民間版で、参加者全員が手持ちのスマホにインストールしています。運営はそれで各参加者の位置をリアルタイムに監視し、攻撃座標から半径~メートル内にいる参加者に対して爆撃の被弾通知を送ることができるのです。同じくして現地に複数いる判定員が当該座標で爆竹などを炸裂させて爆撃の現示をします。

本演習の心臓部。ここからMFEのすべてを制御する

おわりに

 昨年から大幅に進歩したMFEとFalconBMSの融合ですが、これで終わりではありません。まだ構想段階ですが、更なるブラッシュアップとアップデートと、進化したミリシムの実現に向けてできることはたくさんあります。
 技術面以外にも、近接航空支援についての正しい理解を広めるという課題もあります。実際のCASは、数多くの情報伝達と確認作業を要するため、ゲームや映画のようにスピーディーにはいきません。これは、実際の軍隊の考え方や手順を実践するミリシムでも同じです。JTAC志願者はもちろん、CASの要請を決定する部隊指揮官や分隊長などのCASに対する理解を深めることは、効率的な意思決定と効果的な作戦立案に寄与するはずです。

CASの計画を立てるJTAC

 かれこれArmaを10年近くプレイし、今ではフラシムを用いて米空軍の航空作戦の戦術の探求を行う遊びをしている身としては、ミリシムは思想的に近く、親和性も高いです。数年前まではこんなイベントがあることさえ知らなかった私ですが、こうして日本最大級のミリシムイベントに協力させて頂けているということは趣味冥利に尽きます。機会を与えてくださった運営の方々をはじめ、JTAC志願者や参加者の方々、本当にありがとうございました。次の機会にお会いしましょう!


追記

 近接航空支援とは関係ないですが、たくさんの写真、動画、ツイートから当日の様子が感じ取れました。「サバゲでは使わないけど…」って思いながら買った装備を引っ張り出して、ドーランを思い切り塗って、そういったコレクター的アイテムが光を浴びる機会って準備の段階からワクワクしますよね。
 当日も数々のドラマがありつつ、睡眠不足と疲労でクタクタになりながらも、やり終えた後の写真に映る表情が本当に楽しそうで楽しそうで。私も装備系サバゲーマーの端くれではあるので、早いうちに現地に足を運ばないとと改めて感じました。そのときは皆さんお手柔らかにお願いします。

運営本部に映し出されたFalconBMS (マウスパッド…)


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